なぜヤングケアラーになってしまうのか?

ヤングケアラー(Young Carer)」とは、本来ならば大人が担うと想定されているような家事や家族の世話、介護を日常的に行っているこどものことを指すことばです。
ヤングケアラーを理解することは、同時にいまの日本の深刻な社会状況が見えてきます。
そこで、なぜヤングケアラーは、ヤングケアラーとなってしまうのかを考察してみることにしました。そのことは同時に、わたしたちがヤングケアラーに対する認知度を上げることにつながります。なぜ、そのことが必要なのかというと、その理由には、社会的にヤングケアラーの支援が必要でありながらも、こども本人自身がヤングケアラーであることに気づいていないことが多いため、周囲の大人たちがまずヤングケアラーに対する認知度を高め、気づきの手助けとなることが必要だと考えるからです。
日本でヤングケアラーが社会問題化している背景には、少子高齢化、家庭の経済状況の変化、こどもの貧困、地域のつながりの希薄化など、様々な要因が考えられます。また核家族化が進んだことや、共働き世帯が増加したことにより、家庭内のケアや家事の担い手が減り、その負担がこどもに及んでいると考えられます。つまりヤングケアラーは、現代の日本が抱える構造的な背景があり、わたしたちがこの社会で暮らす以上、当然知っておいて欲しいことなのです。
以下は、一部、埼玉県ケアラー支援計画のためのヤングケアラー実態調査結果を引用させていただき、そこからヤングケアラーの遠因、判断するための基準、現在進行中の支援などをまとめてみました。

ヤングケアラーはどんなケアをしているのか?

まず、ヤングケアラーが行っているケアの内容について見てみます。

上記の表から窺えることは、ヤングケアラーが担う世話で多いのは、1位が家事(食事の準備、後片付け、洗濯、掃除など)58.0%、2位が感情面のケア(その人のそばにいる、元気づける、話しかける、見守る、その人を散歩など外に連れ出すなど)41.0%、3位が家庭管理(買い物、家の修理、重いものを運ぶなど)32.4%となっています。
また世話をする家族で断トツで多いのが「きょうだい」であり、埼玉県の調査結果によると、「きょうだい」を世話する理由としては、1位が幼い38.0%で、2位が発達障害32.2%、3位が知的障害27.6%だといいます。
さらに、父母を世話する理由としては「病気」が一番多く、次いで身体障害や精神障害という結果になっています。とりわけ父親は「依存症」が12.0%と他に比べて高く、母親は「精神疾患」が18.5%と高い割合となっています。
長時間になりやすいケアには、以下のようなものがあります。

・医療的ケア(胃や腸にチューブを挿して栄養を摂取する経管栄養の管理、人工呼吸器をつけている場合に必要になる痰の吸引など)
・家計支援(家族のためにアルバイトで働く)
・金銭管理(請求書の支払いや銀行での入出金など)
・通院介助(病院に行くのに付き添う)
・きょうだいのケア


中高生にとってこれらの世話は責任が重く、平日学校が終わったあとにも長い時間を家族の世話にかけている実態が伺えます。

・なぜヤングケアラーとなってしまうのか?

ケアをしている理由で一番多い「親が仕事で忙しい」に見られるように、昨今では共働きが増えたことにより、親が家のことに使える時間が減っています。つまり、親の手が回らない家事を子どもが引き受けているという実態が読み取れます。
また、核家族化の進行や、ひとり親家庭の増加などで、家族の人手が減っているのも現状です。使える時間や体力が限られる中、親も仕事や家事、育児、介護などの役割を多く抱えすぎて、そのひずみが、しわ寄せとしてこどもにきていると考えられます。
ヤングケアラーは、最近になって特別に増えているということではなく、ひと昔前はこどもが一家の労働力としてきょうだいの面倒をみたり、働きに出たりすることは当たり前の時代もありました。その中で近年、ヤングケアラーという概念が認識されるようになったのは、大きくいって2つの背景があるように思われます。

注目されるようになった背景①:「こどもの権利」の尊重

「こどもの権利」とは、全てのこどもが基本的人権のもと差別されることなく、教育や医療、福祉などの機会を均等に与えられるという考え方です。日本では、こどもの権利の保障を明記した「こども基本法」が2023年4月より施行されました。
ヤングケアラーは、「こどもの権利」に照らし合わせて考えると、①こどもがこどもらしく育つこと、②こどもの意志が尊重されることなどが抵触し、こどもの権利が守られていないことになります。
また、「こども基本法」だけでなく「人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき目標」とするSDGsにおいても、3の「すべての人に健康と福祉を」や、4の「質の高い教育をみんなに」に抵触する問題としてヤングケアラーが注目されています。

注目されるようになった背景②:児童虐待問題

ヤングケアラーの問題には、児童虐待とつながっているケースが多々あります。たとえばネグレクトなどの育児放棄によって食事が与えられない場合、自分やきょうだいの料理を作らなければなりません。また、冒頭の事例でも紹介したように、言葉の暴力など心理的虐待を受け続けることで、大事なことが話せず、周りに相談するという気力も失ってしまうのです。
年々児童虐待は増加傾向にあります。これに伴い、ヤングケアラーに対する注目が集まってきたと考えられます。

・「ヤングケアラーかどうか」の判断基準

家庭の事情は個々によって異なり、当事者の意思や負担の感じ方にも個人差があることから、ヤングケアラーかそうでないかを正確に判断することは簡単ではありません。
しかし家族の介護や世話によって「年齢や成長の度合いに見合わない重い責任や負担を負って」いる場合は、ヤングケアラーだと認められる可能性が高いです。これは、2019年3月に行われた「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」において示されたヤングケアラーの定義です。
また有限責任監査法人トーマツが「令和4年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業」において支援ツールとして作成した「ヤングケアラー気づきツール(大人向け)」では、下記のような視点が挙げられています。

・本来、大人が担うと想定されている家族へのケアや家事を日常的に行っている。
・もしもの時に周囲に助けを求められる状況ではなく、こどもが孤立している。
・「教育を受ける権利」や「育つ権利」、「休み、遊ぶ権利」といった子どもの権利条約で定められている権利が守られていない。
・家族へのケアや家事が理由で、そのこどもに心身への影響が見られる。
・こどもがやりたいことを後回しにしたり、家族に必要以上に気を遣っていたりするなど、家族の関係性に心配な点や違和感がある。


ヤングケアラーの以上のような観点から、周囲の大人が気配りし、気づきの手助けができるのではないでしょうか。勿論、上記にあげた判断基準だけがヤングケアラーを定義するものではありません。あくまでも周囲の気づきの手がかりとなるものが必要なので紹介しました。

・日本のヤングケアラー支援の取り組み

政府は、2022年度から3年間をヤングケアラーへの支援を強化する「集中取組期間」と定めています。2022年には、ヤングケアラー発見の着眼点、連携して支援する内容をマニュアルにまとめ、特定の自治体でのモデル事業が進められました。
ヤングケアラーへの支援として一番大切なのは関係機関同士の連携です。以下は、今後の施策として定めているものを紹介します。

ヤングケアラー支援の取り組み①:スクールソーシャルワーカーの配置

教育現場への支援の一つとして、スクールソーシャルワーカーの配置を支援します。
スクールソーシャルワーカーとは、生徒宅を訪問、当該家族がかかっている医療機関に出向く、地域の支援機関に行くなど、さまざまな方向から橋渡しをする社会福祉の専門家です。
学校に常駐しているわけではなく、学校外での調整や多くの支援方法を提案することで課題解決をしていく人材です。
一方、スクールカウンセラーとは、週に何日か学校にいて、主に心理分野から生徒の相談に乗る存在です。生徒は、話を聞いてもらうことによって自分の気持ちを整理したり、一緒に考えてもらったりすることができます。
話をしていくうちに家族の事情が明らかになり、必要に応じて専門機関につなげる役割も果たします。
スクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーが連携し、支援が必要な子どもを把握して関係機関につなげることを目指します。

ヤングケアラー支援の取り組み②:社会的認知度の向上

中高生を対象にした実態調査で、8割以上がヤングケアラーという言葉を「聞いたことがない」と回答するなど、一般的な認知度が低いのが現状です。
広報媒体の作成、全国フォーラム等の広報啓発イベントの開催等を通じて、社会全体の認知度を調査するとともに、「中高生の認知度5割」を目指します。
参考:児童福祉法改正及びヤングケアラー支援について

ヤングケアラー支援の取り組み③:適切な福祉サービスの運用

家庭介護の専門職として、ケアマネージャー、ヘルパー、訪問看護のスタッフ、保健師などがいます。これまで、これら専門職の人たちは「世話が必要な人」に対する仕事であり、「世話をしている子ども(ヤングケアラー)」を家庭介護の担い手として捉えてしまうこともありました。そのため、福祉サービスが利用できない事例が発生しており、家族全体やヤングケアラーの状況を考慮した適切な福祉サービスを提供・運用することを目指します。

ヤングケアラー支援の取り組み④:相互ネットワーク形成推進事業にかかる支援金(補助金)

ヤングケアラー同士のネットワーク形成を目的として、民間団体が全国規模のイベントやシンポジウムを開催するための事業に支援金(補助金)を創出しています。
参考:令和4年度ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業に係る公募について

自治体での取り組み①:埼玉県

埼玉県は、「ケアする人にもケアが必要」という考えに基づき、2020年3月に「ケアラー支援条例」を作りました。その中で、日本ではじめてヤングケアラーに対する支援条例を制定するなど、積極的な施策を打ち出しています。たとえば、オンラインサロン(ヤングケアラーが自分と同じ立場の人と話しができるイベント)や、ケアラー支援WEB講座(ケアラー・元ヤングケアラーの方の体験談を配信)、ハンドブックによる啓発活動など、ヤングケアラーが家族の世話をしながら、自分の健康や自立も確保できる支援体制を強化しています。

自治体での取り組み②:群馬県

高崎市では、2022年度からヤングケアラーがいる家庭にヘルパーを無償で派遣する事業が開始されました。これは、ヤングケアラーを「介護力」と見なさず、適切な福祉サービスにつなげようとする取り組みといえます。

民間での取り組み①:全国児童家庭支援センター協議会

近年、民間の動きも活発化している。地域の子どもや家庭を支援している施設「児童家庭支援センター」は、栃木県、福井県、大分県、横浜市、福岡市の5つの県と市にある同団体の施設でヤングケアラーの相談に応じたり、精神的なケアや、食事や掃除の家事援助などの支援を行ったりしている。

民間での取り組み②:しぶたね

病気の子どもの兄弟姉妹である「きょうだい児」へのサポートも一部で行われている2003年に立ち上がったボランティアグループ「しぶたね」では、病気の子のきょうだいや親に向けたワークショップ、イベント等の開催、面会制限によって病院で一人ぼっちで親を待つきょうだいのための居場所づくり、病院やきょうだいのためのツールや冊子の作成など、直接的なサポートと啓発活動を両輪で続けている。

・最後に……

これらの支援にあたって、一番の課題はヤングケアラーであることの把握が難しいことです。こども自身が自分の家庭状況が当たり前だと思い、ヤングケアラーであることに気づかないことが挙げられます。そのため、周囲も確信が持てず、早期発見と把握が難しいことが挙げられます。またヤングケアラーは、家庭内のデリケートな問題とつながっていることが多いため、学校側が踏み込みにくい側面もあります。親もこどもによる世話を当たり前だと思っていたり、教育方針やしつけと主張したりと理解が進んでいないことも原因の一つといえます。
一方で、支援につなぐための窓口が明確ではなく、多くの場合どこに相談すればいいかわからないケースが見受けられます。学校などの関係機関でもヤングケアラーの概念や認識が不足していることで、ヤングケアラーの対象として支援の手が行き届きません。
ヤングケアラーの支援で一番大切なのは、学校や医療福祉機関との連携です。しかし、政府が認知度向上への取り組みを進めているように、私たち一人ひとりがヤングケアラーについて理解を深めることも、彼らの支援につながるということを忘れないで下さい。今後は様々な取り組みを通して、彼ら自身が声をあげ、頼れる環境を作っていくこと、多くの人にヤングケアラーの問題を周知し、誰もが気づきやすい状況にしていくことが大切です。周囲が丁寧に向き合い信頼関係を築きながら、ヤングケアラーの苦しみに気づき、支援につなげていく必要があります。







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