ヤングケアラーの負担を軽減するためには、生活福祉や障害福祉、高齢者福祉など様々なサービスの支えも必要となることから、各分野の関係機関が緊密に連携しながら、家族全体を重層的に支援していかなければなりません。さらに、支援にあたっては、家族のケアを行うことが、こども自身の生きがいになっているケースがあることにも留意し、ヤングケアラー本人や家族から話をよく聞き、それぞれに応じてきめ細かく寄り添いながら、全てのヤングケアラーが個人として尊重される視点を持って支援をしていくことも重要となります。 以下は、ヤングケアラー支援の事例です。目を通してみてください。
A. ひとり親家庭、精神疾患の母親のケア及びきょうだいも課題を抱えている事例
1.ヤングケアラー本人
● 小学校高学年女子(以下、「本人」と記載)
2.家族構成
● 母親、姉(中学生)、兄(中学生)、本人
3.ケアを要する家族の状況
● 母親(精神疾患)
4.ヤングケアラーがしていたケアの内容
● 母親の身の回りの世話と、きょうだいの買い物のお使いを頼まれていた。
5.関係機関(ケース聞き取り先に◎)
児童相談所、こども家庭支援センター、学校、訪問看護ステーション◎、社会福祉協議会(生活支援員)、養育支援ヘルパー(こどものケア)、障害ヘルパー(母親のケア)、生活保護ケースワーカー
6.気付きの経緯
本人は、きょうだいから買い物を頼まれ夜遅い時間に買い物に行き、身なりの様子から通報されたことがあった。小学校では、他の母親から本人への服の提供支援もあり、きょうだい3人とも宿題や提出物が提出されず、給食未払い等も発生し、小学校も家庭や母親が課題を抱えていることは気付いていた。きょうだい3人とも精神疾患の診断名がついている。
7.連携した支援の内容
本事例は要保護児童対策地域協議会の登録ケースで、小学校でもケース会議が行われていた。
本人が、兄から暴力を受け、児童相談所に保護され、その後自宅に戻ってきたタイミングで、児童相談所からの要請により、母親への訪問看護が始まった。
こどもへの訪問看護は母親と信頼関係を結んだうえで開始した。
こどもたちの支援にはこども家庭支援センターと児童相談所が入り、養育支援ヘルパーを週2回派遣した。母親の支援には、生活支援員(社会福祉協議会)と訪問看護が入り、障害ヘルパーを週3回派遣した。
その後母親はうつ病が悪化し入院したため、きょうだいは母親の祖父母の元に引き取られ、本人は児童相談所が保護し、施設入所になった。
8.連携の工夫
- 生活支援員は、日々の状況を把握しているヘルパーからの聞き取り、訪問看護との連携等を行い、こども家庭支援センターへの会議招集依頼も積極的に行っていた。
- 母親はこども家庭支援センターに対し「こどもを保護されるのではないか」等の不安を感じており連絡を遮断していたことから、訪問看護ステーションが窓口になっていた。
- 訪問看護ステーションは、訪問時に気付いた変化をこども家庭支援センターや児童相談所、社会福祉協議会に対して、電話で報告し、こまめに連携していた。また、要保護児童対策地域協議会のほか、こども家庭支援センターと社会福祉協議会と訪問看護ステーションによる小さな会議も行っていた。
9.追加で考えられる支援や負担軽減(例)
本人は母親のことは好きでお手伝いもしたがっていたが、きょうだいから頼まれることは嫌だったようである。訪問看護ステーションからは児童相談所に、本人が希望すれば母親との連絡ができるよう依頼をした。
こども家庭支援センターによるこどものショートステイ等があるとよかった。
B.精神疾患の母親のケアの事例
1.ヤングケアラー本人
● 中学生女子(以下、「本人」と記載)
2.家族構成
● 父親、母親、本人、妹(小学生)
3.ケアを要する家族の状況
● 母親(精神疾患)
4.ヤングケアラーがしていたケアの内容
● 食材等の買い物、簡単な食事の準備(火や包丁を使用する調理)、母親の通院同行
5.関係機関(ケース聞き取り先に◎)
こども家庭支援センター、児童相談所、学校、保健所(保健師)、特定相談支援事業所◎、こども食堂、地域の福祉拠点(居場所支援・相談)、地域住民
6.気付きの経緯
小学校では、妹の服が洗濯されていない、友人から服をもらっているといった状況が続き、学校が気付いた。
特定相談支援事業所によるモニタリングにおいて、母親から、父親がこどもにお金を持たせて買い物に行かせていることや、こどもに食事をつくらせていること、通院に一緒に行ってもらったこと等を聞いた。
7.連携した支援の内容
保健師が中心となって支援を行い、保健師、児童相談所と会議を実施、父親も含め面接をしていた。家が片付いていない、食材の衛生状態が悪い等の状況もあり、保健師が母親向けのホームヘルプサービスを活用したほうがいいと考え、特定相談支援事業所に依頼した。
母親は家事がほとんどできない状況。父親は、料理はして作り置きするが、仕事の後も帰ってこない、家が片付いていないと母親を殴る等の様子が見られた。特定相談支援事業所が母親対象のホームヘルプサービスを調整し、週2回掃除支援を実施。保健師はこども食堂や、自治体による食事提供支援につないだ。
またその後、上記関係者に学校も含めた関係者による情報共有や役割分担等を目的とした会議を実施し、父親に家事・子育て等を放棄しないために助言・指導する役割(主に児童相談所、保健師)、こどもの状況把握やフォロー(主に学校、自治体サービス)、母親への支援の調整(主に特定相談支援事業所)等整理をし、対象ケース(家族全体)に関与をした。
8.連携の工夫
- 特定相談支援事業所は、母親の支援を手厚くする(ケアを受ける家族側にアプローチする)ことでこどものケア負担を軽減できるという考え方で取り組んだ。
- こどもの状況把握は、地域の福祉拠点(居場所支援・相談)が中心となり行った。
- 母親のケアについては、父親と保健師と特定相談支援事業所で面談をこまめに行い、父親に対しては、妻へのDVがこどもに対する心理的虐待になること等も丁寧に説明し、徐々に理解を得た。
- 支援する中で、母親と公園で談笑し見守ってくれる地域住民がいることが分かり、特定相談支援事業所としては掃除支援で衛生状態の改善に注力した。
- 結果、状況が改善し、家族で旅行に行った等良い報告も聞けるようになった。
C.認知症の祖母のケアの事例
1.ヤングケアラー本人
● 中学生女子(以下、「本人」と記載
2.家族構成
● 父親、母親、本人、祖母
3.ケアを要する家族の状況
● 祖母(要介護、認知症)
4.ヤングケアラーがしていたケアの内容
- 見守り、話し相手、食事の準備、買い物の付き添い。
- 学校から帰宅後、両親が帰ってくるまで行っていた。
5.関係機関(ケース聞き取り先に◎)
居宅介護支援事業所◎、民生委員(日頃の情報提供)
6.気付きの経緯
祖母の介護に居宅介護支援事業所のサービスとして、デイサービスが入っていた。主介護者である両親は共働きで、日中は、本人がケアをしていた。
ある日、本人が感情を処理しきれず、理由なく泣いていた。その姿を見たケアマネジャーが行動し、母親とこどもの対話がなされた。そして、祖母のことは好きだが介護が辛い、認知症の物取られ妄想などが本人に向き否定をされているような気持ちになることが分かった。
7.支援の内容
家族会議にケアマネジャーが入るような形で小規模なカンファレンスを実施した。現状について話し合い、ケアマネジャーは専門職の立場から役割分担等を明確にした。サービスとしては、デイサービスの時間・回数の延長、ショートステイ利用を増やし、サービス利用を増やすことで本人のケアの軽減を目指した。また、話し合えたことで、本人は安心し、その後、部活等のやりたいことを話してくれるようになった。
8.支援の工夫
本人は「家族のために何かしなければいけない」と思っており、介護を負担とは思っていなかった。泣いたときも、祖母のことは好きだがどうしたらいいか分からないという気持ちであった。ケアマネジャーはその気持ちを受け止め、外部の相談者としての役割を担った。何かをしてほしいわけでなく、話しながら気持ちを整理していたのだと思う。
9.追加で考えられる支援や負担軽減(例)
- 助言するのではなく、第三者がただ話を聞く場があると良い。夜間に、地域の中で継続的にさりげなくこどもの話を聞いてあげられる場所があると良い。
- 施設に入所し、支援が終了したため現在の状況は分からないが、ケアが終了したこどもたちのカウンセリングの場所があると良い。後悔や悲しみ、怒りの感情を整理してあげられる支援体制があると良い。
D.ひとり親家庭、日本語を母語としない母親のケアの事例
1.ヤングケアラー本人
● 小学校高学年(以下、「本人」と記載)
2.家族構成
● 母親、本人
3.ケアを要する家族の状況
● 母親(日本語を母語としない)
4.ヤングケアラーがしていたケアの内容
● 通訳(日本語)
● 感情面のサポート(愚痴を聞く、話し相手になるなど)
5.関係機関(ケース聞き取り先に◎)
教育委員会(スクールソーシャルワーカー)、福祉事務所◎(次世代育成支援員)、非営利団体(NPO等)・ボランティア団体等の民間団体
6.気付きの経緯
ヤングケアラーを支援する次世代育成支援員が、SSWと連携をして、本人の日本語教育の支援を申し入れたことを機に、本人と関係性が深まり、保護者と学校の教員の間で通訳をしていることが判明した。
7.連携した支援の内容、連携の工夫
母親も本人も、このような行動が当たり前であるという認識しかなかったため「ケアの内容と量を測定するアセスメント(MACA-YC18)※」と、「ケアの影響を測定するアセスメント(PANOC-YC20)※」を実施したところ、本人が担っているケアの内容が具体化し、「専門職はその子の感情を本人や家族と一緒に探り、適切 な医療サービスや福祉サービスとも連携していく必要がある」という判定が出た。これにより、本人の意識付けと保護者への心理教育を開始するとともに、こどもの居場所や学習支援をこどもと一緒に計画した。
保護者にはこどもが通訳をすることの意味や、こどもが巣立った後に地域で孤立する可能性を理解してもらった。日本語学習を開始し、事務手続きが必要な際には、支援者に依頼するようになった。現在中学生になったこどもは将来の夢に向けて長期的な学修計画を立て始めている。
8.追加で考えられる支援や負担軽減(例)
● 義務教育終了によりSSW(スクールソーシャルワーカー)の関わりが無くなるなど、こども支援の社会資源が教育分野で減ること、次世代育成支援員のように家庭全体に関わることができる者しか支援者がいなくなることが課題である。ライフステージの環境変化に即した、持続可能な支援ネットワークが求められる。
● こどもの感情を本人や家族と一緒に探り、実行可能な計画を共有するためのアセスメントが必要である。ヤングケアラー支援経験のない者でも行うことができ、支援計画の内容・支援者の役割分担が明解になることに焦点化したアセスメントが求められる。
※アセスメントは『子どもと若者のケア活動とその影響を測るためのマニュアル(第2版)』(『多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル、令和4年3月トーマツ、第5章付録「5.1アセスメントシート」』)を参照した。
東京都ヤングケアラー支援マニュアル(令和5年3月)より