心的外傷後ストレス障害(PTSD)の人の仕事探し

・社会復帰を目指して

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、事故や災害などの急性的なトラウマや、虐待などの慢性的なトラウマによって引き起こされることが多く、精神的苦痛や生活機能に障害をもたらします。自分の意思とは無関係に症状が出るため就労が難しいと思われがちですが、治療が進み体調が落ち着いてくれば復職・就職も不可能ではありません。ここでは、PTSDの症状や社会復帰の方法について紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

・心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは

PTSDとは強い恐怖感やトラウマを経験した人が、日常的に何度もつらい記憶を思い出してしまう病気です。自分の意思とは関係なく光景がフラッシュバックしたり、悪夢にうなされたりすることで不安な気持ちを払拭できない状態のことを指します。
人間は強い恐怖感やトラウマ、生死に関わる体験をすると、一定期間は誰もが不安や不眠などの症状が起きやすくなります。多くの場合は時間の経過とともに落ち着くことが多いのですが、1ヶ月以上経過しても症状が改善されなかったり悪化してしまったりすると、PTSDの診断を受ける可能性があります。

・PTSDの症状とは

PTSDは事故や災害、暴力や犯罪など、本人が強い恐怖やストレスを感じることで発症します。切り傷や骨折のように目に見える外傷ではないため、他人に理解されにくく、自分自身でも認知していなかったりするので症状が悪化することがあります。ここではPTSDにはどのような症状があるのかを解説します。

① 侵入症状

侵入症状とは、つらい記憶が突然フラッシュバックしたり繰り返し悪夢を見るようになったりすることです。単に思い出すだけではなく、実際にその場にいるかのような錯覚を起こすこともあり、音やにおいなどの肉体感覚まで再現されてしまうこともあります。
フラッシュバックは日常生活の何気ない物事によって引き起こされることが多く、戦争から帰還した軍人は花火の音が銃声のように聞こえたり、雨の日に恐怖体験をした人は雨天時にフラッシュバックが起きやすくなったりします。

② 回避症状

回避症状とは、トラウマを感じさせる人物や場所を避けるようになることです。恐怖を感じた場所が公園であれば、公園や類似する場所を避けるようになり、トラウマの原因になった人物に似た人を避けることもあります。趣味や仕事に没頭することで気を紛らわせ、感情を麻痺させて精神的苦痛から逃れようとするパターンもありますが、この回避症状ゆえに人との交流が激減し孤独感を感じやすくなります。

③ 日常生活への悪影響

PTSDを患っている人は、平穏な日常生活を送ることが難しくなることがあります。たとえば物音に過剰反応したり、警戒心が強すぎるためうまく眠られず思考力が低下したり、感情コントロールが難しくなり周囲に当たり散らしてしまうなどが挙げられます。
不安感を紛らわすためにお酒や薬物の過剰摂取をするケースがあるため、アルコール依存症や薬物依存症を併発する可能性が高いのも特徴です。

④ 「(単純性)PTSD」と「複雑性PTSD」の違い

PTSDは、「(単純性)PTSD」と「複雑性PTSD」に分けられています。
「(単純性)PTSD」は地震などの災害・交通事故といったトラウマを一度経験したことが関係します。それに対して「複雑性PTSD」は虐待など長期にわたって苦しみを受けるような、慢性的な状況が関係すると言われています。複雑性PTSDには、「感情のコントロールの困難さ」「自己卑下・自己否定」「他者との関わりの困難さ」という特徴があります。

・PTSDの診断を受けたら仕事はどうすればいいのか?

PTSDと診断された場合、まずはストレスの原因から離れて治療を受けることが重要です。同じ場所でそのまま働き続けていると症状が改善しにくくなり、さらには悪化するケースも考えられます。
仕事を再開するには、業務量の調整や環境の改善なども考慮した上で相談した方がベストと言えそうです。

① 体調次第では就職・復職も可能

PTSDと診断された場合、ストレスの原因から距離をとり、原因を解消するのが有効です。しかし、原因自体が解消されたとしても、人や場所などその場の状況が影響して辛くなってしまったり、身体的な症状が出てしまったりすることも考えられます。そのため、復職を検討している場合には、どういった勤務条件であれば復職できそうか事前に確認・相談する必要があるでしょう。症状を悪化させずに働くためには、以下のような工夫が必要になってきます。

  • 短時間の勤務から始める
  • 休日を増やす
  • 業務量を調整する
  • 働きやすい職場環境に整え(時には配置換えし)てもらう
② 休職も検討する

会社に休職制度がある場合は、「一定期間休む」という選択肢も検討してみてください。休職を希望する際は、イ)まず主治医に相談し「仕事を続けることが困難であること」「休職が必要な期間」などについて診断書を作成してもらいます。ロ)休職期間は主治医の判断で決定されることが一般的ですが、会社と相談調整が行える場合もあります。ハ)診断書ができたら上司に相談し、休職の期間や有給の使用などを話し合います。ニ)休職期間中は給与補償制度や傷病手当金などの支援制度を利用できる場合があるので、会社に相談してみるのも手です。また、休職に向けた話し合いの過程で、周囲に症状が理解されることも大いに考えられます。

・PTSDの人が受けられる支援

多くの企業では、病気などによって働けなくなった場合に手当金が支給される「傷病手当」や「休職」といった制度があります。 また、条件を満たせば「就労移行支援」などを利用することが可能です。利用したい制度が見つかったら、まずは一度、主治医に相談することをお薦めします。

① 傷病手当

企業で働いている方がPTSDと診断された場合、休職や傷病手当といった支援を受けられることがあります。「傷病手当」とは、病気や怪我のために会社を休んでしまい事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されるものです。傷病手当の支給を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 業務外の事由による病気やケガを理由に休業した
  • 仕事に就くことができない状態
  • 連続3日間を含み4日間以上就業できなかった
  • 休業期間内に給与の支払いを受けていない
② 休職

一方「休職」とは、事業主と契約を結んだままの状態で休むことを指します。法律によって定められた一律のものではなく、各企業の就業規則や、雇用契約などに記載されていることがあります。なお、復職する際には勤務先が定める条件を満たす必要があります。医師の診断書のみで良い場合もありますが、会社によっては一定の水準で業務を行えることが復職の条件になっている場合もあるので注意が必要です。具体的な条件は休職前の段階で確認しておくようにしてください。

③ 就労移行支援

就労移行支援は、障害のある18歳以上65歳未満の方を対象として、就職に役立つ知識や必要なスキル、体調などに関する相談などのサポートを行う事業所です。
PTSDの診断だけでは就労移行支援を利用できないことが多いですが、うつ病や不安障害など、二次的な症状を併発している場合は一度相談してみることをお薦めします。

・PTSDの人が就職や復職するには?

PTSDの人も就職や復職は十分可能ですが、間違った職選びをしてしまうと症状が再発したり悪化してしまったりするケースがあります。安心して就職や復職をするためには、以下の点を覚えておいてください。

① タイミングの見定め

復職までの期間が長くなると気持ちが焦ってしまいがちです。まずは医師の指導を受けて症状の軽減を目指してください。企業側は、仕事ができる状態であることを重視しますが、その判断基準として医師の診断書の提出を求められる場合が多いです。心身の回復を最優先し、タイミングを見定めて就職や復職に向かって行動してください。

② 負担の少ない仕事から

せっかく就職や復職が叶っても、残業が多かったり休日がまともに取れなかったりすることでストレスが溜まり、症状が再発してしまう可能性もあります。就職先を決める場合は、時短勤務ができたり、作業量が少ない職場を選んだらいかがでしょうか。もともと在籍していた職場に戻る場合は、上司に業務内容の調整を頼み「慣らし勤務」からはじめることをお薦めします。

・PTSDの人におすすめの職場環境

症状を悪化させることなく安心して社会復帰をするためには、職種よりも職場環境を重視して仕事を探すのをお薦めします。以下、どのような職場環境を選ぶべきなのかを解説します。

① シフト制あるいは時短勤務が可能な環境

働くことに不安がある場合は、パートタイマーやアルバイトから始めてみてください。いきなりフルタイム勤務をしてしまうと、疲れやストレスから体調を崩しやすくなります。PTSDの症状が悪化することなく仕事を続けられていたり、症状が出ていたとしても無理なく続けられているようであったなら、その上で次の段階としてフルタイム勤務や正社員雇用の道を検討してみてください。

② コミュニケーションが取りやすい

PTSDの人はどうしても体調や症状の起伏が出てしまいます。気軽にコミュニケーションが取れる環境であれば、自身の体調を伝えて仕事内容を調整してもらうことが可能です。コミュニケーションの取りやすさは求人情報から読み取ることは難しいので、面接時に自身の症状について話してみてください。面接官の反応次第で、ある程度の職場環境を見定めることは可能です。

・最後に……

PTSDは過去の恐怖体験やトラウマがフラッシュバックする病気です。きちんと治療を行うことで社会復帰は可能ですが、一人で仕事探しをするのが不安な方は就労移行支援事業所を利用することをおすすめします。
全国の市区町村にある就労移行支援事業所では、障害者の社会復帰のためのさまざまな支援を受けられます。職業訓練や仕事探しのサポートから、履歴書の添削や面接対策などの細かい支援を受けられるほか、就職後の職場定着支援も行っています。同じ障害や悩みを抱えた利用者同士のコミュニケーションも取れますので、まずは見学してみてはいかがでしょうか。







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