障害者虐待の防止(令和6年7月「手引き」より その1)

・はじめに

この国おいては、障害の有無に関わらず多様な生き方を前提にした、共生社会の実現を目指しています。共生社会の実現には、障害者への偏見や差別意識を社会から払拭し、一人ひとりの命の重さは障害の有無によって変わることはない、という当たり前の価値観を社会全体で共有し、障害のある人もない人も、お互いの人格と個性を尊重し合うことが不可欠だと言えます。
平成 26 年1月に批准した、国連の「障害者の権利に関する条約」は、障害者の「人権」および「基本的自由」の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とし、「障害者の権利」の実現のための措置について定めています。
平成 25 年 6 月に改正された「障害者基本法」の目的には、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現することが定められています。
また、平成 25 年 4 月に施行された「障害者の日常生活、および社会生活を総合的に支援するための法律」(以下、「障害者総合支援法」という)の基本理念においては、障害者の支援は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるという理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、全ての障害者、および障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活、または社会生活を営むための支援が受けられることにより社会参加の機会が確保されます。どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと、並びに障害者、および障害児にとって日常生活、または社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念、その他一切のものの除去に資することを旨として、総合的かつ計画的に行わなければならないことが定められました。
平成 28 年 4 月には、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行され、何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別すること、その他の権利利益を侵害する行為をしてはならないことや、社会的障壁の除去を怠ることによる権利侵害の防止等が定められました。
障害者虐待防止においても、共生社会の実現、および権利擁護の考え方を共有することを前提に進められることが重要となります。

1 障害者虐待防止法の成立

障害者に対する虐待は、彼(女)等の尊厳を害するものであり、障害者の自立と社会参加にとって、障害者虐待の防止を図ることが極めて重要なことです。こうした点を鑑み、障害者虐待の防止や養護者に対する支援に関する施策を推進するため、平成 23 年 6 月 17 日、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「障害者虐待防止法」)が議員立法により可決、成立し、平成 24 年 10 月1日から施行されました。
この法律は、障害者に対する虐待の禁止、障害者虐待の予防、および早期発見、その他の障害者虐待の防止等に関する国の責務、虐待を受けた障害者に対する保護および自立の支援のための措置、養護者の負担の軽減を図ること、養護者による障害者虐待の防止に資する支援のための措置を定めることにより、障害者虐待の防止、養護者に対する支援に関する施策を促進し、障害者の権利利益の擁護に資することを目的としています。

2 障害者虐待防止法の背景

障害者が、施設や職場でひどい虐待を受ける事件が次々と明らかになったのは 1990 年代後半からです。サン・グループ事件、水戸アカス事件、白河育成園事件、カリタスの家事件などです。それ以前から虐待はありました。しかし、福祉制度が措置から契約へ変わろうとする時期、契約の主体として障害者が見られるようになり、また先進諸国での障害者の権利擁護の潮流が、虐待に光を当てるようになりました。障害者虐待が重要な社会問題として認知され、真相解明や救済に関係者が乗り出す原動力になったのです。
被害にあった障害者の多くは、判断能力にハンディがあってSOSを訴えらず、訴えても相手にされませんでした。障害者の家族も虐待に気付きながら障害のある我が子を「預かってもらっている」という負い目や、他に行き場がないという恐怖から沈黙を強いられていたのです。「こんなかわいそうな子、預かってもらえるだけでありがたい。少々ぶたれたっていいんです」という親、目の前で我が子が殴られているのにそれを止められない親がいました。
しかし、我が子が殴られて泣いているのに悔しくない親がいるでしょうか。警察や行政に訴えても取り合ってもらえず、障害のある子を産んだことで親戚から責められ、社会の中で偏見にさらされてきた親たちも多かったのです。
虐待は許されないことを明記し、全ての国民に通報義務を課した法律ができたことは、障害者本人や家族を理不尽な呪縛から解き放つ転換点となることを意味します。理念規定だけでなく、全ての市町村に虐待防止センターが設置され、虐待の通報を受けて調査や救済に当たることが法律で定められました。
親(養護者)が虐待の加害者になるケースが多いのも事実です。たとえ我が子であっても、その子に障害があっても、親による虐待が許されるはずはありません。重い障害がある人も、親から独立した人格として尊重されなければなりません。そうしたことを法律で改めて謳う意味は大きいと言えます。
ただ、我が子を虐待する親の中には、自らに障害や病気や貧困などがある場合も見られます。障害のある子を産み育てる中でさまざまな困難に直面し、生活困窮に陥っている場合もあります。この法律では虐待防止だけでなく、養護者に対する支援が求められているのはそのためです。
福祉や雇用の現場の職員にとってもそうです。自傷、他害、パニックなどの行動障害にどう対処していいかわからず、戸惑いや不全感を抱いている職員は多いはずです。かつては、力で抑えつけ、暴力で威嚇することによって対処してきた現場が多く、そうしたことができる職員が暗然たる影響力を持っていたものです。
現在でもそのような福祉職場でひどい虐待が起きています。障害者の権利擁護を重視する職員もいますが、先輩や上司が作ってきた暗黙のルールに支配され、同調圧力の強い職場で声を上げられずにいるのです。
この法律ができたことで、福祉施設内で虐待防止委員会や虐待防止担当者が設置され、職員には虐待を通報する義務が課せられています。職員の良識を守り、よりよい支援を追求できる職場にするためにも、この法律を生かしていかねばなりません。

3 障害福祉サービス事業者としての使命(倫理・価値)

平成 25 年 4 月 1 日に「障害者総合支援法」が施行され、目的規定において、「基本的人権を享有する個人としての尊厳」が明記され、基本理念が規定されています。
その理念の一つに、「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊敬されるものである」ことが示されています。また社会福祉法第24条では、社会福祉法人の機能として、「サービスの質の向上」が明記されています。サービスの質とは、「マネジメント・ガバナンスの質」「財務の質」「人材の質」「支援の質」「設備・環境の質」「ステークホルダーに対するパートナーシップの質」であり、虐待防止の基本は、全ての質を磨き上げることにあります。
このことから、障害福祉サービス事業者としての使命は、「権利の主体者である福祉サービス利用者の人権を守り、絶えず質の高いサービスの提供に努力すること」にあります。そして、「利用者のニーズベースの支援」「意思決定の支援」「説明のできる支援(evidence based practice)」「合理的配慮」を基本としたサービスの提供が求められます。
「意思決定の支援」では、様々な経験を支援するための「社会参加」、暮らしの中での「選択と決定」ができる経験と環境の支援、様々な代替コミュニケーション支援を通した「表出コミュニケーション支援」が重要となります。「合理的配慮」は、「障害特性に応じた人も含めた環境の提供」であり、障害特性の理解と支援が基本となります。特にアセスメント力が重要なのは言うまでもありません。
事業者として、質の高い支援を提供するためには、サービスを提供する人材の育成が欠かせません。明確な組織としての「理念」「使命」「ビジョン」「支援者としてのコア・バリュー、倫理」を示し、計画的な人材確保と人材育成を行わなければなりません。福祉事業所は、「利用者の権利を守る砦である」という自覚に基づき、虐待防止の取り組みを組織的に、また計画的に進めることが障害福祉サービス提供事業者の責務となります。

4 障害者虐待を契機に再生した事業所の事例

県は、社会福祉法人Aが運営する入所施設で、興奮状態になった男性の利用者に対して、職員が馬乗りになって押さえつけるなどの行為が行われ、利用者にあばら骨を折るケガを負わせていたことや、自立訓練施設で、複数回にわたり宿直の男性職員が女性利用者に対して性的虐待を行うなど、4つの施設で虐待が行われていたことを認定しました。
法人Aでは、これらの虐待を把握していたものの通報せず、県に相談が寄せられたことを受けて実施した特別監査でようやく判明したもので、県はこの法人に対して4つの施設で3カ月から1年の間、新たな利用者の受け入れを停止する行政処分を行うとともに、改善報告を提出するよう命令しました。
法人Aは、虐待が起きた原因や、虐待を把握していたにも関わらず通報しなかった理由を分析し、対策として虐待(疑い含む)があった際の対応フローを整理し、市町村へ適切に通報する仕組みを作りました。また、職員としての倫理、考え方の統一を図るための支援ガイドラインを作成し、各施設において毎月支援の振り返りを行い、再発防止に現在努めています。
この事例は、虐待(疑い含む)があった場合の対応フローを整理したことで、虐待の疑いと思われる段階で、全て市町村に通報するように改善されました。その結果、虐待の疑いを施設内で抱え込んでしまうことや、通報を躊躇したり、隠そうとしたりする意識がなくなりました。職員も、不適切な対応がないよう気をつけることが習慣化し、支援ガイドラインを活用した振り返りの浸透によって、支援の質の向上につながったと言えます。

5 通報は全ての人を救う

これまで起きた深刻な虐待事案から、最初は軽微な虐待行為だったものが放置されることでエスカレートし、利用者が重傷を負うような事件に発展してしまうことが解ってきました。
虐待を通報せずに隠してしまうと、その後、エスカレートして利用者に重傷を負わせるような取り返しがつかない損害を与えてしまうだけでなく、虐待を行った職員は刑事責任を問われ、施設や法人は道義的責任を追及され、行政処分を受け、損害賠償責任が生じ、設置者・管理者には、法人や施設の運営に関与しないようにする行政指導が行われ、交代することを迫られる事態となるかもしれません。
虐待行為が軽微な段階で適切に通報することができれば、利用者の被害は最小限で留めることができます。さらに、虐待行為を行った職員もやり直しの道が残され、施設や法人の行政処分や損害賠償責任も大きなものにならないで済む可能性があります。さらに、そのことを反省し、再発防止策を講じ、支援の質の向上につなげることができる契機にすることができます。最初に虐待の疑いを感じたとき、適切に通報義務を果たすことができるかどうかが、その後の大きな分かれ道になると言えます。
「通報することは、虐待した職員を罰し、法人や施設に損害を与えること」と感じ、通報することを避けようとする人は少なくないのかもしれません。しかし、通報がもたらす本質的なことは、利用者、職員、施設、法人の全てを救うことにつながります。
障害者福祉施設従事者等による虐待の通報者は、虐待があった施設が自ら通報する割合が年々増加しています。その事実が、通報は全ての人を救う道であることを証明していると言えるのではないでしょうか。







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