カサンドラ症候群について

  はじめに

カサンドラ症候群は、アスペルガー症候群のパートナーや家族との関係をうまく構築できず、定型発達の人に不安や抑うつの症状が出ることです。ここでは、カサンドラ症候群の特徴や原因、なりやすい人の傾向、治療や相談先について説明します。

①カサンドラ症候群とは?

カサンドラ症候群は、夫や妻、あるいは家族がアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害またはASD)のため適切な意思疎通を築くことができず、精神的・肉体的な症状を表すものとされています。カサンドラ症候群は精神疾患の疾患名ではありません。対人関係により心身症状が生じている状態を指す言葉です。また、アスペルガー症候群という名称も現在は使用されておらず、自閉症スペクトラム障害(ASD)に包含されています。
②カサンドラの名称の由来
カサンドラとは、ギリシア神話に登場するトロイの王女の名前です。太陽神アポロンから未来予知の能力を授かりましたが、その能力でアポロンに見捨てられる未来を予知したカサンドラはアポロンの愛を拒絶し、アポロンの怒りを買ってしまいます。そして、「カサンドラの言うことを誰も信じない」という呪いをかけられてしまいます。こうして、カサンドラは真実を伝えても、人々から決して信じてもらえなくなってしまったのです。このようなカサンドラの境遇と、身近なアスペルガー症候群の人と適切なコミュニケーションを取れずに苦しむ様子を重ねて「カサンドラ症候群」と呼ばれています。

  カサンドラ症候群の特徴

カサンドラ症候群は正式な疾患名ではないため、この症状があればカサンドラ症候群という診断基準はありません。しかしながら、イギリスの心理カウンセラーでカサンドラ症候群に関する書籍を多く出版しているマクシーン・アストン氏によると、カサンドラ症候群の要素として以下の3つを挙げています。

少なくとも1人のパートナーがASDの特性によって心の知能指数が低い、もしくは失感情症の障害がある
パートナーとの関係性において、感情的な交流の不足による対立や精神的、身体的な虐待、人間関係における不満がある
精神的、身体的な症状が見られる 上記の3の精神的、身体的症状例は、以下の通りです。
・抑うつ
・自己肯定感の低下
・不眠
・無気力
・頭痛
・孤独感
・不安障害(パニック発作)
・体重増加(もしくは体重減少)
・情緒不安定
・動悸、めまい
・罪悪感
・自己喪失感

  カサンドラ症候群の原因

アスペルガー症候群はコミュニケーションに波があるため、会話自体は普通にできても、その発言の意図が読み取れないことがあり、相手が傷つくとは思わずに失礼なことを言ってしまう傾向があります。こういったコミュニケーションの困難を常に受け止めているパートナーや家族が、意思疎通がうまくできないストレスや他者に理解してもらえない孤独感を抱き、カサンドラ症候群につながってしまうと考えられています。具体的な例として、以下のようなケースが考えられます。

①うまくコミュニケーションが取れない例

アスペルガーの夫が、自分の好きなことは率先してやってくれるのに、家事を手伝ってとお願いするとあからさまに不機嫌な態度になり、時には怒りだす。障害によるものだと分かってはいるが、自分勝手な態度にイライラする。

②周囲から共感してもらえずにストレスが溜まる例

友人と食事に行き、パートナーへの不満を打ち明けたところ、「優しいところもあるし、そんなにコミュニケーションが取れない人には見えない」などと言われ、つらさを理解してもらえない。誰に話しても親身になって聞いてくれず、孤独感が募る。

  カサンドラ症候群になりやすい人の傾向

〇男性より女性のほうがなりやすい

女性のほうがカサンドラ症候群の割合が多いと言われています。これは、そもそもASD(自閉症スペクトラム障害、アスペルガー症候群)の発症が男性に多いためといえます。しかし、女性だけがカサンドラ症候群になるわけではなく、男性の発症例もあります。

〇献身的な人がなりやすい

カサンドラ症候群になりやすい人は以下のような性格を持つ方が多いようです。
・真面目
・几帳面
・我慢強い
・面倒見が良い
スペルガーのパートナーが自分に対してひどい発言をしたときも我慢してやり過ごし、他の人に失礼なことを言ってしまったときには代わりに謝ってその場を丸く収め、「絶対に見捨てない、見放さない」という思いが強くなってしまうと、その関係性が固定化してしまい、気づいたときにはカサンドラ症候群の心身の不調に悩まされてしまいます。

  カサンドラ症候群が起きる関係性

カサンドラ症候群は家族やパートナーに起きるとされていますが、他にも以下のような関係性の場合に発症の可能性が高いようです。
・職場の上司と部下の関係
・日常的に一緒にいる友だち
・先生と生徒 カサンドラ症候群は、ASDの人が社会生活上の役割を果たさずに済む家庭内で多く見られる症状ですが、家庭以外でも日常的にコミュニケーションを取る関係の場面で発症する可能性があります。

  カサンドラ症候群の問題点や離婚

カサンドラ症候群は精神疾患として診断基準があるわけではないため、公的な支援や周囲の理解において問題点があります。

①支援が難しい

いくら家庭生活において支障が出ていたとしても、社会生活において問題がなければ支援を求めても受けられない場合があります。アスペルガー症候群だと診断を受けていれば様々な支援を受けられる可能性もありますが、あくまでもそれはアスペルガーを抱える本人に対する支援であることが多いのが実情です。

②離婚問題

アスペルガー症候群の配偶者を持つ人で離婚を考えている人は多いはずです。気難しさや、コミュケーションの問題は、アスペルガーの特徴であって本人に悪気があるわけではありません。そのため離婚に踏み切れない場合も多いはずです。

③他者から理解されにくい

アスペルガー症候群だったとしても、会社などでは問題なく仕事ができていて、他者から理解されにくいケースが多いです。また、夫婦間でコミュニケーションがとれないことは、通常の夫婦でも起こることなので理解してもらえないことがあります。

  カサンドラ症候群を予防する対処法

カサンドラ症候群にならないようにするためには、以下のような対処法を意識して生活することが重要です。

①ASDの特性を理解する

カサンドラ症候群の人に対処するためには、まずパートナーの特性をしっかりと理解する必要があります。ASDの症状を理解することで、妥協すべきポイントや調整すべきことが見えてきます。注意点として、ASDの特性を勉強したからと言って、それをパートナーに押し付けたりするのはやめましょう。あくまでも共通する特徴なだけで、それぞれの特性の強さも頻度も異なります。ベースとしてASDの特性を学びつつ、パートナーの特性と照らし合わせ、その人にあった対応をすることが重要です。

②どうしても理解できないことは割り切る

アスペルガー症候群の人は、他者の気持ちを読み取るのが難しいので、他の人と同じことを求めたりしないことが大切です。どうしても理解できないことは、割り切って考えるようにしましょう。

③ルールをつくる

相手に干渉しすぎるとかえってストレスを感じさせてしまいます。ただ見捨てるわけではなく、夫婦での時間などメリハリのあるルールがあるとうまくいくこともあります。ルールを作る際には、なぜそのルールが必要なのかをなるべく具体的に伝えるようにすることで反発を防ぐことができます。

④会話への配慮

アスペルガーの人は、人との会話が苦手なため横に座って会話する(対面しない)ことによって、集中して話を聞いてもらえます。また、可能であれば図やイラストを使いながら話すと、より理解しやすいはずです。

⑤距離を置き、医療機関などに相談する

交際しているから、結婚したのだから、お互いに支え合わないといけないと考えてしまうと、精神的・身体的にもストレスを抱え込んでしまいます。別居や住環境の変更など物理的な接触回数を減らしてみることも、関係性を変えるきっかけになり、時にはパートナーの自立が促される事もあります。また、共通の知人や医師など納得のいく第三者を入れての話し合いやカウンセリングをすることも有効です。

  カサンドラ症候群の相談先

カサンドラ症候群は正式な疾患ではないですが、発達障害者支援センターや精神科・クリニックで相談することができます。

①発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、発達障害の早期発見・早期支援を目的としてサポートを行う施設です。発達障害の診断を受けていない方でも相談可能で、例えば家族に発達障害者がいる場合の接し方などを相談することができます。相談は無料で、必要であれば医療機関などを紹介してくれます。パートナーと一緒に相談に行ってみるのも良いでしょう。

②発達障害を扱う精神科・クリニック

精神科やクリニックを受診することも選択肢のひとつです。特に、心身の不調がひどい場合は発達障害者支援センターよりも精神科の受診を優先したほうが良いでしょう。精神科やクリニックでは薬物療法も可能なため、うつや不安の症状を緩和しつつ、パートナーとの向き合い方を考えることができます。しかし、薬物療法はあくまでも対症療法であり、症状の根本的な原因の改善ではないので注意しましょう。カウンセリングや認知行動療法を並行して行うことが多いようです。

  最後に……

カサンドラ症候群は知名度も低く、周囲の人から理解をしてもらいにくい症状です。パートナーと向き合い、互いに理解をしながら解決していくことが望ましいですが、心身の不調がつらい場合は無理をせずに公的機関や医療機関を頼るようにしてください。もちろん、ASDの症状を抱えている本人も生きづらさを抱えています。相手を責めすぎてしまうことのないように注意しながら、お互いに理解を深めていく姿勢が大切です。





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