A3 近年、自閉症の定義の見直しが行われました。以前は、自閉症は特徴ごとに細分化され、別々の障害としてとらえられていました。しかし、数年前に「自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder /Disability)」という一つの障害に統合されました。
先ず自閉症の定義が見直された背景についてお話しします。
その理由は「スペクトラム」というネーミングが物語っています。「スペクトラム」とは英語で「連続体」と言う意味です。連続しているので明確な線引きが難しいということです。
自閉症は特に小児に関しては、成長・発達とともに障害の定義に当てはまらなくなることが大半です。診断の境界線を明確に区切ることは不可能なのです。自閉症は先天的な脳の機能障害ですから、成長・発達に伴って診断名が変わるのは合理的ではありません。そのため、自閉症のサブカテゴリとして分類されていた個別の障害を、ひとまとめに扱う方が理にかなっています。そうして誕生したのが、「自閉症スペクトラム障害」という分類なのです。
言うまでもないですが、「自閉症スペクトラム障害」は発達障害の一種です。発達障害は他にもADHD(注意欠如4・多動性障害)や学習障害(LD)などがあります。
自閉症は、その特徴ごとにいくつかの障害に分類されていました。現在でも、患者や家族の理解がしやすいように統合前の名称が使用されることは少なくありません。「自閉症スペクトラム障害」には、以下の障害が含められています。
自閉症
いわゆる昔からある自閉症。言語の遅れ、社会性の欠如や人とのコミュニケーションが難しい、特異的な行動、特定の物事に対する興味の偏りなどがみられる。特異的な行動は例えば「クレーン現象」に見られるように、物を手に取りたいときに人の手を掴んでその物を取ってもらおうとする行為です。その他にも回っているタイヤが好きだとか定型発達の子には見られない行動を取ります。
高機能自閉症
知的機能に問題はないが、自閉症の症状がみられる。成長・発達とともに言語の遅れはなくなっていくため、アスペルガー症候群に移行することが多い。
アスペルガー症候群
高機能自閉症との違いは言語発達には遅れがないことのみ。
カナー症候群(低機能自閉症)
知的発達の遅れを伴う自閉症。知能指数(IQ)が70以下を診断の基準とする。
サヴァン症候群
自閉症の中でも一定の分野に著しく秀でた才能を持つ。その分野においては「天才的」な能力を発揮する。
ヘラー症候群(小児期崩壊性障害)
10歳程度までは成長・発達に問題がなかったものの、ある時期を境にこれまで獲得してきた能力を失っていく。最終的には自閉症と同じような状態になる。
自閉症スペクトラム障害の特徴は、①社会的コミュニケーションの問題、②行動が限定される、興味が偏っている、行動を繰り返す、などが上げられます。
① 社会的コミュニケーションの問題とは?
社会的なコミュニケーションの問題とは対人関係でコミュニケーションを図ることが困難なのが特徴です。
- 会話の「流れ」を理解するのが困難
- 例えや社交辞令、ジョークや皮肉が理解できず、そのまま受け取ってしまう
- 「アレ」「いつもの」などの「こそあど言葉(指示語)」が理解できない
- 身振りや視線などの「非言語的」な表現の意味を理解できない
- 言葉の間にある表現されない「行間」を推測するのが困難
- 他者の「感情」を推測するのが困難
- 「オウム返し」が多い
② 行動が限定される、興味が偏っている、同じ行動を繰り返すとは?
一言でいうと「興味・関心の幅が極端に狭く、それに対して著しいこだわりを示す」ことです。
- 決まったことを決まった通りに行わないと混乱する
- 自分の行動パターンに対するこだわりが極度に強い
- 臨機応変な対応ができない
- 特定のことにのみ非常に強い関心を持ち、そのことに関する知識や技術がずば抜けている
- 興味・関心のあること以外については、ほとんど無関心
この二つの特徴は、「他者」を排除しているように映ります。それは本人の性格や人格のせいではありません。もちろん本人もそのような意志はないのです。しかし周囲からは「人間関係を築くつもりがない」とみなされてしまいます。その結果、自分が「他者の集まりである社会」から排除されることに繋がってしまいます。
自閉症スペクトラム障害の人が二次的に精神疾患を発症しやすいのは、この「本人の意識と周囲の認識のギャップ」が大きな理由のひとつです。
自閉症スペクトラム障害は先天的な脳の機能障害です。にもかかわらず、彼らの言動は社会の中では「受け入れられにくい」という性質を持っています。しかし彼らにも感情はあります。社会から受け入れられないことによって、二次的に精神疾患を発症してしまうリスクが非常に高いのです。
自閉症スペクトラム障害の人たちにとっての重要課題
- 自閉症スペクトラム障害がもとになって起こる二次障害(鬱や不安障害など)を防ぐこと。
- そのために「社会集団で生きていくための訓練」を受け、ソーシャルスキルを身に付けることです。
二次障害を防ぎ、社会の一員として自尊心をもって生きていくためには、できるだけ早くトレーニングを開始することが重要です。親御さんの中には、お子さんの障害を認めたくない方が少なくありません。しかしそれは、いたずらに本人を苦しめるだけなのです。
発達途上にあり柔軟性を持ち合わせているうちに、療育などを通じてソーシャルスキルのトレーニングを受けることで、自閉症スペクトラム障害を抱えていても「社会人」として自立できる可能性が高くなります。そしてそれは、年齢が低ければ低いほど効果を発揮するのです。 お子さんの障害を認めることはとても勇気がいる事です。おそらく前向きになるのに時間がかかる場合もあるでしょう。ですが、受け入れられないのはそれだけお子さんを大切に思っている証拠。その愛情を、少しだけでもお子さんの将来に向けてみてあげて下さい。