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| はじめに 胎児性水俣病とは? 胎児性水俣病の症状 歴史的な経緯 「遺伝」とはどういう意味? なぜ「遺伝」と記載してしまったのか? 水俣病は遺伝しない なぜ問題視されたのか? いま私たちができること─毛髪ミネラル検査のすすめ 最後に…… |
2025年5月27日の報道で、家庭教師のトライが教材中に「胎児性水俣病は遺伝する」と誤って記載していたことが明らかになりました。環境省によると、4月28日に患者団体から指摘があり、トライ側に削除と訂正を要請。同社は5月23日に「水俣病が遺伝するという事実はなく、不正確な表現となったことをおわびの上訂正いたします」と謝罪文を公表し、同日までに問題の表現が記載された教材内容を非公開にしたという。
この記述は誤解を生むものであり、専門的には誤りです。しかし、「胎児に影響が出る」という事実は正しく、混同されやすい部分でもあります。この機会に、「遺伝」と「胎児性水俣病」の違い、そして水俣病の検査に使われる毛髪ミネラル検査について、以下説明します。
胎児性水俣病とは、メチル水銀に汚染された魚介類を妊娠中の母親が摂取した結果、胎児に重篤な中枢神経障害が起きたものです。
メチル水銀は胎盤を通して胎児に移行することが知られており、メチル水銀によって生まれてくる赤ちゃんに運動障害や知的障害といった影響を与えることがあります。
これはあくまで「化学物質による胎児への影響」であり、親から子へと遺伝的に病気が受け継がれる遺伝とはまったく異なるものです。
妊娠中や出産時には異常は観察されないが、成長に従って精神や運動の発達が遅れ、気づくことが多い。重症の場合は、幼くして死亡したり寝たきりの重度心身障害児となったりする。
おもな症状として、首がすわらない、歩行困難、けいれん、よだれを流すなどがある。臨床的には脳性小児まひと診断される。
1955~59年にかけての調査で、水俣病の発生地区では、小児まひの発生率が日本全体の0.2%前後に対し、9%と異常に高く、発症時期や家族に水俣病患者のいることから、水俣病との関係がのちに認められた。
胎盤は毒物の胎児への移行の障壁になると考えられてきたが、メチル水銀は母親に水俣病症状がない場合でも胎児に重篤な影響を与えたことで、胎盤機能の欠陥が示された最初の例である。
デンマークのフェロー諸島などでの疫学調査結果からは、胎児性水俣病の発症より、ごく少量のメチル水銀を摂取した母親でも、子どもの運動や知能の発達がわずかに遅れることが指摘され、妊娠女性は水銀濃度の高い魚介類の摂取量を抑えるべきとする注意喚起が各国でなされている。
「遺伝」とは、親の持つ遺伝情報(DNA)を子に受け継ぐことで形質や体質が伝わる現象のことです。
たとえば、血液型、髪や目の色、あるいは特定の遺伝性疾患(例:筋ジストロフィーや色覚異常)などが遺伝にあたります。
一方、水俣病の原因であるメチル水銀は外因的な環境毒性物質です。
つまり、遺伝子ではなく「環境から取り込まれた有害物質」が胎児に直接影響を与えた結果、生まれつきの障害が発症するのです。
ですから「水俣病は遺伝する」という表現は、科学的には誤解を招く表現であり、正確ではありません。
とはいえ、「母親が病気で、子どもも同じような症状を持って生まれた」という状況を見れば、「親から子に受け継がれた」と感じるのは自然な感覚かもしれません。
つまり「遺伝子を介した疾患」ではなく、妊娠中の「胎内環境を通じた中毒性の影響」なのです。
ここをきちんと理解しておくことが、差別や偏見を防ぐためにも非常に重要です。
水俣病は、メチル水銀に汚染された魚介類を食べることで起きた、中毒性神経疾患です。食事を通じてメチル水銀を取り込んだ成人、小児および胎盤を通じてメチル水銀を取り込んだ乳幼児に症状が現れるものです。母親の妊娠中に胎盤を通じてメチル水銀を取り込んだ乳幼児に症状が現れることは遺伝とは呼びません。水俣病の親からその子へ遺伝子によって遺伝することはありません。
もし「遺伝する」と誤って教えられた場合、「将来子どもを持つことへの不安」や「偏見による差別」につながる可能性があるからです。また、これが「感染する」「近づくとうつる」といった誤解へと発展すれば、それこそ人権問題となりかねません。
今回の件はすぐに報道され、教材も回収されたとのことですが、10年以上にわたり誤記が放置されていたという点では、看過できない問題です。
水俣病の原因となったメチル水銀は、毛髪に蓄積されやすいという性質があります。そのため、当時の診断にも「毛髪中の水銀濃度」が使われていました。現在では、毛髪ミネラル検査で安全かつ簡単に水銀の体内蓄積を調べることができます。
日本では魚の消費量がここ10年で減少傾向にあるため、全体的な水銀濃度は下がってきていると考えられます。
とはいえ、日本は「魚食文化」が根強く、もともとの水銀摂取量が国際的に見ても高い傾向にあります。
特に妊娠を希望される方や、お子さんの健康が気になる方は、一度ご自身の水銀量を把握しておくと安心です。
毛髪ミネラル検査では、水銀のほか、鉛やカドミウムなど有害金属やミネラルを最大34種類測定します。
家庭でできる簡単な検査ですので、ぜひ一度試してみてください。毛髪ミネラル検査はこちらから
以上のことを以下のようにまとめることができます。
- 胎児性水俣病は「遺伝」ではなく、「胎盤を通じて移行したメチル水銀による影響」である
- 「遺伝する」という誤解は、偏見や差別につながる恐れがあるため正しい知識が必要である
- 水銀の蓄積は毛髪で簡単にチェック可能である
- 魚をよく食べる方、妊娠中・授乳中の方には毛髪ミネラル検査がおすすめである
母体の水銀濃度には特に注意してください。胎盤は、母親の血液に含まれている有害物質が赤ちゃんに入らないようにする濾過装置の役目をします。しかし、メチル水銀はアミノ酸(システイン)に結合して胎盤を容易に通過し、胎児に蓄積されていきます。1990年のWHOの報告では、母親の毛髪水銀値が10~20ppmであると、胎児に障害が現れる危険が5%あるとしています。従って10ppm以下が望ましいということになりますが、低濃度のメチル水銀が胎児に及ぼす影響は、現在でもなお、研究が進められています。