A型事業所も対象となる省力化投資促進プラン

・はじめに

障害福祉事業主の悩みといえば、やはり人手不足や業務負担の増大で日々やりくりされていることがまず挙げられます。障害福祉分野では、有効求人倍率が高い水準で推移し続け、125.2万人の福祉・介護職員の確保が喫緊の課題となっています。
政府は2025年から2029年までの5年間を「省力化投資集中期間」と位置づけ、障害福祉分野の中小企業・小規模事業者向けに支援策を打ち出しました。この機会に活用すれば、人手不足解消と生産性向上の両方を実現できる可能性がでてきます。

1.なぜ今、障害福祉分野の省力化投資か

深刻化する人手不足

障害福祉分野の人材確保は年々困難になっています。有効求人倍率は相対的に高い水準で推移しており、障害福祉サービス利用者数が増加する中で、現場では慢性的な人手不足が続いています。
一方、中長期的には更に労働制約が高まり、現在の人員配置状況よりも少ない職員配置でのサービス運営が必要となることも想定されます。「人を増やす」だけでは解決できない構造的な課題もあります。
政府はこの状況を重く受け止め、2025年から2029年までの5年間を「省力化投資集中期間」としました。この期間中、概ね60兆円程度の生産性向上のための投資を官民で実現することを目標としています。
さらに、「2020年代に最低賃金1500円」という政府目標の達成に向けて、障害福祉分野においても持続的な賃上げを実現するための環境整備が進められています。

2.障害福祉事業の現状分析

業界全体の課題把握

障害福祉サービス事業所は、小規模事業所の割合が高いという特徴があります。例えば、居宅介護事業所は22,551箇所、放課後等デイサービスは22,416箇所など、多様なサービスが全国に展開されています。
しかし、これらの事業所の多くは、介護分野同様にICT(情報通信技術)活用やデジタル化が十分に進んでいないのが現状です。現在、ICT活用等により業務量の縮減を行う事業所は32.3%にとどまっています。

成功への転換点となる省力化レベル

政府は障害福祉サービス事業所等における代表的な業務を10業務に分類し、各業務における省力化の取組を3段階で評価する「省力化レベル」を設定しました。

レベル1(平均的な事例)。基本的なICTツール導入
レベル2(ベンチマークとなる事例)。複数のICTツール活用
レベル3(目標となる優良事例)。業務プロセス変更を伴う包括的な取組

実際の効果測定では、見守りロボットの導入により業務にかかる時間が全体として60.2分/日削減されたという具体的なデータも示されています。

3.省力化投資の具体的手法

a.直接処遇業務の効率化・質の向上

ICT・ロボット技術の活用

見守り支援機器の導入については、令和6年度の報酬改定で夜勤職員配置体制加算要件が緩和されました。これにより、機器を活用した効率的な支援が評価される仕組みが整備されています。
社会福祉法人スプリングひびき(佐賀県佐賀市)では、介護ロボットの積極的な導入により、身体的な負担を理由とした離職者が5年間で29.4%から0%まで減少するという劇的な改善を実現しています。さらに、定年後に勤務内容の変更なく継続を希望するスタッフが43.6%から73.8%へ増加しました。

音声入力・記録システムの導入

社会福祉法人京都ライフサポート協会(京都府京田辺市)では、ICT活用と職員の好待遇を両輪として、生産性向上と質の高い福祉の両立を実現しています。介護記録ソフトの導入や見守りシステムの活用により業務効率化を推進し、正規職員7割超、社会福祉士の初任給29.3万円、一般職員の平均年収500万円以上という好待遇を実現。離職率は20年間で3.1%にとどまっています。

b.間接業務の負担軽減

デジタル化による業務効率化

記録・文書作成から報酬請求まで一気通貫のICTシステム導入により、AI を活用した音声による情報の入力や、情報の転記や実績の入力など事務作業を効率化し、間接業務時間を削減できます。

手続負担の軽減

政府は障害福祉分野における手続負担の軽減を図る観点から、指定申請及び報酬請求関連文書について標準様式及び標準添付書類の使用を基本原則化しました。令和8年4月から施行予定で、事業者の負担軽減が期待されます。

c.革新的な取組事例

AI・生成AI活用の最前線

株式会社パパゲーノ(東京都)では、生成AIを脳の機能障害を補う「社会資源」として活用し、環境調整により障害当事者が自分でできることを増やす事例を創出しています。
障害のある方の活用例として、解離性同一性障害や学習障害で漢字が理解しにくい方が作業画面やマニュアルをひらがなに変換して働いたり、確認不安が強く何度も質問を繰り返し作業が進まなかった方がAI支援員で疑問を解消し活躍できるようになったりする事例があります。
支援者の活用例では、業務のマニュアルを読み込ませて「AI支援員」を作ることで簡単な質問対応はAIに任せて個別支援に集中できるようになったり、面談や電話、ケース会議の音声を録音するだけで支援記録が自動生成できるようになっています。

4.利用可能な支援策

a.投資補助・金融支援の活用

専門的補助金制度

障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(令和6年度補正予算:9.4億円)では、職員の業務負担軽減や職場環境の改善に取り組む障害福祉事業者が介護ロボット・ICTを複数組み合わせて導入する際の経費等を補助しています。
補助率は国1/2、都道府県・指定都市・中核市1/4、事業者1/4となっており、事業者の負担を軽減しながら先進技術の導入を支援しています。

業種横断的支援制度

中小企業省力化投資補助金については、就労継続支援A型における生産活動も対象となることが明確化される予定です(調整中)
IT導入補助金の活用事例として、東北福祉ビジネス株式会社(宮城県仙台市)では、パソコン1~2台ずつ(計6台)、タブレット端末を各事業所に2台ずつ(計10台)、オンライン会議システム、通信環境を良好にするためのVPN接続機器などを設置し、オンライン療育の実現や業務効率化を図りました。

b.自治体による独自支援

先進自治体の取組例

各自治体でも独自の支援体制を構築しています。

  • 北海道:北海道障がい福祉サポートセンターを設置し、2名体制で運営。
    令和6年度には29事業所からの相談に対応
  • 宮城県:業務改善担当3名体制で10事業所への支援を実施
  • 東京都:5名程度の体制で40事業所程度への支援を実施
  • 長野県:介護・障がい福祉生産性向上総合相談センターを設置し、
    2名程度の体制で17事業所への支援を実施

c.協働化・M&A支援

経営基盤強化への支援

障害福祉サービス事業所等については、小規模事業所の割合が高いため、経営の効率化・安定化を図る観点から協働化の推進が求められています。
令和6年6月には、円滑な吸収合併等が実施可能な環境整備の観点から、障害福祉サービス事業所等の吸収合併等に伴う事務の簡素化を実施するための事務連絡が発出されました。これにより、指定申請時の書類簡素化やサービス等利用計画の変更不要化などが図られています。

5.成功企業の実践事例から学ぶ

総合的DX戦略の成功例

社会福祉法人ぷろぼの(奈良県奈良市)では、デジタル化による業務効率化(量的)と人財育成で福祉支援の向上(質的)を両輪としたDX戦略を展開しています。福祉支援の現場のデータをAIなどで業務の自動化とデータ活用の基盤にトータルシステムの構築運用を行い、人材や資源を有効に活用して将来性があり魅力的な障害福祉分野の創造に取り組んでいます。

教育・研修の効率化事例

社会福祉法人一燈会(神奈川県開成町)では、翻訳字幕付きのオリジナル研修システムを開発し、座学28時間、実技11時間、法定研修21時間の研修を動画を活用して実施しています。教育の標準化を図るとともに、外国人職員も含め、効率的・効果的な研修を実現し、外国人職員の受講者数は令和6年度で23名となっています。

社会的価値の可視化事例

デコボコベース株式会社(東京都他)では、自社の障害福祉サービス等の事業が解決する社会課題や社会的価値を可視化する「インパクト測定・マネジメント」への取組を事業活動の指標に据えています。子どものコミュニケーション力が向上する(81.2%)、セルフケアができる(81.6%)など、発達障害のある子どもと大人及びその家族にとって望ましい状態の実現に向けた効果測定を実施しています。

6.実践的導入ガイド

段階別導入

第1段階:基盤整備(導入初期)

まずは業務プロセスの見直しから始めましょう。現状業務の標準化を図り、Wi-Fi環境整備などICT導入の前提条件を整備します。同時に、職員のデジタルリテラシー向上のための研修体制を構築することが重要です。

第2段階:部分導入(効果実感期)

基盤が整ったら、効果の見えやすい分野から導入を開始します。記録・文書作成のICT化による音声入力システム導入、インカム・チャットツールによる職員間連絡の効率化、見守り支援機器による夜間巡視業務の効率化などが効果的です。

第3段階:統合システム(最適化期)

部分導入で効果を実感できたら、記録から報酬請求まで一気通貫のシステム導入、業務改善のためのデータ分析基盤構築、生成AI等最新技術の活用へと発展させていきます。

投資対効果の測定方法

定量的効果測定

見守りロボット導入による60.2分/日の業務時間削減実績のように、具体的な数値で効果を測定するようにしてください。離職率改善による採用・研修コスト削減、ICT活用による各種加算要件クリアなども重要な効果指標です。

定性的効果測定

数値だけでなく、職員満足度向上(身体的負担軽減・業務効率化)、サービス品質向上(直接ケア時間の増加)、利用者満足度(より質の高いサービス提供)なども併せて評価することが重要となります。

失敗を避けるポイント

成功事例から学ぶ重要なポイントは、現場職員の巻き込みです。トップダウンではなく現場参加型で導入を進め、一度に全てを変えずに段階的に拡大していくこと、そして導入後の効果測定と継続的改善サイクルを回すことが成功の鍵となります。

7.2029年に向けた行動計画

政府目標とKPI

政府は明確な目標設定を行っています。

2026年中間目標

ICT活用等により業務量の縮減を行う事業所。32.3%→50%
都道府県ワンストップ窓口設置数。4箇所→10箇所以上
有給休暇が取得しやすい環境整備を行う事業所の割合。80.9%→85%

2029年最終目標

ICT活用等により業務量の縮減を行う事業所。90%以上
都道府県ワンストップ窓口設置数。47箇所(全都道府県)
資格取得や専門性向上の支援を行う事業所の割合。95%以上

年次別行動計画

2025年(準備・基盤整備年)

省力化投資促進プラン策定・周知、標準様式等使用基本原則化準備、各種補助金申請・活用開始の年です。

2026-2027年(本格導入期)

ICT・ロボット技術本格導入、協働化モデル事業成果横展開、システム共通化推進を行います。

2028-2029年(完成・定着期)

目標達成に向けた最終調整、優良事例の全国展開、次期計画策定準備を進めます。

8.持続可能な障害福祉事業経営に向けて

経営者として押さえるべきポイント

この5年間は、政府が60兆円規模の集中投資を行う特別な期間です。補助金から技術支援まで包括的なサポート体制が整備されており、早期導入により競争優位性を確保できる絶好の機会といえます。

今すぐ始めるべきアクション
  1. 現状分析:自事業所の省力化レベルを把握し、改善余地を確認する
  2. 情報収集:利用可能な支援策を調査し、申請準備を進める
  3. 計画策定:段階的導入計画を作成し、投資対効果を試算する
  4. 関係構築:自治体・関係団体との連携を強化し、情報収集体制を整備する
将来展望

障害福祉分野における省力化投資は、単なるコスト削減ではありません。職員の働きがい向上、サービス品質向上、そして持続可能な事業経営を実現する戦略的投資です。
一般社団法人全国介護事業者連盟では、令和6年9月から「DXなんでも相談窓口」を開設し、加盟事業所を対象とした介護・障害福祉分野のDX支援の相談を受け付けています。このような業界団体による支援体制も活用しながら、この5年間の集中支援期間を最大限活用してみてください。

・最後に……

今こそ行動を起こすのに、よいタイミングだといえます。 まずは自事業所の現状把握から始め、利用可能な支援策の情報収集を行い、具体的な導入計画を策定してください。ここで紹介した成功事例を参考に、あなたの事業所に最適な省力化投資戦略を構築し、持続可能な障害福祉事業経営を実現していきましょう。

参考資料
内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」(令和7年6月13日)
内閣官房「省力化投資促進プラン―障害福祉―」(令和7年6月13日)







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