A.23 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、感染予防対策として企業でのテレワークが普及しつつあります。その一方で、一度テレワークを導入してみたものの継続できないと判断する企業があることも事実です。
しかし、障害者にとって、テレワークは感染予防になるばかりでなく、仕事の能率を上げることにもつながる大事な選択肢です。障害者がテレワークを行うメリットと注意点を以下説明します。
・新型コロナ感染症拡大とテレワーク
2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、多くの企業でテレワーク(在宅勤務)の導入が進められています。 テレワークとは、近年急激に発展する情報通信技術(ICT)を活用して職場以外で働く働き方のこと。自宅で働く場合を特に「在宅勤務」と呼びます。 感染症拡大防止策として「新しい生活様式」が専門家会議から示されましたが、仕事に関わる部分で推奨されていたのが、このテレワークです。初めて導入したという企業も多く、富士通やカルビーのような一部の企業では感染症終息後もテレワークを標準業務形態として定着させると発表しました。 一方、中小企業でのテレワークはあまり進んでいないという報告もあります。
一方、中小企業でのテレワークはあまり進んでいないという報告もあります。 デル・テクノロジーズによる2020年6月〜7月の調査では、中堅企業の6割が新たにテレワーク・在宅勤務を実施したものの、テレワークを継続すると答えた企業は5割にとどまりました。中堅企業の1割がテレワークを断念しています。 東京商工リサーチによる6月〜7月の調査でも、テレワークを「実施したが、現在は取りやめた」と回答した企業が26.7%ありました。
テレワーク継続を断念する原因としては、主に次の5つが指摘されています。
① セキュリティの問題 ② 社員の機器類の扱いや働き方に対する不慣れの問題 ③ コミュニケーションのとりにくさ ④ ハンコや契約書のやりとりといった従来型の手続きの問題 ⑤ テレワーク中の社員の勤務態度が分かりにくいという問題 |
・障害者雇用におけるテレワーク、在宅勤務のメリット
そもそも、テレワークは政府による「働き方改革」の中で推進されてきた働き方の1つです。 障害者のテレワーク雇用も厚生労働省によって推進されてきました。 厚生労働省委託事業である「障害者テレワーク(在宅勤務)導入のための総合支援事業」では、複数の企業で実際に障害者のテレワークを導入し、事例集を作成しています。 その中で、価値住宅株式会社の事例では「体を動かすことに制約があっても、テレワークであれば働く意欲と能力がある人が働ける」ことが報告されています。 また、感染症拡大時期においては以下のようなメリットもあるでしょう。
《感染症拡大時期における障害者テレワークのメリット》
・人ごみが怖い障害者が人ごみを避けて勤務できる ・障害をもつ従業員を通勤や職場での感染から守れる ・「感染するかも」という不安を和らげることができる ・体調管理がしやすい |
以下、メリットをまとめて説明します。
人混みが怖い、感覚過敏がある、体力がない障害者も働ける。
障害がある場合、ストレスをためやすかったり、障害特性から体力がなかったりするケースは珍しくありません。
特に通勤にかかる身体的・精神的ストレスは重大です。満員電車での通勤は、人ごみが怖い人やにおいや大きな声が苦手な人、人と体が触れあうことが苦手な人にとって非常に大きなストレスとなります。
体力がない人の場合、通勤ラッシュによる体力の消耗は無視できるものではありません。
テレワークができれば、そうした通勤に関係する問題がなくなります。
業務開始前の身体的・精神的負担がなくなることで、これまでより楽に業務を開始できます。
また、テレワークでは障害をもつ人が自分の障害に合った仕事環境を整えやすいというメリットもあります。
身体障害者はベッドの上でも仕事ができますし、感覚過敏をもつ人は他の人に突然話しかけられたり周囲の人の声や動きが気になったりする状況が発生しません。
出勤して働く場合と比べて、身体的・精神的に負担が軽減されます。
・障害をもつ従業員を感染症から守れる
障害をもつ人の中には、感染症拡大防止に必要なマスクの着用が困難な人がいます。
専門家会議が示した「新しい生活様式」は、マスク着用ができたり、聴覚に障害がなく相手の口元を見て会話したりする必要がないことを前提に作成されたものです。
これらが困難な障害者にとって、テレワークは、マスクを着用しなくても感染リスクを避けられる重要な選択肢です。
加えて、障害特性が原因で状況の変化が苦手で、感染拡大の緊張感から強いストレスを抱える人も多くなっています。感染する人が増えている時期においては、少しでも安心して働ける環境は重要です。
テレワークで働ければ、感染リスクが高いとされている「三密」を回避できます。また人ごみ・通勤ラッシュ・事業所での感染リスクを抑えられるとともに、必要な時に休憩や服薬も可能です。
障害が原因で「新しい生活様式」に対応できない部分がある人でも、テレワークの実施によって解決策を得られることがあります。
・障害者がテレワークで働く際の注意点
障害者がテレワークで働く場合、いくつかの点に注意しなければなりません。障害のない従業員にも当てはまることも多いのですが、障害者の場合は特に気をつけないとテレワークのメリットを十分に引き出すことができません。以下は、障害者にとっても企業にとっても必要なことがらであることはいうまでもありません。
〇テレワークを成功・継続させるポイントは…
・明確なルールづくり
…テレワークを導入する目的に合った勤務制度、勤務日に必ず必要となる連絡や連絡方法、進捗管理のためのスケジュール共有方法などを明確にしておく必要があります。 |
・働きやすい環境づくり
…具体的には、設備などのハード面と連絡・相談などのソフト面での整備が必要です。特に仕事の指示や業務の依頼では、障害のある従業員が複数の業務でストレスにならないよう、十分気をつけてください。 |
・仕事とプライベートのメリハリをつける
…時間管理ツールの利用や生活習慣の形成、終業後の連絡ルールの明確化などが重要です。特に、太陽光を浴びることと終業後の連絡の制限は、生活リズムを整えるのに欠かせません。 |
以上3点に集約されます。障害特性に応じた配慮とあわせて、この3点に気をつけることが必要となります。
・最後に……
導入ツールや制度づくりは、厚労省の事例集を参考にすることをお薦めします。「障害者テレワーク(在宅勤務)導入のための総合支援事業」をはじめ、厚生労働省では多くのテレワーク事例集を公開しています。最近公表された障害者雇用に関わるテレワーク導入事例集「都市部と地方をつなぐ障害者テレワーク事例集」の冒頭には、テレワーク導入や実施、労務管理などの実務的なガイドラインへのリンクも掲載。テレワークを前提として新たに障害者を雇用するのはもちろん、すでに従業員として働いている障害者に在宅勤務してもらう場合でも、とても参考になります。これらの事例集には在宅勤務の一日の流れや体調管理方法について、現場の声も掲載されています。