発達障害について

障害者と雇用者の負担を減らす

発達障害のある従業員への仕事上の指示の出し方

一般社団法人日本雇用環境整備機構 理事長 石井京子

 

1発達障害のある従業員の増加

発達障害のある人を障害者雇用枠で採用する企業は増えています。厚生労働省発表の「平成28年度ハローワークにおける障害者の職業紹介状況」では、新規求職申込件数19万1,853件(前年度比2.5%増)、就職件数9万3,229件(同3.4%増)、就職率48.69%(同0.4%増)で、そのうち精神障害者の就職件数は4万1,367件(7.7%増)と増加傾向が続いています。10年前と比較すると、身体障害者の採用が中心であった状況から大きく変化していることがわかります。

この精神障害者の中には発達障害者が含まれていますが、内訳は不明です。しかしながら、発達障害者に特化した就労移行支援事業所も増え、就労移行支援を利用した発達障害者の就職件数の増加が報告されていることからも、多くの発達障害者が障害者雇用枠で就職しているものと推測されます。つまり、職場に発達障害のある従業員が配属されていることは珍しくなく、発達障害のある従業員と一緒に働くことは当たり前のことになりつつあるといえるでしょう。

2発達障害のある従業員への対応

特例子会社のように、障害のある従業員を数多く採用している企業では、長年の障害者雇用の経験から、障害のある従業員の特性に合わせた対応について豊富な知識とノウハウを持っていると思います。ところが、初めて障害者を雇用する企業では、採用に携わる人事担当者はともかく、配属先の従業員全員が発達障害について十分な知識を持っているとは限りません。また、発達障害の特性は1人ひとり異なり、個人差が大きいのが特徴です。ある作業1つとっても、その時のちょっとした状況によりできる場合とできない場合があります。そのことが発達障害の特性への理解をさらに難しくしています。

発達障害は脳機能の発達が関係する障害で、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などがあり、その主な特性は次の通りです。

同じ診断名であっても、障害の程度や年齢、経験、生活環境により症状が異なってきます。

職場で発達障害のある従業員に仕事上の指示を出すときには、特性への基本的な対応を押さえたうえで、その従業員の理解度を測りながら指示を出すことが必要となります。特性への基本的な対応とは、コミュニケーションや対人関係が苦手であるといったことを踏まえ、本人が理解しやすいよう適切な対応をとるということです。特に、仕事に関するあいまいな指示は伝わりにくいので、明確で具体的な指示をすることが何よりも重要です。

3わかりにくい表現

発達障害のある人にとって“わかりにくい表現”として、代名詞や省略語があります。日本の職場では「昨日のあれどうなった?」「あれやっておいてね」など、代名詞を多用したやりとりが頻繁になされています。ところが、発達障害のある人は、突然このような質問や依頼をされても、「あれ」が何を指すのかがわからず、あたふたしてしまうでしょう。

思考がフリーズしてしまうことも考えられます。しかし、例えば「そこのあれを取って」ではなく、「机の上にあるブルーのファイルを取って」と言われれば、理解できます。

代名詞だけでなく、省略語もわかりにくい言葉の一つにあたるかもしれません。「リモコン」や「スマホ」のように、すでに一般に普及している省略語もありますが、「あけおめ、ことよろ」(メールで使用される「明けましておめでとう、今年もよろしく」の省略語)、「ワンチャン」(ワンチャンス)等の流行の若者言葉などもあります。現場でよく使われる省略語などを聞いても、おそらく瞬時に直観的に理解するのは難しいでしょう。

このように、代名詞や省略語をなるべく使用しないことがとても大切です。他にも、発達障害のある人が理解しづらい表現や指示の例をいくつか紹介します。

適当にやっておいて

日頃の仕事ぶりから「このくらいならできるだろう」「きっとわかっているだろう」と上司は判断し、「適当にやっておいて」と、部下に仕事を任せることも多いと思います。

しかし、発達障害のある人の特性として、“想像力が乏しい”“相手の意を汲むことが苦手”ということがありますので、「適当に」という曖昧な指示では、何を、どのように、どのくらい、いつまでにやるのか検討がつかずに困ってしまうでしょう。自分のやるべきことがわからず、不安さえ感じてしまうかもしれません。就労経験の長い人であれば「どのようにすればよいのですか?」と質問できるかもしれませんが、多くの発達障害のある人の場合は、自ら確認することが難しいと思われます。

だいたいでよいから

物事の要点や数量などを、おおざっぱに捉えるときに「だいたい」という言葉を使いますが、細部に注意が向いてしまう発達障害のある人は、物事を大枠でとらえることが苦手です。「適当に」と同様に、「だいたい」の範囲を測りあぐねることでしょう。もちろん、指示を出された本人は、何をどうすればよいのか一生懸命考えるでしょうが、そもそも物事をおおざっぱに捉えることができないので、上司の求める「だいたい」がどの程度のものなのかは理解できません。

発達障害のある人に指示を出すときは、いつまでに、何を、どうして欲しいのかを具体的に伝えます。例えば、資料等の作成を指示する場合、自由な形式とするとかえって悩んでしまうことがあるので、前回の資料を例示するとよいでしょう。

できるだけ早くやってね

「できるだけ早く」の時間感覚は発達障害のある人には掴むのが難しいため、“いつまでに”と具体的な日時を伝える必要があります。発達障害のある人への仕事の指示にあたって、特に気をつけたいのが、納期と締切りの確認です。「1週間以内の提出」と言われれば、1週間の期限ぎりぎりに提出するでしょう。発達障害のある人は言葉を字義通りに受け取り、相手の意を汲むのが苦手な人が少なくありません。締切期限までには提出しますが、早く提出すれば「相手が喜ぶ」「仕事が早いと評価される」などの効果は思い浮かびません。また、ミスがないかを心配し、何度も見直すため、提出が間際になってしまう場合もあります。1人ひとりの特性を把握し、“いつまでに提出して欲しい”のか、より具体的に伝えます。

電話をかけた際にも「少々お待ちください」と言われたら、就労経験の少ない発達障害のある人はこの「少々」が示す時間を測りかねるでしょう。

好きなようにやっていいから

忙しくて手が回らないとき、上司が部下に自分の仕事を振ることがあります。「好きなようにやっていいから」と言っても、実際のところ、「この位のレベルや量の仕事であれば、できるだろう」「前回の資料があるから、わからないことがあれば聞いてくるだろう」と上司は思っているはずです。上司の「好きなようにやっていいから」は実は少しくらいなら違ってもよいけど、前回の資料と同じように作成して欲しいということかもしれません。

一方、発達障害のある人が「好きなようにやっていいから」と言われたら、その特性から言葉の真意に気付かず、字義通りに受け取れば、「自分の思うままにすればよい」と思い込んでしまうかもしれません。

だましだましやってね

「中古のパソコンをだましだまし使う」というように、手加減しながら、また調子を見ながら扱うときなどにこの言葉は使われますが、発達障害のある人はその意味を捉えにくいでしょう。「様子を見ながらやってください」と伝えるのが親切です。

4明確で具体的な指示を出す

発達障害のある人への指導にはわかりやすく、具体的な指示が欠かせません。口頭で伝える場合は、シンプルかつストレートに伝えることが大事です。婉曲的な表現だけでなく「説明が長い」、「複数の指示が含まれている」等もわかりにくい表現の1つになります。発達障害のある人は婉曲的な表現を理解しにくく、また短期記憶の容量に問題がある人の場合は、長い話を聞くことや複数のことを同時に説明されるのが苦手です。つまり、発達障害のある人への指示はストレートかつシンプルに行うのがよいのです。

5特性に応じた指示をする

発達障害のある人には視覚優位で文字情報から情報を得たい人、聴覚優位で文字よりは口頭で説明を受けたい人、文字情報だけでは仕事のイメージが浮かばないので口頭で説明を受け、さらにやってみせて欲しい人と、様々なタイプの人がいます。つまり、口頭による指示だけはなく、その従業員の特性に合わせた適切な方法により指示を行うのが最も効果的ということになります。

口頭での聞き取りが弱い人には文字情報は必須です。口頭で必要な情報を伝え、その際に本人が問題なく受け答えしていたとしても、後になって聞き漏らしてしまった、忘れてしまったということが発生し得るからです。特に、背後から声をかけると注意力が弱まります。

聞き取りの弱い人に対して、大事な情報と指示(時間や数字、複数の事項、複雑な指示等)を伝えるときには、後で確認できるようにメモをとらせる、あるいはメールでも連絡するなど、文字情報として残すことが重要です。これは本人の安心にもつながります。

また、文字情報だけでは仕事のイメージが浮かばないという人に対しては、聴覚からの情報がよいのか、それとも実際にやってみせて、その後本人にやらせてみるのがよいのか、発達障害の特性によって教え方は異なります。その従業員にとって最も理解しやすい方法で指導していきます。

どのようなタイプであっても、仕事を教える際には作業マニュアル、フローチャートは準備しておくと、発達障害のある従業員はあんしんして仕事に取り組むことができます。

6「メモを取るのが苦手」な場合は

発達障害のある人は複数の作業を同時に行うことを苦手とします。例えば、仕事の指示を受けたときに、聞くこととメモを取ることを同時に行うには困難が生じます。

「メモを取る時間をいただけますか?」と自ら申し出ることができればよいですが、すべての方ができるとは限りません。

例えば、電話対応では聞くほうに集中すれば「メモが取れない」、「メモを取ることに集中すれば聞いている内容が頭に入らない」ということになりがちです。このような場合は電話対応メモ、指示受けテンプレートなど、あらかじめ必要な項目を記入するシートなどを用いれば、次第に必要な作業が身に付いていきます。そもそも字を書くのが苦手、話を要約するのが苦手であるのは、メモを取るのが苦手ということが影響しています。

そのため、書かなければならない文字を必要最小限度で済ませられるような工夫が求められます。また、具体的事例を挙げてメモの取り方自体を練習させることも効果的です。

7「優先順位をつける」のが苦手な場合は

発達障害の人は優先順位をつけるのが苦手です。細部に注意がいきやすいこともあり、先の見通しを立てることが苦手ですから、すべての仕事に同じように力を入れます。また、特に指示がなければ、依頼された順番に淡々と仕事を進めていくでしょう。そのため、急ぎの案件がある場合には優先順位を指示します。都度優先順位を指示すれば、その通りに作業します。作業に慣れてきて、作業内容が明確に記された工程表、スケジュール表などがあれば、その工程表の見方と使い方を丁寧に教えることにより、本人でも対応ができるようになります。ただし、作業の進み具合によって作業の順番を変更するときは急な変更を本人が受け入れることが難しい場合もあるので、明確に、具体的に説明し、実際にやらせてみる必要があります。

8注意・指導で重要なこと

仕事上、適切な方向へ改善を促すために、注意・指導をする場合が出てくるでしょう。発達障害のある人に対して仕事のミス等を注意する際は、穏やかな姿勢で端的に指摘し、“どのようにしたらよかったのかを示す”ということが最も重要です。

発達障害のある人の中には相手の声の大きさや表情に敏感で、不安になりやすい人がいますので、強く叱責されると『怒られた』ということに強い不安とストレスが増大し、それだけで頭がいっぱいになり、正しい処理方法を学ぶどこではなくなってしまいます。また、人によっては注意されることに過剰に反応し、パニックに陥ってしまうこともあります。注意を被害的に受け取るタイプの人は、相手が自分を嫌っていると思い込んでしまうこともあります。注意を被害的に受け取るタイプの人は、相手が自分を嫌っていると思い込んでしまうこともあります。

注意や指導を受けたことで相手への不信感などが強まらないように配慮する必要があります。指示やアドバイスは問題が生じたときに、速やかに、何が問題で、どうすればよかったかを具体的に指導係から直接伝えることが大事です。さらに、大勢の前で注意するとストレスが高まりますので、可能な限り、別の静かな場所で穏やかに注意するのが適切な対応でしょう。

9その他の留意点

  • 学習方法の違い

視覚優位、聴覚優位など、特性によって、情報収集の方法が異なることは先述した通りです。初めて発達障害のある人を採用した企業では、一般的に指導係がついてOJTにより指導していくことになります。発達障害のある人の中には、情報収集やその後の頭の中での処理方法が異なるという特性のため、一般の人と同じような方法、時間配分では学べないことがあります。中には、標準的な時間内では業務を習得できない人もいますが、新しいことを習得するには少し時間がかかることを理解し、根気強く、ゆとりを持って対応します。短期記憶が弱い人もいますが、何度も経験して長期記憶として認識するようになれば、ルールに従い間違いなく遂行する人は多いと思います。

  • 感覚過敏

発達障害のある人には感覚過敏あるいは鈍麻があることが知られています。個人差がありますが、視覚過敏のある人は眩しいと感じやすく、聴覚過敏のある人は騒音のある環境は耐えがたく、体調に影響が出る場合もあります。感覚過敏に関しては、眩しさや騒音のない座席の設定など、働きやすい環境の整備が必要です。本人が色のついたレンズの眼鏡や耳栓などの使用許可を申し出ることもあります。これらの感覚過敏の緩和のための環境調整は合理的配慮として提供すべきものです。

  • 特性理解

発達障害のある人の中には雑談を苦手とする人が少なくありません。仕事上の目的のある会話には支障ありませんが、日常の会話では気の利いた話題を提供できないことで、雑談に苦手意識を持っています。そのため、面接のときに「雑談が苦手です」と伝えて、入社される方は少なくありませんが、発達障害について十分な知識のない職場では誤って理解されてしまうことがあります。本人が雑談を苦手と感じていても、自分から話題を提供できないだけで、決して話しかけて欲しくないわけではありません。むしろ、自分の知らないことを色々と教えてくれる人には感謝の気持ちで一杯なはずです。発達障害のある人が職場で孤立感、疎外感をもたないよう、周囲の方々による声掛けが何よりも重要です。

発達障害のある人の採用が増え、発達障害のある従業員と一緒に働く職場も珍しいことではなく当たり前の光景になるでしょう。発達障害のある従業員が安心  して、長く活躍するために、発達障害も含めた多様な特性を持つ人材を適切にサポートし、コーディネートできる人材が増えることを期待します。

 







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