A13 ともすると同じ事業所の部門間の取引なので、「内部取引」を計上しなかったりすると、適正な売上げの算出ができなくなるため、正しい工賃の支払いができなくなります。「同じ会社の内部のことだから」とか、「部門間の取引で代金を支払うのはおかしい」などと言わず、以下の説明を読んでみて下さい。
仮に、就労支援事業として「飲食店」と「パン屋」の事業をしている場合を考えてみます。「飲食店」事業では、メニューの一部に「パン屋」事業で製造したパンを提供しています。「パン屋」事業は、自社工場で製造して、一部は自社の店頭で販売し、残りの一部は「飲食店」事業に卸しています。
「飲食店」事業へのパンの卸は、同じ会社内での取引であるため、代金決算は一切行っていません。それに関する会計上の処理も一切行っていません。
今期の収支は以下のようになりました。
《飲食店事業》
売上高 1,000円
諸経費 800円
利 益 200円
《パン屋事業》
売上高 600円
諸経費 800円
利 益 △200円
なぜ飲食店事業はこんなに利益を出しているのに、パン屋事業は赤字なのでしょうか。パン屋事業から飲食店事業にパンの卸を会計上全く何の処理も行わないとこうなります。
つまり、飲食店事業はパン屋事業からのパンの仕入れを経費として処理していないため、利益が過大となっています。一方で、パン屋事業は飲食店事業へのパンの卸売上げを処理していないため、赤字になっています。いずれも適正な収支計算とは言えません。
ではこれを適正な収支計算にするためにどうすればいいか。そこで登場するのが、「内部取引」という概念です。この「内部取引」をそれぞれに当てはめると…
飲食店事業:パン屋事業からパンを仕入れた⇒内部仕入
パン屋事業:飲食店事業にパンを販売した⇒内部売上
それぞれの部門の取引として会計上処理をします。そうすれば両部門の収支は正しく反映します。
パン屋事業の部門から飲食店事業部門に200円分のパンを卸していたということにすると、具体的な会計処理は以下のようになります。
《飲食店事業部門》
(借方)仕入 200円/(貸方)本支店勘定 200円
《パン屋事業部門》
(借方)本支店勘定 200円/(貸方)売上 200円
「内部取引」をした場合、その取引相手科目としては「本支店勘定」という科目を使います。しかし、必ずしも「本支店勘定」という名称でなくても構いません。例えば飲食店事業部門では「パン屋勘定」、パン屋事業部門では「飲食店勘定」でもいいです。
この「本支店勘定」は、損益ではなく、貸借対照表上の科目として処理するものです。
上記の処理後、損益は以下のようになります。
《飲食店事業》
売上高 1,000円
諸経費 1,000円
利益 0円
《パン屋事業》
売上高 800円
諸経費 800円
利益 0円
「内部取引」を正しく会計処理した結果、各部門の損益はトントンであったということになります。
この「本支店勘定」は会計上いつまでも残しておくわけにはいきません。決算の際、各部門を総合計しますと、借方と貸方の「本支店勘定」は、必ず同額になります。もしならなければ、会計処理が間違っていることなので、その間違いは解明して修正しなければなりません。それぞれ同額の勘定のマイナスを消し、決算上は見えないようにします(「本支店勘定の相殺消去」)。