ヤングケアラーの支援の全体像と連携について

1.支援の全体像、支援のパターン

 ヤングケアラーにとっては現状が当たり前になっていることが多いため、何を相談したらいいか分からない、よく知らない人には本心を話さない、現状が変わることへの不安等から話せないといった可能性があります。所属機関を問わず本人から見て「信頼のできる大人」が本人と対話することで、徐々に安心感を持ち相談できるようになり、本人の意向に沿いながらサービスや支援につなげていくことができます。
 そこで、支援を3つに類型化して整理しました。これらは独立した支援ではなく、同時に複数のパターンを併用したり、本人の気持ちに応じ徐々に導入したりすることもあります。

〇支援のパターン
内容
伴走・寄り添い型支援 家庭に次いで、こどもにとって最も身近な地域における会話や見守りによる支援。児童館等で遊んだり、食事や勉強の支援を受ける中でなじみの職員にちょっとした話を聞いてもらったり、登下校の際に、児童の見守りを行う民生・児童委員等と会話する等、本人が精神的な安らぎを感じちょっとしたことを話せる、日常の中での寄り添い。
共感型支援 日常ではケアの悩みを共感できる人がいない等の場合に、同じヤングケアラーの立場のこどもや元ヤングケアラーに話を聞いてもらったりすることで、徐々に自分の気持ちを安心して話せるようになる。思いを聞いてもらい、年上のケアラー等から経験者としての助言や経験談を聞くことで、選択肢を広げられるようになる。寄り添ってくれる人がいることが安心感や精神的な負担の軽減につながる。
課題解決型支援 ケアを受けている家族向けや本人向けの行政等による福祉サービス等の提供

地域の身近な場所・人による「伴走・寄り添い型支援」、ケアについて気持ちの共感ができる「共感型支援」は、本人に寄り添いながら一緒に悩んだり動いたりしているという点では共通です。早い段階で「伴走・寄り添い型支援」や「共感型支援」に本人をつなぐと、その中で気持ちを徐々に聞くことで、「課題解決型支援」につながる可能性があります。

〇支援のパターン別 想定される支援内容の例
支援機関の例 支援内容の例
伴走・寄り添い型支援 地域における民間支援団体・非営利団体・NPO法人、支援者(こども食堂、学習支援、児童館、民生児童委員等)、学校 等 ● 居場所の提供、本人の息抜き(こどもが安心して日常的に通える・話せる場や相手)
● 学習支援(学校を休みがち、宿題ができない等の
場合)、食事提供 等
共感型支援 ピアサポート(ヤングケアラー、元ヤングケアラー等と話ができる場)、家族会等を運営する民間支援団体、学校 等 ● ピアサポート、家族会、ヤングケアラーの相談SNS等本人がケアのことや生活のこと等について安心して話せる場の提供
● 本人が同世代の当事者と悩みを共有し、他のこどものケアの状況等を知り、視野を広げられるようにする
● 年上の当事者との会話・助言を受け、進路・人生設計を一緒に考える
● 養護教諭、学校医等による相談対応
課題解決型支援 ● こども家庭支援センター
● 特定相談支援事業所
● 福祉事務所、自立相談支援
機関
● 保健所・保健センター
● 病院、訪問看護ステーション等
● 家事支援サービス
● 介護保険サービス(高齢者、認知症等)
● 障害福祉サービス(障害がある場合)
● 医療、訪問看護サービス(精神障害等)
● 生活保護受給、生活困窮者自立支援機関の支援
制度
● 養育支援訪問サービス
● きょうだいの一時預かり、保育所・学童クラブ等の利用調整
● 食事支援
● 通訳サービス
● 就労支援、進学相談、奨学金 等

以上は、ヤングケアラー支援で提供されることの多いサービス例です。あくまで一例にすぎず、状況に応じ、サービスを組み合わせて支援をしましょう。

「伴走・寄り添い型支援」、「共感型支援」が必要な理由
● 学校の友人や家族には「心配をかけたくない」「空気を乱したくない」といった思いから、相談ができないことがあります。こどもからすると行政も遠い存在です。
●「伴走・寄り添い型支援」、「共感型支援」で寄り添っていく中で、こどもの心の拠り所となり、本人にとって「こうなりたい」といった希望が出てきたり、そこで初めて福祉や学校等に相談してもいいと思ってもらえる可能性があります。
● 時間や場所の制約なく参加できる「オンラインのピアサポート」であれば、ケアから離れられず外に出かけられない場合や、身近でリアルな場に「共感型支援」がまだない場合等でも参加できる可能性があります。
● 同じ境遇の人にこそ話せることがあります。「共感型支援」で自分一人ではない・他にも仲間がいるということ、自分のマイナスの気持ちやプラスの気持ちが混合していてもいいということ等を教えてもらって安心してから、次のステップとしてあるのが、家庭の状況の相談になります。
● 「伴走・寄り添い型支援」、「共感型支援」につないでもすぐに本心が聞き取れるわけではありません。また、無理につなぐことも避けましょう。継続的に通い接点を持つことで、徐々に信頼関係ができてきます。
● ヤングケアラーが障害や疾患のある家族をケアしている場合等は、すでに家庭に入っている訪問サービスの職員等が日頃から気にかけていることも、「伴走・寄り添い型支援」になります。
● 課題解決型支援が入ってからも、また、ケアが終わってからも、「伴走・寄り添い型支援」、「共感型支援」は継続的に必要であることもあります。ヤングケアラーは、「ケアを離れること」(例:進学して一人暮らしをすること)に罪悪感を持ったり、ケアが終わっても精神的な辛さを感じていたりします。安心できる場で自分の気持ちを話したりすることで、自分の人生を前向きに考えられるようになります。

ケア時間の経過に伴う負担の増加
ケア相手の病気等の状況により、時が経つにつれケアの負担が重くなることがあります。ケアを始めた当初は緊急度が低くても、そのままの状況で時が経つと、ケア相手の症状の悪化によりケアが常態化・本人の精神面にも大きな影響を与え、緊急度も高まってしまっていることがあります。

〇ケア相手の病状等により徐々にケア負担が重くなるケース
例 ヤングケアラーAさん
小学生の時に母の体調が悪くなる。買い物の手伝い等「お手伝い」の延長。
中学生の時、母が病気の診断を受ける。症状が悪化し、介護の手伝い。部活はやめ、高校は行きたい。
学校への進学はあきらめ自宅から近い学校にする。
高校生の時、母が緊急入院。在宅復帰するも、ヘルパーが訪問時以外はつきっきりの介護を担う。
大学進学はあきらめる。

Aさんがケアをし始めた早いうちから学校が様子に気付いたり、医師、ケアマネジャー、介護ヘルパー等が、訪問等の際に本人の様子も気にかけ、特に本人の進学や家族の入退院等重要な節目によく話し支援ができたら、Aさんは進学や部活等「やりたかったことができた」かもしれません。

一方で、ケア相手やその他の相手の状況変化により、急に緊急度が上がるケースもあります。ケア相手の急な状況の変化や、家族複数人でケアしていた場合に主介護者が病気等でケアを担えなくなった場合等に生じやすいです。この変化を見逃さず早く気付くためにも、日頃から、身近な支援者が、当該家庭全体の様子を気にかけコミュニケーションをとることが望ましいといえます。

2.関係機関との連携のポイント

ポイント1.連携の中心となる機関・YCCの助言に基づき、関係機関でタイムリー・こまめな情報共有を行う
関係機関が相互に連携した支援を行うためには、必要事項を漏れなく、「密に」、「こまめに」、「タイムリーに」、「定期的に」、「本人を含めて」、情報共有を行う等の工夫が必要です*。
YCCがいるところでは、YCCが情報を集約したり機関同士の橋渡しを行いますが、各支援機関も待ちの姿勢ではなく、気付きがあった場合にはタイムリーにYCCに連絡し会議開催等を提案していくことで、よりよい支援につながります。電話やオンラインでの情報共有により、さらにスムーズな連携が可能となります。
なお、関係機関間では密に連携をしながらも、支援を無理に急がず、本人に寄り添うことを大切にしてください。一度支援が入った後も、ケース会議や情報共有を継続的に行い、日頃から変化にすぐに気付けるようにしましょう。

ポイント2.家族全体にかかわる機関を明確にする
本人側と、ケアを受ける家族側それぞれに支援チームがある場合は、それぞれの支援方針や意向が異なっている可能性があり、密な情報共有が必要です。YCCが核となり、家族全体を支援する目線で支援方針を定めましょう。

3.支援の基盤づくり

支援の前提として、支援体制整備、人材育成、周知啓発等の基盤づくりも重要です。
多機関連携が必要と判断され、いざ相談をしても、相談先の機関がそれを課題であると捉えなければ、一体的な連携支援を行うことは難しいといえます。関係機関の間でヤングケアラーに関する共通理解が得られていることが重要です。
また、共通の課題を認識することができたとしても、支援の目的や方針が不揃いであると、一貫した支援の提供が難しくなります。支援の方向性に差異が生じないように、関係機関同士で共通理解を持った上で対応することが重要となります。
都実施の区市町村調査・学校調査の結果でも、既にヤングケアラー支援に取り組んでいる割合の高いこども家庭支援センターや保健所・保健センターでは、勉強会や研修で知識を身につけつつ、本人・家族の相談対応を行い、関係機関と適宜情報共有をしていることが分かりました。ここでは支援の基盤づくりの取組について一例を紹介します。

〇基盤づくりの例
支援体制整備 ● 各区市町村にて採用したネットワークモデルにおいて、関係機関との連携体制を構築する。既存の仕組みを生かしつつどうすればヤングケアラーをより支援できる体制になるかを考え、これまで関係性が強くなかった機関や民間支援団体とも合同研修や情報共有等、顔の見える関係を作る。
● 支援施策の検討、支援において用いる様式集等を整備する。
● 各機関で相談対応ができるよう、相談体制を整備する。
支援者機関向け
人材育成・研修
● 各支援機関において今取り組んでいる研修の中にヤングケアラーに関する知識習得の機会を組み込む、支援機関向けリーフレット等で周知する。
● 多機関合同研修や事例検討会等により、お互いの考え方・アプローチを理解する(例 児童福祉と高齢者福祉等)
地域住民・
児童生徒向け
周知啓発
● 地域住民へヤングケアラーに関する概念や考え方の周知・啓発。誰しもがヤングケアラーの当事者や関係者になる可能性があることを認識*し、困難を抱えている家庭に早期に気付き地域全体で支えることができるよう、リーフレット配布、セミナー実施等を行う。
● 学校における児童・生徒向け周知は認知度を上げるためには有効だが、自分がヤングケアラーと知って混乱する・ヤングケアラーであることが同級生に知られることで学校に行きづらくなるといったことも考えられ、ヤングケアラーの気持ちに配慮しフォローを丁寧に行う等が求められる
日頃の
関係性づくり
● 関係部署・機関との非定例・適宜情報共有。多機関での連携を進めるにあたり、仕組みや体制を整えること以外にも、日頃からコミュニケーションを取っておくことが、早期の対応につながる。

 

4.ヤングケアラーに関する勉強会や研修

ヤングケアラーの勉強会や研修は、以下のもの以外に、都道府県や各市主催のものや独立行政法人福祉医療機構社会福祉振興助成事業(WAM)によるものなどがあります。
Young carer Salon networkヤングケアラー サロンネットワークの支援者向け勉強会
一般社団法人 日本ケアラー連盟主催の「ヤングケアラーを理解し支援するためのオンライン講座」







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