A1 PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状には、共通して4つの症状(「再体験症状、回避症状、麻痺症状、過覚醒症状」)が認められます。また、さまざまな合併症がみられることも多いです。
再体験症状
無意識のうちに記憶がのぼってくる症状です。その程度はさまざまで、悪夢という形をとることもあります。再体験症状は、さまざまな形で認められます。再体験症状とは、過去に受けた外傷的体験を、長い年月を経た後で反復的、侵入的に再体験することです。ここでの侵入的という意味は、まるで瞬間冷凍されたかのようにいったん心の中に封じ込められた外傷体験の記憶が、普通の記憶に加えてもらおうとするかのように、何度も何度も繰り返して意識にのぼってこようとします。無意識に繰り返し起こってしまうような状態を、侵入的と言います。この症状では過去の外傷的体験をリアルタイムで体験しているかのように、感情的反応として恐怖、無力感、戦慄などを伴います。また無意識のうちに悪夢となって追体験することもあります。このような再体験症状を、「フラッシュバック」と一般的には呼びます。このフラッシュバックの程度も幅が広く、瞬間的に映像として感じられるようなものから、我を忘れてしまって取り乱してしまうほどのものまで様々です。フラッシュバックをして我を忘れてしまうほどの状態は、現実感が失われてしまった解離症状が合わさっています。
回避症状
トラウマに関連することの回避が、成長する過程で社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。回避は、文字通りPTSDの原因である外傷的体験を受けた出来事を避けて、それから逃れようとする行動です。つまり、二度と経験したくないような恐ろしい出来事に対して、意識的に避けると同時に、無意識のうちにも、そうした場面に遭遇することを避けようとするのです。分かりやすくするために例をあげます。外傷的体験の出来事が監禁だったとします。そうした体験に遭った人は、狭い場所や鍵のついた部屋は無意識のうちに避けてしまいます。レイプの体験もしかりです。こうした人たちは男性が集まる場所や人気のない寂しい場所は、知らず知らずのうちに避ける傾向があります。
こうした行動が回避なのです。さらに言えば、過去に体験した怖い出来事を思い出させるような状況とか登場人物、あるいは活動の状況などを無意識のうちに避けて逃れようとする行動をとるのです。注意すべきことは、こうした対象が広がっていくと、結果的に孤立してしまう危険性がある点です。幼少期にトラウマを抱えると、健全な社会的成長を妨げてしまうこともあります。
麻痺症状
プラスの感情がなくなり、気分や物事のとらえ方がネガティブに歪んでしまいます。外傷的体験のトラウマを持つ人は、無意識のうちにわが身を苦痛から守ろうとします。そんなときには感情を遮断して無感情のような状態になることがあります。このように感情が麻痺したような状態になることを「麻痺症状」といいます。
この症状になると、物事に対する興味や関心を失い、何ごとに対しても意欲がなくなり、人としての生き生きとした感情が感じられなくなります。このように喜びや幸せ、満足感といったものが失われることもあれば、気分や物事のとらえ方がネガティブな方に歪んでしまうことがあります。自己肯定感が乏しくなってしまい、さまざまなことに対して過剰に否定的になってしまいます。ときには、「父が私を虐待したのはすべて私が悪いからだ」といったように、歪んだ認識を持ち続けることがあります。恐怖や不安、怒りや罪悪感、恥の意識から、イライラし憂うつな気分が続いてしまうこともあります。
過覚醒症状
易刺激性や集中困難、不眠といった形で認められます。衝動的な自己破壊行為につながる人もいます。過覚醒症状とは、精神的にいつも緊張していて、張りつめた状態になっていることです。ちょっとしたことにイライラしてしまって、実際に行動に出てしまうこともあります。危険運転や薬物乱用、自傷や自殺企図のように自己破壊的な活動に及ぶこともあります。トラウマに関係する刺激に対してはもちろんのこと、予期しない物音や動きに対しても非常に過敏になってしまいます。普段の出来事をなかなか思い出せなくなってしまい、集中が続かなくなってしまうこともあります。睡眠にも影響が出ることがほとんどで、覚醒が強くなってしまって不眠が続き、悪夢という形をとります。
過覚醒症状が起こるのは、PTSDの原因となった体験により精神的に常に不安定な状態が続き、そのために集中力が欠けて周りに対して警戒心が強くなり、精神的に過敏な状態がずっと続いてきたからです。
たいていの人は例え衝撃的な出来事に遭遇したとしても、記憶は徐々に薄れていき、遅くても数週間もたつと通常の精神状態に戻ります。しかし過覚醒の場合には、いつまでたっても記憶は薄れず、いつまでも不安定な状態が続くのです。その結果、不眠症になったりして、次第に精神と肉体に疲労が蓄積していくのです。
合併症について
PTSDで苦しむ方は、さまざまな精神疾患を合併していることが多いです。80%以上の方が、何らかの精神疾患の診断基準を満たすといわれています。これらの精神疾患とは、うつ状態、パニック障害、解離性障害、身体化障害、転換性障害、摂食障害、人格障害、アルコール・薬物乱用などです。子供では、行為障害や分離不安障害などが多いです。薬物乱用や行為障害は、女性よりも男性に認められやすい傾向があります。
PTSDでは、解離症状を伴っている場合が多いです。あまりに強いストレスや葛藤に直面した時に、それを正面から受け止めてしまうと心が耐えられません。このため、意識や記憶、思考や感情、行動や知覚といったものをバラバラにして受け止めます。よくあるのが意識を切り離してしまう解離性健忘です。実際に経験したことでも、自分の意識を切り離すことで記憶がなくなります。このようにして心を守るのです。
現実感がなくなり、自分が自分でないような離人感が認められることもあります。再体験症状であるフラッシュバックも、あたかも被害がまた生じているかのように感じるのは現実感を失った解離です。
また、トラウマの重要なところを思い出せないといったことがあります。ときにはトラウマの出来事すべてを長年忘れ去っていることがあります。それが何かの機会に思い出されて、突然PTSDの症状に襲われることもあります。 このようにみると、PTSDは大きな出来事によって発症し、それが解離症状によって慢性化した病気と考えることができます。