1.ヤングケアラーとは
法令上の定義はありませんが、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている、下図 のような18歳未満のこどもとされています。しかしながら、18歳以上の若者ケアラーも切れ目のない支援が必要です。
〇ヤングケアラーが行っていることの例
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
以上は出所:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/young-carer/)
上記は一例にすぎず、以下のようなケアをしている場合もヤングケアラーに含まれます。
● 精神疾患や知的障害、発達障害、疾病や難病等のある親やきょうだいのケアをしている
● 脳疾患、がんなどの病気のある親や祖父母のケアをしている
● 依存性のある親に対応する等、感情面のサポートをしている
● きょうだいの学童クラブ、保育所、放課後等デイサービス等の送り迎えをしている
見守りや、感情面のサポートもケアの一種です。「ヤングケアラーかどうかの厳密な判断」に捉われず、将来的に負担を抱えるかもしれない可能性等から、ヤングケアラーと思われる時点で見過ごすことなく話を聞いたり見守ったりしていくことが大切です。
2.こどもの権利からみたヤングケアラー
ヤングケアラーと思われるこどもに気付くためには、上記のような様子のほか、教育を受ける権利、休み・遊ぶ権利、意見を表す権利、健康・医療への権利、社会保障を受ける権利、生活水準の確保等「子どもの権利条約」に定められた権利が侵害されている可能性がないかといった視点も重要です。
権利の侵害までには至らなくとも、兆候を感じた場合はそのこどもやケアしている家族の状況をよく確認し、こどもの気持ちにも気を配りましょう。
〇子どもの権利条約のうち、ヤングケアラーと関係の深い子どもの権利
・第28条 教育を受ける権利:こどもは教育を受ける権利をもっています。国は、すべてのこどもが小学校に行けるようにしなければなりません。さらに上の学校に進みたいときには、みんなにそのチャンスが与えられなければなりません。学校のきまりは、こどもの尊厳が守られるという考え方からはずれるものであってはなりません。
・第31条 休み、遊ぶ権利:こどもは、休んだり、遊んだり、文化芸術活動に参加したりする権利をもっています 。
・第3条 こどもにもっともよいことを:こどもに関係のあることが決められ、行われるときには、こどもにもっともよいことは何かを第一に考えなければなりません。
・第6条 生きる権利・育つ権利:すべてのこどもは、生きる権利・育つ権利をもっています。
・第12条 意見を表す権利:こどもは、自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利をもっています。その意見は、こどもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません。
・第13条 表現の自由:こどもは、自由な方法でいろいろな情報や考えを伝える権利、知る権利をもっています。
・第24条 健康・医療への権利:こどもは、健康でいられ、必要な医療や保健サービスを受ける権利をもっています。
・第26条 社会保障を受ける権利:こどもは、生活していくのにじゅうぶんなお金がないときには、国からお金の支給などを受ける権利をもっています。
・第27条 生活水準の確保:こどもは、心やからだがすこやかに成長できるような生活を送る権利をもっています。親(保護者)はそのための第一の責任者ですが、必要なときは、食べるものや着るもの、住むところなどについて、国が手助けします。
・第32条 経済的搾取・有害な労働からの保護:こどもは、むりやり働かされたり、そのために教育を受けられなくなったり、心やからだによくない仕事をさせられたりしないように守られる権利をもっています。
・第36条 あらゆる搾取からの保護:国は、どんなかたちでも、こどもの幸せをうばって利益を得るようなことからこどもを守らなければなりません。
以上は子どもの権利条約:公益財団法人日本ユニセフ協会
3.家の役割とこどもの影響
ヤングケアラーにとってケアは生きがいになっていることもあり、思いやりを育む等良い面もあります。一方で、過度なケアは現在だけでなく将来にわたって影響をもたらす可能性があります。一見「お手伝い」に見えることも、長時間であれば負担になります。ケア の内容と量、双方の視点から過度なケアかどうか確認しましょう。
○ こどもが果たす家庭内の役割(家族のケア、お手伝いの範囲や程度)は、時代、文化、地域などによって異なります。こどもの年齢や成熟度に合った家族のケア、お手伝いはこどもの思いやりや責任感などを育みます。
○ 一方で、こどもの年齢や成熟度に合わない過度な負担(重い責任や精神的な苦しさを伴うケアも含む)が続くと、こども自身の心身の健康が保持・増進されない、学習面での遅れや進学に影響が出る、社会性発達の制限、就労への影響などが出てくることがあると報告されています。
○ 過度に家族のケアを担うことで、勉強に取り組むことやこどもらしい情緒的な関わりができず、年齢相応に自身の将来のことを考えることができなくなってしまう可能性があります。
○ 家族の期待に過剰に適応するあまりに、家族に負担をかけてはいけないと自分の希望を言えなくなったり、進学を諦めてしまったりすることも考えられますし、家族のケアが長期化することで自立が遅くなったり、できなくなってしまう可能性もあります。
○ 年齢が上がるにつれ、人間関係の構築・進学準備等含め「こどもとしてやるべきこと」が増えるにもかかわらず、こどもができるケアも増えるため(付き添い・送迎等)、家族等から介護力と期待され、本人も気付かないうちにケアの負担が重くなってしまうことがあります。本人のライフステージの変化も踏まえ、ケアの影響を理解することが大切です。
4.ヤングケアラーの国の実態調査
ヤングケアラーは表面化しにくい構造から、支援の検討に当たってもまずはその実態を把握することが重要です。厚生労働省にて、令和2年度及び令和3年度にこども本人(小学6年生・中学2年生・高校2年生・大学3年生)を対象とした全国実態調査が実施されました。
● 中学2年生の約17人に1人、「世話をしている家族が『いる』」結果となっています。
● 世話をしている家族が「いる」こどもが全てヤングケアラーとは限りませんが、「世話をしている家族が『いる』割合」と「自身がヤングケアラーに該当すると回答した割合」には差があり、ヤングケアラーか「わからない」との回答が多いことからも、こども自身が重いケアの責任を担っていることに気付くことは難しく、周囲の大人が気付く必要があるといえます。
● ケアの実態は対象者や状態により様々であり、複合要素のこともあります。
世話に費やす時間が長時間になるほど、学校生活等への影響が大きく、本人の負担感も重くなることが確認されています。世話について相談をした経験が「ない」との回答が5割を超え、本人からは声を上げにくい実態が読み取れます
この実態調査を受け、国においては、福祉、介護、医療、教育等、関係機関が連携し、ヤングケアラーに早期に気付き適切な支援につなげるため、1.早期発見・把握、2.支援策の推進、3.社会的認知度の向上を取り組むべき施策としています。
5.ヤングケアラーの支援への呼びかけ
〇児童福祉分野(こども家庭支援センター等)の方へ
● 要保護児童や要支援児童ほど支援の緊急性は高くなくても、ヤングケアラーは支援を必要としています。「本人の意向に沿う」支援が求められます。
● ヤングケアラーは、ケアが生きがいになっていることもあります。家族側もこどもにケアの負担をかけていることを申し訳なく思っていることもあります。児童虐待と異なり、緊急的に状況を解決するというよりは、ケアの負担を軽減する支援を活用しながらなるべく家庭での生活を続けていけるよう、本人及びケアを受ける側の家族の考えや思いにも寄り添いながら、支援をしていきましょう。
● 見守り・寄り添いや経験者のアドバイス等も重要な支援です。ピアサポート、地域の支援団体やこども食堂等とも必要に応じて連携し、本人の思いに寄り添いながらこどもらしい時間を過ごせる方法を一緒に考えていくことが大切です。
〇学校関係の方へ
● こどもと日頃接する時間が長い学校関係者は、日々の様子から、ヤングケアラーと思われるこどもに気付くことのできる可能性が大いにあります。
● 普段接しているこどもたちの中にヤングケアラーがいる可能性があることを理解し、日頃から気に掛けることが重要です。
● ヤングケアラーと思われる様子を見かけたら、スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)やユースソーシャルワーカー(YSW)※、ヤングケアラー・コーディネーター(YCC)に早期につなぎましょう。つないだ後も、見守りを行い、こどもの様子や家庭の状況に変化があれば関係者で共有し、チーム学校として対応しましょう。
※ 学校にSCやSSWを配置していない場合は、教育相談担当者や地域の関係機関と連携して対応してください。なお、YSWは都立学校からの求めに応じて派遣される専門職員です。
〇生活福祉・障害福祉・高齢者福祉・保健医療分野等の方へ
● ヤングケアラーがおかれている状況は様々であり、中には家族に代わりケアを担わざるを得ない状態にあり、こどもらしい生活を送れずにいるヤングケアラーも存在しています。こどもが過度なケアを担わなくてもいいよう支援体制を整えることが必要です。
● 皆様が普段、サービス提供等の支援を直接行っている対象者の「家族」に、サポートが必要なヤングケアラーがいるかもしれないということを意識することが重要です。家庭がこどもの世話や保護ができているかの視点で見て、ヤングケアラーと思われるこどもがいた場合には、そのこどもを気にかけて言葉に耳を傾ける、また、必要があれば他の機関と連携することが必要です。