令和6(2024)年度報酬改定、就労継続支援A型への影響

・就労継続支援A型に関する報酬改定の論点

令和5年10月11日に開催された第38回障害福祉サービス等報酬改定検討チームの会議で、就労継続支援A型については以下の2つの論点が挙げられました。

  • 経営改善の取組の促進
  • スコア方式による評価項目の見直し

また就労系サービス全体に関連する横断的事項のうち、就労継続支援A型に直接関連する論点は以下の3つです。

  • 就労系障害福祉サービスの一時的な利用
  • 施設外就労に関する実績報告書の提出義務の廃止など
  • 施設外支援に関する事務処理の簡素化

以下では会議の資料をもとに、就労継続支援A型に関係するこれら5つの論点について、令和6(2024)年度報酬改定の方向性とその背景を解説します。
なおこの会議では、令和6年度に新設され、令和7(2025)年10月1日から開始予定である「就労選択支援」については議論されていません。

・経営改善の取組の促進

《概要》

経営改善計画書が未提出または数年連続で提出となっている事業所に対し、自治体による指導とともに、新たにスコア方式での対応が提案されています。なお経営改善計画書は、「生産活動収支が賃金総額を上回らなければいけない」という指定基準を満たせなかった場合に作成・提出するものです。

《検討の背景》

就労継続支援A型の指定基準では、生産活動の収支が利用者に支払う賃金総額以上(生産活動の収入-生産活動の経費≧賃金総額)となるよう定められています。ところが、コロナ禍の影響などもあり、この基準を満たさない事業所が令和4年3月時点で全体の5割を超えていました。
この基準を満たしていない事業所は経営改善計画書の提出が必要です。複数年連続で提出している事業所や未提出の事業所もあります。
また計画書の提出が経営の早期改善に繋がらない事業所もあることを踏まえ、特に複数年連続で対象となっている事業所に対しては実効性のある対応を検討すべきとの指摘も社会保障審議会でありました。
こういった背景から自治体による指導とともに、スコア方式での対応の検討が進められます。

・スコア方式による評価項目の見直し

《概要》

経営状況の改善や賃金向上、一般就労への移行などを促すため、スコア方式の評価項目を以下の方向性で見直してはどうかと提案されています。

  • 生産活動収支が賃金総額を上回った場合
  • 下回った場合の評価のメリハリを強める
  • 「生産活動」の点数配分を高くするなど、全体のバランスを見直す
  • 平均労働時間の長さを、さらに評価する
  • 一般就労に向けた支援に対する評価項目を新設する

《検討の背景》

就労継続支援A型を評価するスコア方式では、現在、200点満点中105点以上を取得する事業所が8割以上となっています。そこで大きな課題となっている「生産活動」の項目について、成果によるメリハリを強めたり点数配分を高くしたりといった検討がされる予定です。また労働時間が長くなるほど賃金増加に繋がることから、平均労働時間の項目をさらに評価するという検討や、一般就労を推進する観点から新たな評価項目を設けるという検討がされる予定です。

〇「スコア方式」導入の背景

就労継続支援A型では、過去に制度の趣旨に反する不適切な運営をする事業所が増えて問題になった時期がありました。たとえば利用者の労働時間を一律で短時間にしてひとり一人に支払う賃金を低く抑えつつ、事業所側は障害福祉サービスの報酬を人数分受け取る、あるいは生産活動をほとんど実施せず障害福祉サービスの報酬から賃金を支給するなどがそうです。
これらの問題を解決し、制度の趣旨に沿った運営をする事業所をきちんと評価するための報酬改定がなされ、短時間利用者が多い場合の減算や基本報酬の区分が設けられました。さらに現在は、事業所の質を多面的に評価する現在のスコア方式になっています。今回の報酬改定でも、事業所を取り巻く課題や社会の変化に合わせたスコア項目の見直しや新設などが議論されています。

・就労系障害福祉サービスの一時的な利用に関連する見直し

《概要》

令和6(2024)年4月から、休職中など一定の条件に該当すれば一般就労中でも就労系サービスを一時的に利用できるようになります。そこで、就労継続支援A型の「平均労働時間」や就労継続支援B型の「平均工賃月額」の算定から在職中の利用者を除いてはどうかという検討がなされます。

《検討の背景》

休職からの復職(リワーク)や就労後に労働時間を増やすために一時的に利用する場合、短時間の利用になることが想定されます。そうすると就労継続支援A型では平均労働時間に、就労継続支援B型では平均工賃月額に影響が発生し、基本報酬の低下が懸念されます。
そのため一般就労中の一時的な利用については、平均労働時間や平均工賃月額の算定から除外してはどうかという検討です。

・施設外就労に関する実績報告書の提出義務の廃止など

《概要》

施設外就労を実施した際に毎月提出する実績について、事務負担軽減の観点から提出不要にするという案です。

《検討の背景》

施設外就労の実績報告は、元々「施設外支援就労加算」を算定する際の審査のためでした。しかしこの加算は令和3年の報酬改定で廃止されました。これを踏まえ、報告を不要として、代わりに実績記録書類を事業所で保管し、必要に応じて自治体が確認できるようにする案が検討されます。

・施設外支援に関する事務処理の簡素化

《概要》

施設外支援の際の個別支援計画の見直しを、現在の「1週間ごと」から「1か月ごと」にしてはどうかという内容です。

《検討の背景》

施設外支援については、要件の一つとして1週間ごとに個別支援計画の内容の見直しが求められています。しかしこれは事業所の負担も大きく、実態として1週間ごとに計画の見直しが実施できている事業所も少数です。これを踏まえ、1か月ごとの見直しとする検討がされます。

・最後に……

就労継続支援A型に関連する報酬改定の論点について、検討の方向性と背景を解説しました。
参考として厚生労働省の報酬改定検討チームの資料へのリンクも覗いてみてください。こちらにはより詳しいデータや検討根拠となる資料などが載っていますので、余裕があればご覧ください。事業を取り巻く状況の理解が深まり、今後の事業運営の一助になると思います。
障害福祉サービス等報酬改定検討チーム|厚生労働省







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