ヤングケアラー支援のネットワークについて

1 支援関係者の全体像

ヤングケアラー及びその家族を支える関係者として下図のような支援機関等があります。福祉の各分野、教育、そして地域の支援団体等、多様な関係者が協力して支援することで、よりよい支援が行えます。
本人及び家族が抱える課題や背景は複雑で、望む支援も様々であり、必ずしも一つの機関で課題解決を図るものではありません。また、課題解決だけが支援ではなく寄り添い等を含めた支援のパターンが考えられ、多くの機関の協力体制の下で、ケースに応じた支援が求められます。
支援を行う関係者も親側のケア担当者であったり、こども側の支援担当者であったりと役割が異なることから、各機関の役割を踏まえた連携により課題解決を図っていく必要があります。また、家族状況の把握や介入が困難な場合には、ヤングケアラーであるこどもへの見守り・寄り添い等を行うことも重要です。

〇ヤングケアラー及びその家族を支える関係機関


上記の出所:厚生労働省令和3年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 有限責任監査法人トーマツ
「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル~ケアを担う子どもを地域で支えるために~」参照。

2 各機関の機能と役割

ケースに応じ、様々な機関との連携が求められます。
各機関の機能と、ヤングケアラー支援において求められる役割を下表に示します。ケースに応じ、どの機関と連携すればよいか検討する際の参考にしてください。

〇児童福祉・こどもに関する分野

こども家庭支援センター
(要保護児童対策地域
協議会の調整機関)
児童福祉法に基づき、原則として18歳未満のすべてのこどもと、こどもがいる家庭の支援を目的に、児童相談所よりも身近な相談窓口として、区市町村に設置しています。
児童相談所へのつなぎもスムーズで、こどもに係る多くのケースで関わります。
児童相談所 原則として18歳未満のこどもに関する相談について、こども本人・家族・学校の先生・地域の方々等、広く受け付けています。家庭訪問等を行い状況を把握し、家庭への指導、必要に応じて一時保護、児童養護施設への入所等の措置をとります。
区市町村のこども政策・
子育て支援主管課等
家庭その他からのこどもに関する様々な相談に応じ、個々のこどもや家庭に最も効果的な支援を行います。関係機関とともに家庭訪問等を行い、状況の把握や、行政が提供する福祉サービスにつなげる等の役割を担います。

〇教育

区市町村の教育委員会 学校等から得られた情報を他機関につなぐことや、関係機関とともにケース会議に参画します。
スクールソーシャルワーカー(SSW)等が学校や家庭を訪問し、本人や保護者との対話を行います。
学校 学校ではヤングケアラーや、同じ学校に通うそのきょうだいと日常的に接する機会があり、ヤングケアラーへの気付き、見守り、外部の関係機関との情報共有等を行います。
学校には教員(養護教諭を含む)の他、スクールカウンセラー(SC)が配置されています。

※学校にSCやSSWを配置していない場合は、教育相談担当者や地域の関係機関と連携して対応してください。

〇生活福祉

自立相談支援機関 生活困窮者の経済的自立が維持できるよう相談支援を行います。生活保護等の経済的支援の検討やこどもの学習支援も行います。
区市町村の
生活福祉部門
(福祉事務所等)
家庭訪問や面接により、必要な扶助を判断するほか、自立に向けた生活指導などを行います。
ヤングケアラーの保護者とこどものそれぞれに必要な支援の検討を担います。

生活福祉サービスの対象者を通じ、ヤングケアラーに気付ける可能性があります。

〇障害福祉

区市町村の
障害福祉政策の主管課
障害福祉サービス等の支給決定等、地域の障害保健福祉施策*を担います。
本人又はケアをしている家族に障害がある場合の支援を行います。
相談支援事業所、
基幹相談支援センター
障害者のサービス等利用計画の作成、支援実施、病院・施設の入所・退所等にあたって地域移行に向けた支援等を行います。
障害サービスの対象者を通じ、ヤングケアラーに気付ける可能性があります。

〇高齢者福祉

地域包括支援センター・
高齢者福祉主管課
地域包括支援センターは、地域の高齢者の総合相談、地域の支援体制づくり等を行い、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関として区市町村が設置しています。
総合相談の中で、ケアラーへの相談や支援を行っていることもあります。

ヤングケアラーがケアをしている高齢、認知症、要介護等の家族に対する介護サービスの利用調整、家庭状況の把握を行います。
居宅介護支援事業所 介護保険サービスを利用する高齢者の身体機能や家庭状況を把握し、介護保険による
居宅サービス計画の作成・サービス提供事業者等との連絡調整等を行います。

訪問時の家庭の様子等から、ヤングケアラーに気付ける可能性があります。

〇保健・医療

区市町村の
母子保健部門、
保健所・保健センター
地域住民の健康づくりを支援しています。乳幼児やがん検診等の検診や、生活習慣病やメンタルヘルス等の相談を行います。
相談方法としては家庭訪問も行い、家族全体の健康に関する相談を行っています。必要に応じて関係機関と情報共有や行政サービス、医療との連携を図ります。

検診や相談業務を通じて、ヤングケアラーに気付ける可能性があります。
病院・診療所、
訪問看護ステーション
ケア対象者への医療の提供(入院や、往診も含む)、訪問看護等を行います。
病院・診療所等も本人・家族の受診時の様子等から気付ける可能性があります。

〇地域

地域の施設
(児童館、学童クラブ、
保育所等)
ヤングケアラーや、ケア対象のきょうだいと関わりのある地域の支援機関です。
地域の関係者
(民生児童委員、
町会・こども会関係者等)
常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助等を行います。
ピアサポート・
元ヤングケアラー
ヤングケアラー同士が交流できる場を提供します。多様な悩みに対し、同世代のヤングケアラーや元ヤングケアラー等に
話を聞いてもらったり経験談を聞くことで、安心感を得られたり、様々な選択肢が見えたりします。
民間支援団体・非営利
団体・NPO法人
学習活動、教育相談、体験活動等の活動や、無料又は低額の食事を提供する等して地域交流の場等の役割も果たします。
(フリースクール・こども食堂・オンラインコミュニティサービス等)

その他、家庭内でDV等がみられるケースについては、配偶者暴力相談支援センターや女性相談センター等の相談機関と連携した支援が必要な場合があります。

3 相談があった場合の対応のポイント

ヤングケアラーが相談窓口に相談することは、とても勇気のいることです。どの窓口で相談しても相談者が支援を受けられるように、いずれの機関もまずは話を聞き、思いを受け止めましょう。この時点で本人が「相談しても変わらない」と思ってしまうと、以降の対話ができなくなる可能性があります。

4 支援のネットワーク体制の考え方

前述のとおり、ヤングケアラー支援においては複数の支援機関の連携が重要であるため、ネットワーク体制を構築して、支援を行うことが重要です。

〇情報共有の際の個人情報の取扱いの留意点

● ネットワーク参加機関による会議開催等で情報共有を行い、連携して支援を行う際には、支援の中心を担う機関において個人情報を一元的に管理します。
● 本人の意思を尊重し、あらかじめ本人の同意を得ておくといった取扱いが望ましいですが、以下の会議体は、構成機関に対して守秘義務を課しており、支援のために必要があるときは、法律に基づき本人同意なしに情報共有が可能です。
① こども家庭支援センター中心モデル

● 児童福祉法に基づく要保護児童対策地域協議会(児童福祉法第25条2)
② 生活福祉/障害/高齢モデル
生活福祉中心モデル
● 生活困窮者自立支援法に基づく支援会議(生活困窮者自立支援法第9条)
障害福祉中心モデル※
● 地域自立支援協議会
※ 障害福祉中心モデルの地域自立支援協議会については、現状は本人同意が必要であるが、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」が公布され、令和6年4月1日に施行予定。施行日以降は、個人情報の共有が障害者総合支援法に基づき可能になる。
高齢者福祉中心モデル
● 地域ケア会議 (介護保険法 第115条48)
③ 重層的支援体制整備事業活用モデル
● 社会福祉法に基づく支援会議(社会福祉法 第106条の6)

〇ネットワークの中心パターン

  ① こども家庭支援センター
  中心モデル
② 生活福祉中心モデル
  障害/高齢を選択も可※
③ 重層的支援体制
  整備事業活用モデル
中心機関 こども家庭支援センター
(要保護児童対策地域協議
会調整機関)
A 福祉事務所、     
自立相談支援機関
B 基幹相談支援センター、
相談支援事業所等
C 地域包括支援センター
のいずれか
重層的支援体制整備事業の
推進機関
(福祉政策主管課等)
活用する
ネットワーク・
会議体
要保護児童対策地域協議会 A 支援会議
(生活困窮者自立支援法)
B 地域自立支援協議会
C 地域ケア会議
● 支援会議(社会福祉法)
● 重層的支援会議
当該モデルが
推奨される
自治体
こども家庭支援センター設置自治体(特段ほかのモデル採択意向がなければ、このモデルを推奨) 既にケアラー支援が生活福祉部門(または障害福祉、高齢者福祉)を中心に整っている自治体 重層的支援体制整備事業を採択しており、多職種の連携ネットワークが構築されつつある自治体
会議体の
目的・役割
支援対象児童等の適切な保護又は支援を図ることを通し、
①支援対象児童等を早期に発見
②支援対象児童等に対する迅速な支援の開始
③各関係機関等が課題を共有
④共有された情報に基づいて、アセスメントを協働・共有
⑤関係機関間の役割分担等に共通理解を図る 等

A 支援会議
困窮が疑われる個々の事案の情報の共有、地域における必要な支援体制検討の円滑化
B 地域自立支援協議会

個別の相談支援の事例を通じて明らかになった地域の課題の共有、地域のサービス基盤整備の推進
C 地域ケア会議
個別ケースの支援内容の検討、地域づくり、資源開発・政策形成
● 支援会議
複雑化・複合化した課題を抱える者やその世帯に関する情報共有や、地域における必要な支援体制の検討を円滑にする
● 重層的支援会議
関係機関との情報共有にかかる本人同意を得たケースに関し、当該ケースのプラン共有や、プランの適切性を協議す

※ 地域の実情に応じ生活福祉、障害福祉、高齢者福祉のいずれを中心にしてもよい。

(1)支援のネットワーク体制①(こども家庭支援センター中心モデル)

こども家庭支援センター中心モデルは、要保護児童対策地域協議会の既存の仕組みにおいて、ケースに応じ必要な機関を招集することが可能です。
都実施の区市町村調査・学校調査からも、支援ネットワークの中心機関としては「こども家庭支援センター(要保護児童対策地域協議会の調整機関)」が望ましいとの意見が多数を占めました。

〇こども家庭支援センター中心モデルのメリット・デメリット

メリット ● 既存のこども家庭支援のネットワークや個人情報保護の仕組みを活用できる。  
(個別ケース検討会議や実務者会議の活用、若しくはその部会を作る等して、ヤングケアラーについても対応可)
● 児童福祉、保健医療、教育等との関係性が既にあり連携がスムーズ。
● ヤングケアラーの中には、虐待や虐待に近いケースがあるため、こども家庭支援センターに情報集約することで緊急を要する場合にも早期介入が可能になる。こども本人の状況把握の経験が豊富
● 進行管理5が重層的
デメリット ● 既存の仕組みでは、基本的には18歳未満のこどもを対象にしている。
● 保護者の中には警戒心を持つ等でアプローチが難しい場合がある。
効果的に
機能させる
ポイント
● ヤングケアラーが18歳以上になった場合にも、新たなネットワークに引き継ぐなどして継続的に対応できるようにする。
● 家事援助サービスや訪問看護、民間支援団体といった児童福祉に限定されない多様な機関との連携やサービス提供を支援の念頭におく。
● ケアを受ける家族側の状況やニーズは、家庭の状況を詳細に把握している福祉サービス提供者(居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、社会福祉協議会等)と情報共有を密に行い、一体的に動く。

5 各ケースの支援状況やリスクの確認のため、会議における主たる支援機関の決定や確認、支援方針の決定や見直しについて、他機関、他職種の関係者との協議のもと、定期的に進行管理票や進行管理シートに記載し、情報共有・確認すること。

(2)支援のネットワーク体制②(生活福祉/障害/高齢中心モデル)

ケアラー支援の一環として、福祉事務所、自立相談支援機関、特定相談支援事業所、地域包括支援センター等がヤングケアラーへの相談支援等を既に進めている自治体の場合は、生活福祉/障害福祉/高齢者福祉等を中心機関にすることもできます。
生活福祉中心モデルの場合は下図のようなネットワークイメージです。障害福祉中心の場合は「地域自立支援協議会」、高齢者福祉中心の場合は「地域ケア会議」の枠組みを生かします。

〇生活福祉/障害/高齢中心モデルのメリット・デメリット

メリット ● 年齢によらず、ケアラー支援の一環として若者ケアラーまで含めた支援ができる。
● ケアを受ける側の家族に福祉サービスの提供を通じてアクセスしやすい。   
既に家族側とサービス提供を通じ関係性ができている可能性があり、家庭の理解を得やすい。
● 社会福祉協議会や地域の支援団体等との既存のネットワークが活用しやすい。
デメリット ● 教育分野との関係性がやや希薄である。
効果的に
機能させる
ポイント
● 既存のネットワークを活用しつつ、意識的に児童福祉分野や教育分野との関係性を構築する。
● 各会議体での検討、若しくは部会を作る等して対応する。
● 適切にケースの進行管理を行う。

生活福祉・障害福祉・高齢者福祉それぞれにおける具体的な特徴について紹介します。

〇生活福祉・障害福祉・高齢者福祉モデルの違いの概要

生活福祉
中心
● ひとり親家庭、障害や疾患で働けない等、ヤングケアラーの家庭は生活困窮であることも少なくありません。こどもの学習支援事業等、本人・家庭にとって受け入れやすい支援サービスを検討できる可能性があります。
障害福祉
中心
● ヤングケアラーは障害を抱える家族をケアしているケースも多く、既に障害福祉機関がヤングケアラー支援に取り組んでいる場合は、障害福祉中心も考えられます。
● 地域生活支援事業の相談事業等を活用することで、障害のある家族だけでなくヤングケアラーの支援を行うことが可能です。
● 他のネットワークモデルと異なり、本人同意をとることが必要*です。
高齢者福祉
中心
● ヤングケアラー以外にも、ダブルケアなど年齢を問わずケアの状態は多様化・複合化しています。要介護等の家族のケアをしているケースについては、地域包括支援センターが中心になりネットワークを形成することで効果的な支援ができる可能性があります。

* 令和6年4月1日以降は法改正により個人情報共有が可能になる予定です。

(3)支援のネットワーク体制③(重層的支援体制整備事業活用モデル)

地域共生社会の実現に向けて社会福祉法が改正され、各区市町村において、一体的に相談支援を行う重層的支援体制整備事業が実施できることになりました。
高齢、障害、疾病、生活困窮、ひとり親家庭といった家庭の状況に応じ、適切なサービスにつなげられるよう会議等を通じて必要な助言や指導を行います。ヤングケアラーもその支援対象に含まれ、同じ枠組みで支援を行うことが可能です。

〇重層的支援体制整備事業活用モデルのメリット・デメリット

メリット ● 既に構築された多機関連携ネットワークを活用し各分野にまたがる横断的な支援ができ、ヤングケアラー支援の理念としては適合性が高い。
● 会議体の参加者は地域資源も含み、事案に応じ多様に変更可        
地域の当事者団体、学習支援やこども食堂等の関係機関との連携もしやすい。
デメリット ● 重層的支援体制自体が既にある程度構築されていることが前提となる。
(令和3年4月に創設された制度(任意事業)であり、令和4年度の都内実施自治体数は7区市)
効果的に
機能させる
ポイント
● 重層的支援体制整備事業の実施にあたり、ヤングケアラー支援を想定したネットワークづくりを検討することが必要。
● 適切にケースの進行管理を行う。






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