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厚労省は、障害者雇用代行ビジネスの実態調査を経て2023年6月末、「障害者が活躍できる職場環境の整備や適正な雇用管理のため事業主が行うことが望ましい取組のポイント」をリーフレットにして障害者雇用に取り組む事業主に呼びかけている。以下、リーフレットの内容をかいつまんで説明する。
厚労省の障害者雇用代行ビジネスに対する見解
文中には代行ビジネスなる言葉は一切出てこないが、厚労省は以下のような障害者雇用ビジネスに対する見解を示すに留めている。
つまり、明らかに法令に反する事例は確認されていないが、障害者雇用促進法の趣旨に照らして疑義が残る事例等があった一方で、能力開発・向上につながる事例もみられたとしている。
詳しくは、障害者雇用ビジネスに係る実態把握の取組について参照。ここでいう障害者雇用ビジネスとは、障害者の就業場所となる施設・設備(農園、サテライトオフィス等)および障害者の業務の提供を行う事業のこと。
尚、この実態調査は令和5年4月のもの。
厚労省の障害者雇用に対する基本的な姿勢について
障害のある方の特性を強みとして捉え、事業活動に貢献できるような活躍の場を提供することは、雇用する企業にとっても貴重な労働力や戦力の確保につながる。 また、障害のある方が能力を発揮し、活躍できるよう、職場環境の改善やコミュニケーションの活性化、必要な能力の開発を図ることにより、多くの従業員にとっても安全で働きやすい職場環境が整えられるだけではなく、企業全体の生産性向上やマネジメント力強化にも結びつく。 取組に当たっては、ハローワークが出先機関となって関係機関と連携しながら支援するとしている。
法律に明記されたことからリーフェレットの作成へ
また、令和5年4月からは、障害者である労働者の「職業能力の開発・向上に関する措置を行うこと」が事業主の責務として法律に明記された。
【障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号) 抄】
第三条 障害者である労働者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられるものとする。
第四条 障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。
第五条 全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない。
以上の法律の明記から、障害のある方が企業の成長、発展にとってなくてはならない人材として活躍し続けることができる環境づくりを一層進めることが重要だとしている。
今後は、雇用機会の確保および必要な合理的配慮を行うことに加え、以下のことが重要だという。
・ 障害のある方がその特性や希望に応じて能力を発揮できる業務の提供
・ 雇入れ後も、職域開発や業務の選定を通じて多様な業務に取り組む機会、
特性を生かしその能力を発揮する機会の提供
・ 障害者本人の希望、能力等を踏まえた業務目標の設定、業務実績等を踏まえた人事評価、
その結果に基づく待遇の実施
・ キャリア形成の視点を踏まえた継続的な能力開発・向上の機会の提供
以上のことから、障害者が活躍できる職場環境の整備や適切な雇用管理の取組を行うために、リーフレットを作成し呼びかけるに及んだ。
障害者が活躍できる職場づくりのための望ましい取組の9つのポイント
障害者雇用についての基本的理念や事業主の責務を踏まえ、自社において障害者雇用にどう取り組むのか、その方針を明確にすることが第一に挙げられている。
ポイント1
障害のある方も組織の一員として、希望や適性に応じた仕事でその持てる能力を発揮し自社の事業活動に参画し、組織に貢献することができるよう、障害者雇用に関する方針やその実現のための取組を検討することが重要となるとしている。
障害者雇用取組事例
法定雇用率を達成することのみが目的化してしまうと、障害者雇用のメリットを感じることが難しくなるとして、望ましい取り組み事例から障害者雇用がもたらす企業にとってのプラス面を整理している。
②障害者雇用への取組をきっかけに社内全体のコミュニケーションが活発化し、組織内の心理的安全性が向上し組織環境が改善、さらに顧客サービスの質も向上。
③障害者が働きやすいように職場環境の見直し(部品の配置場所の整理など)を行ったことで他の従業員も作業しやすくなり、企業全体の労働生産性が向上。
④既存の業務を細分化し、その中から障害者の特性に合った業務を選定して任せることで、他の従業員もさらに効率的に業務に取り組むことができ、それぞれが能力を最大限に発揮して企業全体の生産性が向上。
⑤障害者自らが商品開発に参画することで、ヒット商品が生まれるなど収益の向上に貢献。
ポイント2
障害者雇用の取組を進めるに当たっては、障害者雇用の意義や、働く上での必要な合理的配慮などについて、社内の理解を促すこともポイントとしている。
自社の事業活動において、障害者が持てる能力を発揮し、やりがいを持って働き続けられるような業務を選定・創出することの必要性を説いている。
ポイント1
事業収益の向上やコスト削減等に直接資する事業活動に参画することにより、障害者が「無くてはならない存在」となり、障害者本人も一層組織への帰属意識や意欲をもって、働きがいを感じながら働いている事例が多くみられる。
ポイント2
社内の仕事の内容や必要なスキルなどについて整理する職務整理表の作成、従業員に対するアンケートやヒアリングの実施など、自社に合った方法を工夫しながら、障害者が行う業務を選定・創出が必要。
職務の選定・創出事例
ここでも望ましい取り組み事例を紹介しながら、必要であればハローワークや地域障害者職業センター((独)高齢・障害・求職者支援機構が各都道府県に設置)等の支援機関で業務の選定等についての支援を活用して欲しいとしている。ハローワークが窓口になっている。
②危険な仕事、高度・専門的な仕事等について、業務を細分化することで、障害者の特性に合った作業が見つかる可能性がある。「障害者には専門性のある仕事や高度な仕事等は無理」という思い込みは禁物である。
③人事担当部門のみならず、部署横断的に社員が幅広く検討に参画することで効果が得られている。
ポイント3
障害者ご本人の特性や能力を発揮できる業務を選定し、障害者にこれを担ってもらうことで、自社の「戦力」として活躍してもらうことが可能となる。
ポイント4
こうしたプロセスを通じて得たノウハウは、障害の有無に関わらず、従業員全体の能力を引き出し、活躍してもらう戦略として自社内に蓄積され、企業経営の改善に繋がるなど、企業にとってもメリットを得ることが期待できる。こうした取組を進めている企業からは、「障害者雇用は『社会貢献』や『CSR』ではなく、『経営戦略』として取り組んでいる」といった声も聞かれるという。
ポイント5
採用後も、障害者の能力をより有効に発揮し活躍できるようにする観点から、各人の職務遂行状況や習熟状況等を評価し、継続的に職域開発、業務の遂行方法や分担の見直しなどを行うことが重要としている。
障害者の募集・採用を進めるために、「障害者の能力を正当に評価した適当な雇用の場」となるよう、選定・創出した業務に求められる知識・スキルと、障害者の能力や特性、必要な合理的な配慮について明確化することが重要としている。
ポイント1
選定・創出した業務について、その遂行に必要な能力等を整理し、求人内容を決めること。応募者の能力や必要な合理的配慮を踏まえ、職務内容や就業時間等について調整する余地がある場合には、求人内容に明示しておくとマッチングが効果的だという。
ポイント2
求職者が応募前に職務内容や職場環境について理解できるよう、また企業としても求職者の職務への適性や必要な合理的配慮について把握できるよう、企業は、職場見学の実施や職場実習を主体的に実施して欲しいとのこと。
ポイント3
ハローワーク、民間職業紹介事業者の利用など、いずれの方法で募集する場合でも、自社の従業員の採用・配置のプロセスとして、応募者の職業能力の評価、必要な合理的配慮の確認、採否の判断を主体的に行って欲しいとのこと。
ポイント4
採用時や、雇用後も職場に定着して活躍し続けられるように、必要な作業施設の整備、支援者の配置など、職場環境、支援体制の整備等を進めるに当たっては、助成金を積極的に活用し取り組んで欲しいとのこと。助成金に関しては (独)高齢・障害・求職者支援機構の助成金案内ページ参照。
雇用形態や雇用期間については、障害のない労働者と同様に、労働者が従事する事業や職務の継続性などを踏まえて判断して欲しいとしている。
ポイント1
特に、雇用期間については、労働契約法に基づき、労働者が働く目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることのないよう配慮することが必要だとしている。
ポイント2
無期転換ルールは、当然ながら、障害者雇用においても適用される。無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではない。有期契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても、雇止めをすることは合理的な理由を欠くものとして無効とされる場合があることに留意することが必要だとしている。無期転換ルールについては 「無期転換ポータルサイト」参照。
◎例えば、障害者雇用ビジネス実施事業者が行うサービスにおいて、障害者に対し就業場所や業務等の変更を生じさせないからといって、無期転換申込権が発生する前に同じ施設を利用する他の企業への転職を促すといったケースは、望ましいものではないとしている。
ポイント3
雇用する障害者を在籍型出向により他社に出向させる場合には、将来自社内で従事すべき業務に必要な能力の開発等の目的および当該目的に沿った出向期間等を明確にして行うことが必要としている。
◎在籍型出向の形態は、労働者供給に該当します。労働者供給を「業として行う」ことは職業安定法第44条により禁止されていますが、能力開発の一環として行う場合や技術指導の実施などの目的があるもの等は、基本的には「業として行う」ものではないと判断される。
◎在籍型出向により他の企業が雇用する障害者を受け入れて事業を行う事業者や、障害者を雇い入れてすぐにこうした事業者へ出向させる企業の例も見られるが、単に障害者雇用率の達成のみのための形式的な雇用ではないかという指摘を受けることや、場合によっては労働者供給に該当することとなる可能性も懸念される、と注意を促しいている。
障害者の労働時間や休日については、職務の遂行上の必要性と障害のある方それぞれの特性に応じた合理的配慮の必要性、希望や能力を踏まえ、可能な限り柔軟に調整することとしている。
ポイント1
短時間勤務からスタートし徐々に労働時間を延ばしていくことや、短時間労働で働くことで、自信を持って安定的・継続的に勤務することができる方もいる。こうした方々の就業機会の確保に当たり、以下のような雇用率制度における特例も順次措置されている。
② 令和6年度から週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、 重度身体障害者及び重度知的障害者について、0.5カウントとして算定できるようになる。
ポイント2
一方、短時間労働者である障害者が労働時間の延長を希望する場合には、法律上の努力義務規定を踏まえ、適切に対応する必要があります 。
※障害者の雇用の促進等に関する法律 抄
賃金等労働条件については、労働基準法や最低賃金法等の関係法令を遵守することはもとより、職務の内容及び障害者各人の能力等を踏まえ適切に設定することとしている。
ポイント1
農園やサテライトオフィスなど、本社から離れた場所を障害者の就業場所とする場合には、最低賃金の取り扱いに注意が必要となるとしている。
② 例えば、サテライトオフィス等の場合には、規模が小さく組織的関連ないし事務能力を勘案して独立した事業場に該当しない場合もあります。この場合、地域別最低賃金は当該サテライトオフィスの所在地ではなく、サテライトオフィスを管理する直近上位の支社・営業所、または本社などの所在地の地域別最低賃金が適用されることとなる。
③ サテライトオフィス等が独立した事業場に該当するかどうかは個別具体的に判断されるので、サテライトオフィス等の所在する最寄りの労働基準監督署に相談することを進めている。
自らの事業活動において労働者を使用する雇用主として、障害者の勤務状況の把握、業務の遂行に関する指示・指導・支援等の業務管理を主体的に行う必要があるとしている。
就業場所等を提供する事業者を利用して障害者雇用を行う企業(以下「利用企業」という)などにおいて、 就業場所に自らが雇用する管理者を配置せず、メール等で勤怠管理、業務指示を行う、 または就業場所等を提供する事業者が指示の伝達を受託して実施するなど、業務指示ルートが不明確になることが懸念されるケースも見られる、と注意を促している。
ポイント1
特に本社から離れた就業場所等においては、利用企業などが雇用主としての雇用管理責任を十分果たすため、業務管理体制の確保や個々人の特性等を踏まえた支援担当者の配置等に特に留意することや、業務の予定・目標・遂行実績等を管理するための日報作成などの工夫を行うことも必要としている。
ポイント2
職場定着の促進に資する指導・指示・支援等のノウハウについては、就労支援機関の助言その他の支援を受けることも効果的だとしている。
② 職場適応に具体的な課題が生じた場合に、職場を訪問し、障害者に対する業務遂行能力やコミュニケーション能力の向上支援、事業主や同僚などに対する職務や職場環境の改善の助言等を行う職場適応援助者(ジョブコーチ)の支援が無料で利用できることを奨励している
※ジョブコーチ支援の利用については、ハローワーク、地域障害者職業センターにお問い合わせください。
職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を参照。
企業における人材確保・育成の観点から、雇用後においても障害者本人の希望等を踏まえた計画的かつ必要な職業能力開発・向上の機会を計画的かつ積極的に提供することが重要だとしている。
ポイント1
雇い入れ後も企業の発展に寄与する人材として活躍できるようにするためには、継続的な能力開発、向上の機会の提供が重要だとしている。
◎「定型的な業務をコツコツ行うのが得意」といったステレオタイプのような企業側の思い込みにより、ご本人の希望等を踏まえず、雇用以降、同一部署、単一業務に配置し続けることは、中長期的なキャリア形成の視点が十分とはいえないと、注意を促している。
ポイント2
定期的な面談等を通じて、現在の状況のみならず、障害者の特性を踏まえ、今後どう働いていきたいのか等障害者本人の希望等を十分に聴取するとともに、職務遂行状況や習熟状況等を評価し、必要な業務の分担や配置の見直し、スキルアップや職域の拡大に向けた職業訓練機会の提供を計画的かつ積極的に行うこととしている。
職業訓練機会事例
② また、他社と連携し一定期間従業員を入れ替える交流研修を行う企業や特例子会社などでは、関連会社への研修や出向、転籍など、本人の希望等を踏まえた挑戦の機会を設けている企業もある
ポイント3
能力開発、向上に係る取組を進める上では、企業のニーズはもとより、一人ひとりの希望等を踏まえつつ、自社の事業活動に貢献しているという誇りや自信を感じることができる業務に携わる人材を育成していくといった視点が必要だとしている。
例えば、本業基幹業務に必要な資格取得に向けて必要な支援を実施する、主力製品の開発業務を細分化し、その一部の業務に必要な訓練を新たに行って障害者をチームメンバーに加えるといった事例などもみられる。
ポイント4
在職者に対する訓練としては都道府県や(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構等の行う公共職業訓練(ハロートレーニング)等も活用できることを奨励している。
※ハロートレーニング(障害者訓練)の概要を参照。
適性や能力を正当に評価し、職務の見直しや待遇への反映を適切に行うこととしている。
ポイント1
能力開発・向上の取組と併せて人事評価制度や報酬、昇格などの待遇制度の構築を行うとともに、それらの制度について広く周知し、一人ひとりが目標を持ち、やりがいや意欲をもって働き続けられることが重要だとしている。例えば、採用時にスタートする等級を低く設定しつつ、障害の有無に関わらず同一の報酬・等級制度を運用しているケースや、リーダーや管理職を目指すだけではなく、専門職としてレベルアップしていくことを評価する2軸の評価制度とするといった、それぞれの特性等を踏まえた工夫が行われている事例も見られる。
ポイント2
その上で、定期的な面談等を通じ、障害者個々人の職業能力や職務遂行の状況、体調、モチベーション、必要な合理的配慮等について把握し、アセスメント結果を障害者本人とも共有することとしている。こうした継続的なモニタリングが障害のある方々の職業人生全般においても必要不可欠であることに留意して欲しいとのこと。
ポイント3
評価結果に基づき、各人の能力や適性を最大限に生かすことのできるよう、その後のキャリア形成にも配慮しつつ、業務分担や配置、提供する合理的配慮の内容について、その都度見直し、必要な措置や能力開発・向上の取組を行うとともに、報酬や等級等の待遇に反映させていくことが重要だとしている。
◎障害者雇用に関して、困りごとや不明な点があれば最寄りのハローワークまで。
障害者に関する窓口 参照。