目次
・就労定着支援に関する論点
令和6(2024)年度の報酬改定に向け、第38回障害福祉サービス等報酬改定検討チーム会議(令和5年10月11日)が開催されました。この会議では就労系サービスに関する議論がなされ、就労定着支援については以下の5つの論点が挙げられています。
- スケールメリットを考慮した報酬の設定
- 定着支援連携促進加算の見直し
- 支援終了の際の事業所の対応
- 実施主体 ・就労移行支援との一体的な実施
また就労系サービスの横断的事項の論点である「基礎的研修に伴う対応」も就労定着支援に直接関連する論点です。
以下では会議の資料をもとに、就労定着支援に関係するこれら6つの論点を解説します。
なおこの会議では、令和6年度に新設され、令和7(2025)年10月1日から開始予定である「就労選択支援」については議論されていません。
・スケールメリットを考慮した報酬の設定
《概要》
現在の基本報酬は利用者数と定着率により設定されていますが、定着率のみへの変更が検討されます。
《検討の背景》
就労定着支援の基本報酬は、就労移行支援や就労継続支援などの基本報酬と同様、利用者数(定員)が増えると単価が低くなるように設定されています。
しかし就労移行支援や就労継続支援と違って就労先企業などに訪問して支援をするため、利用者数が増えても事業運営のコストはそこまで減りません(スケールメリットが小さい)。そのため基本報酬の指標から除いてはどうかという議論です。
・定着支援連携促進加算の見直し
《概要》
「定着支援連携促進加算」について、下の2つの方向性が示されています。これは就労移行支援の「支援計画会議実施加算」の見直しと同様の内容です。
- サービス管理責任者以外の職種の参加も加算として評価する
- 取り組みの趣旨に合わせて名称を変更する
《検討の背景》
就労移行支援の「支援計画実施加算」と同様、「定着支援連携促進加算」でもサービス管理責任者(サビ管)の出席が必須であり、加算の取得率は19%と低い水準にとどまっています。
地域の機関などとの連携が促進されるよう、サビ管以外の職種でも加算を算定できるようにしてはどうかという検討がなされます。
地域の就労支援機関などとの連携によって支援効果を高めるという取り組みの趣旨に合わせて、名称の変更が議論されます。
・支援終了の際の事業所の対応
《概要》
企業のサポート体制や生活面安定のための支援体制構築を十分に行わないまま就労定着支援を終了した場合に、報酬上の対応を検討するという内容です。
《検討の背景》
就労定着支援事業所は職場や医療機関などと協力しながら、支援期間が終了するまでに、利用者が特段の支援がなくても働き続けられる状態を目指します。
しかし利用期間終了後も継続的な支援が必要と予想される場合、利用者と調整し、少なくとも支援終了の3か月以上前には障害者就業・生活支援センターなどに支援に必要な情報を伝達するよう定められています。
現状では就労定着に向けた支援体制の構築が十分でないまま支援を終了する事業所もあることが指摘されており、そういった状況に対し、報酬上の対応の検討が考えられています。
・実施主体
《概要》
必要な人が就労定着支援を受けられるように、障害者就業・生活支援センターでも就労定着支援を実施できるよう検討されます。
《検討の背景》
就労定着支援は、一般就労に繋げた実績が一定以上ある就労移行支援、就労継続支援A型・B型、自立訓練、生活介護事業所で一体的に提供されます。
中でも一般就労を目的とする就労移行支援事業所での実施が想定されていたものの、就労定着支援を実施している就労移行支援事業所は5割ほどに留まっています。
必要な人が就労定着支援を利用できるよう、障害者就業・生活支援センターでも就労定着支援ができるようにする検討がされています。
・就労移行支援との一体的な実施
《概要》
就労移行支援事業所などの常勤の直接処遇職員(生活支援員など)が就労定着支援員としても従事した場合に、兼務として就労定着支援員としての勤務時間に含めてはどうかという内容です。
《検討の背景》
現在の人員基準では、一体的に運営される就労移行支援事業所などの常勤の直接処遇職員が就労定着支援員として従事すること自体は認められています。しかしその場合、兼務として就労定着支援員の常勤換算にカウントすることはできません。 たとえば生活支援員として1.0で勤務している人が就労定着支援員としても従事する場合、以下のどちらかとなります。
- 就労定着支援員としてカウントしない
生活支援員1.0、定着支援員0 - 就労定着支援員としてカウントする分を生活支援員から引く
生活支援員0.8、定着支援員0.2 など
一方で就労移行支援事業所などが就労定着支援を実施しない理由として、人員の確保が難しいことが挙げられています。そのため上記のような場合に、兼務として就労定着支援員の常勤換算上の人数にもカウントできるよう検討が進められます。
- 兼務として就労定着支援員にもカウントできる
就労支援員1.0、定着0.2 など
・基礎的研修に伴う対応
《概要》
令和7(2025)年度から独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の「基礎的研修」が始まります。
この研修を就労移行支援の就労支援員と就労定着支援の就労定着支援員は受講必須としてはどうかという案です。またそれに伴い「就労支援関係研修修了加算」の扱いも検討されます。
《検討の背景》
JEEDが実施する就労支援に関する研修である「基礎研修」が令和7年度から「基礎的研修」に変わる予定です。
現在の「基礎研修」は受講必須ではなく、就労移行支援事業所の就労支援員が受講した場合には「就労支援関係研修修了加算」として評価されています。
「基礎的研修」については、令和3年6月に行われた障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会で「就労移行支援事業所の就労支援員と就労定着支援事業所の就労定着支援員は受講必須とすべき」と提言されており、それを受けての検討となります。
また研修の義務化に伴い、前述の就労支援関係研修修了加算についても、令和9年度までの経過措置を経て終了することが併せて検討されます。
・最後に……
報酬改定の論点について、就労移行支援に関連する部分の検討の方向性と背景を解説しました。
参考として厚生労働省の報酬改定検討チームの資料へのリンクも貼っています。こちらにはより詳しいデータや検討根拠となる資料などが載っています。余裕があれば目を通していただくと、事業を取り巻く状況の理解が深まり、今後の事業運営の一助になると思います。
障害福祉サービス等報酬改定検討チーム|厚生労働省