病弱・身体虚弱
病弱とは、心身が病気のため弱っている状態をいいます。また、身体虚弱とは、病気ではないが身体が不調な状態が続く、病気にかかりやすいといった状態をいいます。いずれも医学用語ではなく、常識的な意味で用いられています。これらの言葉は、このような状態が継続して起こる、または繰り返し起こる場合に用いられており、例えば風邪のように一時的な場合は該当しません。重要なのは、これらの言葉は特定の病気や障害を指す言葉ではなく、何らかの原因によって体が弱っていたり病気にかかりやすくなる状態を指す言葉であるということです。
病弱や身体虚弱という言葉は年齢などに関係なく、広く一般的に使われる言葉ですが、特に教育的配慮や支援が必要なこどもを対象に用いられることが多いようです。学校教育法施行令第22条の3では病弱者について以下のように定義されています。
1 慢性の呼吸器疾患、腎臓疾患及び神経疾患、悪性新生物その他の疾患の状態が継続して医療又は生活規制を必要とする程度のもの
2 身体虚弱の状態が継続して生活規制を必要とする程度のもの
この内「生活規制」とは、健康状態の回復・改善を図るため、歩行や入浴、趣味や学習といった日常での活動や運動および食事の質や量について、病状や健康状態に応じて配慮することを意味しています。
病弱・虚弱な人で法的支援が整備されているのは、児童福祉法の規定に基づく小児慢性特定疾病や身体障害者福祉法の規定に基づく内部障害に該当する疾患です。小児慢性特定疾病とは、治療が長期間にわたり、医療費の負担も高額となることから、その治療の確立と普及を図り、患者家庭の医療費の負担軽減を目的として、医療費の自己負担分を補助する対象の疾患です。対象年齢は、18歳未満の者で、引き続き治療が必要であると認められる場合は20歳未満です。
平成30年4月時点、16疾患群(756疾病)が対象であり、疾患群は、悪性新生物、慢性腎疾患、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、内分泌疾患、膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性強皮症(SSc)、多発性筋炎・皮膚筋炎、リウマチ性多発筋痛症(PMR)など)、糖尿病、先天性代謝異常、血液疾患、免疫疾患、神経・筋疾患、慢性消化器疾患、染色体または遺伝子に変化を伴う症候群、皮膚疾患、骨系統疾患、脈管系疾患があります。
また「その他の疾患」には、多くの疾患が含まれます。例えば、糖尿病等の内分泌疾患、再生不良性貧血、重度のアトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患、心身症、うつ病や適応障害等の精神疾患、高次脳機能障害などがあります。
これらの疾患に罹患した学生の中には病気に起因した問題を成人の年代まで持ち越す、いわゆるキャリーオーバーの状態になっている人がいます。また、未だ特定疾病には入っていない数多くの小児慢性疾患もあります。
近年は、原因ははっきりしないが病気にかかりやすい人、頭痛や腹痛などいろいろな不定の症状を訴える人などが増えてきていますが、これらも身体虚弱の概念に含めて捉えられるようになってきました。また、元気がなかったり、病気がちで学校の欠席が多かったりするような場合には、医学的にその原因を調べ、健康回復のための医療があまり必要でない場合も、身体虚弱として取り扱うようになってきています。
病弱や身体虚弱は一つの病気の名前ではなく、先天的あるいは後天的な多種多様な病気を原因として引き起こされるものです。その原因となる疾患についても、不明か、またはわかっていても完全に回復させることが難しく、症状を緩和することを目的とするため、治療が高度化・長期間化することが多くあります。
これらの疾病や疾患による進行状態を以下のように分類することができます。
・回復型:病状が徐々に回復する。
・並行型:病状の変化が見られないか、または回復まで相当期間を必要とする。
・進行型:現状の医療では、進行を止めることが難しい。
・間欠型:発作時は重症であるが、おさまれば平常の生活となる。
・虚弱型:疾病はないが、特別の強化生活を必要とする。
・精神神経型:精神又は神経上の対応を必要とする。
・不登校型:学校へ登校しない又はできない。
・重複障害型:上記の類型に他の障害を併せもつ。
・重心型:重複障害型のうち、特に重度の知能障害と重度の肢体不自由を併せもつ。
病弱・身体虚弱の児童生徒の教育に関しては、症状に応じて、また病院に入院している間や退院後にも学習が途切れないように、様々な教育の場が用意されています。
一般の学校で他の児童生徒と一緒に学ぶ場合、教室の座席配置、休憩時間の取り方、体育等の実技における配慮等の指導上の工夫や、体調や服薬の自己管理を徹底するなど、教育における合理的配慮を含む必要な支援をするなど、こども一人ひとりの教育的ニーズを踏まえ、健康面や安全面等に留意しながら指導しています。
通級では、各教科等の大部分の授業を通常の学級で学び、指導上の工夫や個々に応じた手立て、教育における合理的配慮を含む必要な支援を受けながら、一部の授業について、障害による学習上または生活上の困難を主体的に改善・克服するために、例えば、健康状態の回復・改善や体力の向上、心理的な課題への対応などのための自立活動の指導をしています。
入院中のこどものために病院内に設置された学級や、小・中学校内に設置された学級もあります。病院内の学級では、退院後に元の学校に戻ることが多いため、在籍していた学校と連携を図りながら各教科等の学習を進めます。入院や治療のために学習が途切れている場合には、必要に応じて指導内容を精選して指導したり、身体活動や体験的な活動を伴う学習では、工夫された教材・教具などを用いて指導したりしています。
特別支援学校(病弱)には、一般的に小学部、中学部及び高等部が設置され、一貫した教育が行われています。病気等により、継続して医療や生活上の管理が必要なこどもに対して、必要な配慮をしながら教育を行っており、病院に隣接または併設されている学校が多くあります。また、学校と離れた病院においても、病院内に教室となる場所や職員室等を確保して、分校または分教室として設置したり、病院・施設、自宅への訪問教育を行ったりしています。
また治療等で学習空白のある場合は、グループ学習や個別指導による授業を行ったり、病気との関係で長時間の学習が困難なこどもについては、学習時間を短くしたりするなどして柔軟に学習できるように配慮しています。また健康の維持・管理や、運動制限等のために、自宅等から通学し学習をするこどももいます。
病弱・身体虚弱の疾患の中には、身体の体力が著しく衰えることで日常生活のほとんどの動作ができなくなるものがあります。しかしこの病気の理解されにくい部分は、その症状は数週間安静にすることである程度回復し、その後しばらくは元気に活動することができるということです。そのために周囲からは「怠けているだけ」とか「休みたいだけ」、「気持ちの問題だろう」などと、間違って理解されることが多くあります。
また、病弱・身体虚弱の疾病・疾患の中には未だ原因がはっきりせず専門の医師ですら把握できていない病気も数多く存在します。そのために間違って診断されたり、理不尽な対応を受けたりするなど、病気に対して正しい理解が浸透していないのが現状です。
Q&A(クリックすると記事が見えます)
Q1 病弱・身体虚弱の人に接するときに理解しておくことはどんなことですか?
Q3 病弱・身体虚弱の主な疾患の中で、病弱教育の対象として比較的多くみられる疾患を教えてください。