障害者虐待防止法の概要(令和6年7月「手引き」より その2)

1 「障害者虐待」の定義

(1)障害者の定義

障害者虐待防止法では、障害者とは障害者基本法第 2 条第1号に規定する障害者と定義されています。同号では、障害者とは「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」としており、障害者手帳を取得していない場合も含まれる点に留意が必要です。また、ここでいう障害者には 18 歳未満の者も含まれます。

(2)「障害者虐待」に該当する場合

障害者虐待防止法では、「養護者」「使用者」「障害者福祉施設従事者等」による虐待を特に「障害者虐待」と定めています(第 2 条第 2 項)。
「養護者」とは、障害者の身辺の世話や身体介助、金銭の管理等を行っている障害者の家族、親族、同居人等のことです。
「使用者」とは、障害者を雇用する事業主、または事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者のことです。
「障害者福祉施設従事者等」とは、障害者総合支援法等に規定する「障害者福祉施設」、または「障害福祉サービス事業等」(以下、合わせて「障害者福祉施設等」という)に係る業務に従事する者のことです。具体的には、次の施設・事業が該当します。

  • 障害者福祉施設
    障害者支援施設、のぞみの園
  • 障害福祉サービス事業等
    居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、療養介護、
    生活介護、短期入所、重度障害者等包括支援、自立訓練、就労移行支援、
    就労継続支援、自立生活援助、就労定着支援、及び共同生活援助、
    一般相談支援事業及び特定相談支援事業、移動支援事業、
    地域活動支援センターを経営する事業、福祉ホームを経営する事業、
    障害児通所支援事業、障害児相談支援事業

2 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待

これらの事業に従事する人たちが、次の行為を行った場合を「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」と定義しています。(第 2 条第 7 項)

  1. 身体的虐待:障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、または正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。
  2. 性的虐待:障害者にわいせつな行為をすること、または障害者をしてわいせつな行為をさせること。
  3. 心理的虐待:障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応、または不当な差別的な言動、その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
  4. 放棄・放置:障害者を衰弱させるような著しい減食、または長時間の放置、他の利用者による①から③までに掲げる行為と同様の行為の放置、その他の障害者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
  5. 経済的虐待:障害者の財産を不当に処分すること、その他障害者から不当に財産上の利益を得ること。
    なお、高齢者関係施設の入所者に対する虐待については、65 歳未満の障害者に対するものも含めて高齢者虐待防止法が適用されます。児童福祉施設の入所者に対する虐待については、児童福祉法が適用されます。ただし、18 歳以上で、障害者総合支援法による給付を受けながら児童福祉施設に入所している場合は、障害者虐待防止法が適用されます。
    また、法第3条では「何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない」と規定され上記の「障害者福祉施設従事者等」のみならず、幅広く全ての人が障害者を虐待してはならないことを定めています。

3 虐待行為に対する刑事罰

障害者虐待は、刑事罰の対象になる場合があります。

  1. 身体的虐待:刑法第 199 条殺人罪、第 204 条傷害罪、第 208 条暴行罪、第 220 条逮捕監禁罪
  2. 性的虐待:刑法第 176 条不同意わいせつ罪、第 177 条不同意性交等罪(令和5年7月改正)
  3. 心理的虐待:刑法第 222 条脅迫罪、第 223 条強要罪、第 230 条名誉毀損罪、第 231 条侮辱罪
  4. 放棄・放置:刑法第 218 条保護責任者遺棄罪
  5. 経済的虐待:刑法第 235 条窃盗罪、第 246 条詐欺罪、第 249 条恐喝罪、第 252 条横領罪

これまでの虐待事案においても、虐待した障害者福祉施設等の職員が警察によって逮捕、送検された事案が複数起きています。虐待行為の具体的な例を(表‐1)に挙げます。近年の刑法の見直しの経緯としては、「刑法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 72号)」が平成 29 年 7 月に施行されました。従来は、「姦淫」(性交)のみが「強姦罪」の処罰の対象とされていましたが、この改正により、罪名を「強姦罪」から「強制性交等罪」とし、性交だけでなく、口腔性交や肛門性交(以下「性交等」)についても、同じ罪として処罰することとされました。また、従来は、被害者が女性に限られていたところ、被害者の性別を問わないこととされ、男性が男性に対して性交等をすることも「強制性交等罪」として処罰することとされました。併せて、法定刑の下限を懲役3年から 5年に引き上げる改正が行われています。さらに、この「強制性行等罪」を含む性犯罪については、被害のあったご本人にとって、告訴することが精神的負担になる場合があることを踏まえ、その負担を軽減するため、「非親告罪」(告訴がなくても起訴できる犯罪)とされたところです。
加えて、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和5年法律第 66 号)」が、令和5年7月に施行されます。この改正により、これまでの「強制性交等罪・準強制性交等罪」が「不同意性交等罪」、「強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪」が「不同意わいせつ罪」に罪名が変更され、その適用要件は、以下のとおりとなります。

  1. 次の①から⑧までの行為・事由その他これらに類する行為・事由により、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて、性交等をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
    • ① 暴行・脅迫
    • ② 心身の障害
    • ③ アルコール・薬物の影響
    • ④ 睡眠その他の意識不明瞭
    • ⑤ 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまの不存在
    • ⑥ 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕
    • ⑦ 虐待に起因する心理的反応
    • ⑧ 経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮

       

  2. 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、またはそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、1と同様とする。

     

  3. 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る)も、1と同様とする。
(表-1)障害者福祉施設従事者等による障害者虐待類型(例)
区分 具体的な例
身体的虐待

① 暴力的行為

  • 平手打ちをする。つねる。殴る。蹴る。
  • ぶつかって転ばせる。
  • 刃物や器物で外傷を与える。
  • 入浴時、熱い湯やシャワーをかけてやけどをさせる。
  • 本人に向けて物を投げつけたりする。

② 本人の利益にならない強制による行為、代替方法を検討せずに障害者を乱暴に扱う行為

  • 医学的診断や個別支援計画等に位置づけられておらず、身体的苦痛や病状悪化を招く行為を強要する。
  • 介助がしやすいように、職員の都合でベッド等へ抑えつける。
  • 車いすやベッド等から移動させる際に、必要以上に身体を高く持ち上げる。
  • 食事の際に、職員の都合で、本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる、飲み物を飲ませる。など

③ 正当な理由のない身体拘束

  • 車いすやベッドなどに縛り付ける
  • 手指の機能を制限するためにミトン型の手袋を付ける
  • 行動を制限するために介護衣(つなぎ服)を着せる
  • 職員が自分の身体で利用者を押さえつけて行動を制限する
  • 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
  • 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。など
性的虐待
  • あらゆる形態の性的な行為又はその強要
    • キス、性器等への接触、性交
    • 性的行為を強要する。
    • 本人の前でわいせつな言葉を発する、又は会話する。性的な話を強要する(無理やり聞かせる、無理やり話させる)。
    • わいせつな映像や写真をみせる。
    • 本人を裸にする、又はわいせつな行為をさせ、映像や写真に撮る。撮影したものを他人に見せる。
    • 更衣やトイレ等の場面をのぞいたり、映像や画像を撮影したりする。
    • 排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下(上)半身を裸にしたり、下着のままで放置したりする。
    • 人前で排泄をさせたり、おむつ交換をしたりする。またその場面を見せないための配慮をしない。 など
心理的虐待

① 威嚇的な発言、態度

  • 怒鳴る、罵る。
  • 「ここ(施設等)にいられなくなるよ」「追い出す」などと言い脅す。
  • 「給料もらえないですよ」「好きなもの買えなくなりますよ」などと威圧的な態度を取る。など

② 侮辱的な発言、態度

  • 排泄の失敗や食べこぼしなどを嘲笑する。
  • 日常的にからかったり、「バカ」「あほ」「死ね」など侮蔑的なことを言う。
  • 排泄介助の際、「臭い」「汚い」などと言う。
  • こども扱いするような呼称で呼ぶ。
  • 本人の意思に反して呼び捨て、あだ名などで呼ぶ。など

③ 障害者や家族の存在や行為、尊厳を否定、無視するような発言、態度

  • 無視する。
  • 「意味もなく呼ばないで」「どうしてこんなことができないの」などと言う。
  • 他の利用者に障害者や家族の悪口等を言いふらす。
  • 話しかけ等を無視する。
  • 障害者の大切にしているものを乱暴に扱う、壊す、捨てる。
  • したくてもできないことを当てつけにやってみせる(他の利用者にやらせる)。など

④ 障害者の意欲や自立心を低下させる行為

  • トイレを使用できるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視しておむつを使う。
  • 自分で食事ができるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視して食事の全介助をする、職員が提供しやすいように食事を混ぜる。
  • 自分で服薬ができるのに、食事に薬を混ぜて提供する。など

⑤ 交換条件の提示

  • 「これができたら外出させてあげる」「買いたいならこれをしてからにしなさい」などの交換条件を提示する。

⑥ 心理的に障害者を不当に孤立させる行為

  • 本人の家族に伝えてほしいという訴えを理由なく無視して伝えない。
  • 理由もなく住所録を取り上げるなど、外部との連絡を遮断する。
  • 面会者が訪れても、本人の意思や状態を無視して面会させない。
  • その利用者以外の利用者だけを集めて物事を決める、行事を行う。など

⑦ その他著しい心理的外傷を与える言動

  • 車いすでの移動介助の際に、速いスピードで走らせ恐怖感を与える。
  • 自分の信仰している宗教に加入するよう強制する。
  • 利用者の顔に落書きをして、それをカメラ等で撮影し他の職員に見せる。
  • 利用者の前で本人の物を投げたり蹴ったりする。
  • 本人の意思に反した異性介助を繰り返す。
  • 浴室脱衣所で、異性の利用者を一緒に着替えさせたりする。など
放棄・放置

① 必要とされる支援や介助を怠り、障害者の生活環境・身体や精神状態を悪化させる行為

  • 入浴しておらず異臭がする、排泄の介助をしない、髪・ひげ・爪が伸び放題、汚れのひどい服や破れた服を着せている等、日常的に著しく不衛生な状態で生活させる。
  • 褥瘡(床ずれ)ができるなど、体位の調整や栄養管理を怠る。
  • おむつが汚れている状態を日常的に放置している。
  • 健康状態の悪化をきたすほどに水分や栄養補給を怠る。
  • 健康状態の悪化をきたすような環境(暑すぎる、寒すぎる等)に長時間置かせる。
  • 室内にごみが放置されている、鼠やゴキブリがいるなど劣悪な環境に置かせる。など

② 障害者の状態に応じた診療や支援を怠ったり、医学的診断を無視した行為

  • 医療が必要な状況にも関わらず、受診させない。あるいは救急対応を行わない。
  • 処方通りの服薬をさせない、副作用が生じているのに放置している、処方通りの治療食を食べさせない。
  • 本人の嚥下できない食事を提供する。など

③ 必要な用具の使用を限定し、障害者の要望や行動を制限させる行為

  • 移動に車いすが必要であっても使用させない。
  • 必要なめがね、補聴器、補助具等があっても使用させない。など

④ 障害者の権利や尊厳を無視した行為又はその行為の放置

  • 他の利用者に暴力を振るう障害者に対して、何ら予防的手立てをしていない。
  • 話しかけ等に対し「ちょっと待って」と言ったまま対応しない。など

⑤ その他職務上の義務を著しく怠ること

経済的虐待
  • 本人の同意(表面上は同意しているように見えても、本心からの同意かどうかを見極める必要がある。以下同様)なしに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること。
    • 本人所有の不動産等の財産を本人に無断で売却する。
    • 年金や賃金を管理して渡さない。
    • 年金や預貯金を無断で使用する。
    • 本人の財産を無断で運用する。
    • 事業所、法人に金銭を寄付・贈与するよう強要する。
    • 本人の財産を、本人が知らない又は支払うべきではない支払に充てる。
    • 金銭・財産等の着服・窃盗等(障害者のお金を盗む、無断で使う、処分する、無断流用する、おつりを渡さない)。
    • 立場を利用して、「お金を貸してほしい」と頼み、借りる。
    • 本人に無断で親族にお金を渡す、貸す。
    • 日常的に使用するお金を不当に制限する、生活に必要なお金を渡さない。など






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