A1 遺伝の関与はほぼ確実と考えられています。それに性格、養育環境、ストレス、生活リズムの乱れ、家族などの要因が重なって双極性障害を発症すると考えられています。
双極性障害はどうして気分の波が生じるのか、その原因はよくわかっていません。ただ、双極性障害は遺伝の影響が大きいと考えられています。双極性障害の人が家族に固まっていることも多く、遺伝の関与はほぼ確実と考えられています。
しかしながら遺伝が全てではなく、双極性障害の人の子供が発症する確率は5~10%程度です。双極性障害の原因には、以下にあげる6つ以外にもさまざまな影響が加わって発症します。
原因その①「遺伝」
双極性障害の原因として、遺伝の影響はほぼ間違いないと考えられています。実際に双極性障害の患者さんの家族のことをきくと、双極性障害の人や気分の波が大きい人がいることが多いです。
統計をみても、双極性障害の一般的な生涯有病率は0.24~1.6%といわれていますが、双極性障害の人の子供では5~10%で発症が認められます。およそ10倍にリスクが上がると言われています。
これをうけて一卵性と二卵性の双子を比較する研究も行われました。双子は育つ環境はほぼ同じなので、遺伝の要素が強くなります。この研究でも、遺伝子が全く同じ一卵性双生児での双極性障害の影響の大きさが明らかになりました。
結果、原因遺伝子を探す研究が行われ、原因遺伝子の候補は見つかってはいますが、その特定にまでは現在至っていません。
原因その②「性格」
双極性障害の人の病前性格(病気の前の性格)には、いくつかの傾向がみられます。
このことは昔から知られていて、ドイツの精神科医のクレッチマー(1888~1964)は、病前性格として「循環気質」を見出しました。循環気質とは、社交的で人間味があふれ親しみやすく、他人への気配りも上手で周囲と同調していこうとする性格です。このような人は周囲の人間関係を盛り上げて、仕事も快活にバリバリこなします。社会的に成功を収めやすいといえます。クレッチマーはこのような人が、自然と双極性障害に移行しやすいと提唱しました。
これに対して、発病の原因を重視して性格傾向を分析したのが下田光造(1885~1978)の「執着性格」であり、テレンバッハ(1914~1994)の「メランコリー親和型・マニー親和型」です。熱して冷めにくい執着性格による感情興奮による疲労や、秩序を重んじるメランコリー親和型やマニー親和型での秩序の破綻からストレスをため込み、病気につながると考えられました。
これらの性格傾向が双極性障害の人の根底にみられることがあります。双極性障害では病前性格に目だった特徴がないという統計もありますが、実際にはその特徴を認めることはよくあります。病前性格が診断の助けになることもあります。
原因その③「養育環境」
幼少期の母親との関係は至って重要だと言えます。幼少期のストレスは、ストレスに対する脆弱性につながってしまうことが解ってきています。
動物実験では、妊娠中に母親にストレスを与えると、生まれた子供の脳の発達が遅れていることが示されています。また、生後すぐに子供を母親から引き離すと、ストレス脆弱性が形成されます。
母親との関係は非常に重要で、幼児期に母親からじゅうぶん世話を受け、その過程で基本的信頼感が育ち、それが健全な自我をはぐくむ大きな要素になります。母と子のスキンシップはストレスへの耐性を育てます。
これを裏付けるように、幼少期に親を失った人は、気分障害の発症率が高いことが知られています。
原因その④「ストレス」
ストレスはどのような病気でも発症の原因となります。双極性障害の原因としても、ストレスは間違いなく影響しています。
どれくらいのストレスにさらされると、双極性障害を発病するのかはわかっていません。また、ストレスは決して悪いことばかりではありません。家の新築や昇進といった喜ばしいことでも、変化は大きなストレスとなることがあります。
ストレスがかかると、身体は多くのエネルギーを必要とします。このため、血糖を上げるホルモンであるコルチゾールを増やそうとします。このコルチゾールが高い状態が長期にわたって続くと、脳に大きな影響があります。神経細胞にダメージを与えることが分かっていて、特に海馬の機能が低下することが分かっています。
ストレスにさらされて中枢神経のダメージが蓄積することが、双極性障害の発症原因のひとつと考えられています。
原因その⑤「生活リズムの乱れ」
生活習慣の乱れは、双極性障害を引き起こす直接の原因ではないでしょう。しかしながら双極性障害になる要因がある人は、体内時計の乱れが病気の発症のきっかけになることもあります。
わたし達の日常の規則正しい生活には、メラトニンというホルモンが極めて大切な役割を果たしています。メラトニンは体内時計のリズムを整えてくれているホルモンで、視床下部に働きかけることによって自律神経を調節しています。睡眠と覚醒・食欲・体温・心肺機能・性欲などをコントロールしています。また体内の代謝や免疫なども調整しています。
夜型の生活をしてしまって体内時計のリズムが崩れると、メラトニンのバランスも崩れてしまいます。睡眠が乱れるだけでなく、自律神経全体のバランスが崩れてしまいます。
徹夜をすると、身体は疲れてしんどいはずなのに頭がさえていて元気なことがあります。睡眠が極端に減少すると、原因はよくわかっていませんが活動的になることがわかっています。うつの治療に断眠療法などが行われることもあります。
双極性障害は、体内時計の影響をうけやすい病気です。ですから、規則正しい生活習慣が大切です。
原因その⑥「家族」
家族は、本人を取り巻くもっとも身近で重要な存在です。家族の本人への関わり方が、双極性障害の発症にも関係していることがわかっています。
本人への家族の「感情表出(expresed emotion:EE)」と双極性障害への影響が研究されています。
「感情表出が高い(High EE)」とは、家族が本人に対して批判的であったり、過干渉などと過保護であったりする場合のことをいいます。HEEの家族では、うつ状態と躁状態のどちらの再発率を上げてしまいます。とくにうつ状態を重症化させることが報告されています。
家族が双極性障害という病気を理解して受容できれば、本人への接し方も変わってきます。ストレスが軽減して双極性障害の再発が減っていきます。