A3 以下に紹介する①~⑮は、あくまで代表的なものであり、基本的なことであることをまずはお断りしておきます。
気管支喘息は、気道の慢性的な炎症によって反応性が高まり、種々の刺激により気管支平滑筋の収縮、粘膜の腫れ、分泌物の増加による痰(たん)の貯留などを来し、発作性に咳(せき)や喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー、ヒューヒュー)を伴う呼吸困難を繰り返す疾患です。発作に関わる増悪因子として、特異的刺激因子(アレルゲン:アレルギー反応を起こす原因物質)と非特異的刺激因子があげられます。アレルゲンとしては、ダニ(死骸やフン)、ハウスダスト(ダニの死骸やフンを含んだホコリ)、ペットのフケや体液、カビ、花粉などの頻度が高い。非特異的刺激因子としては、天候や気温の変化、強いにおいや煙、カゼやインフルエンザなどの感染症、ストレスや過労などがあげられます。また、特定の化学物質に対してアレルギー反応を示すこともあります。さらに、発作が激しい運動によって誘発される(運動誘発喘息)ことも多いようです。
腎臓病には、先天性の腎・尿路奇形、遺伝性腎疾患、糸球体疾患、尿細管疾患や全身疾患に伴う腎疾患など数多くの種類がありまあす。その中でも、こどもに多い腎臓病としては、急性糸球体腎炎、慢性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群などがあります。腎臓の主な働きは、身体に不必要となった老廃物を尿として排泄する血液の浄化と、身体の電解質をはじめとした体液バランスを保持することです。腎臓がうまく機能しなくなると血尿や蛋白(たんぱく)尿が認められ、むくみや高血圧を伴うことがあります。腎機能障害(腎不全)が進むと血液中のクレアチニンや尿素窒素などが増加して尿毒症(末期腎不全)となり、更に進行すると痙攣(けいれん)、意識障害などの症状を呈することがあります。末期腎不全になると人工腎臓としての血液透析や腹膜透析、腎移植が必要となります。腎疾患の治療の一環として、運動や日常の諸活動および食事などを制限されることがあるので、生活の自己管理能力を育てる指導を重視する必要があります。
筋ジストロフィーは、筋肉が壊れていく遺伝性の疾患の総称で、症状は進行性の筋萎縮と筋力低下があります。遺伝形式、症状、経過により幾つもの「型」に分類されます。代表的な型が、男子にだけ症状が出るデュシェンヌ型があります。デュシェンヌ型は3歳前後より、主に腰や臀部(でんぶ)の筋(腰帯筋)の筋力低下が現れ、歩き方がぎこちないとか、倒れやすいとか、階段上がりができないとか、運動能力の低下で気付かれることが多いようです。その後、これに続いて肩や上背部の筋(肩甲帯筋)の筋力の低下も起こってくると、手を挙げたり、物を持ち上げたりすることが困難になります。平均すると10歳ころに歩行ができなくなり車椅子生活に移行します。このようになると筋萎縮が進行し、股関節、膝関節、足関節、肩関節、肘関節等の可動域が制限され、脊柱の変形が進みます。進行性の脊柱変形に対しては外科療法(脊柱矯正術)が行われることも増えてきています。呼吸筋障害も徐々に現れます。肺活量が低下すると、深呼吸や強い咳(せき)ができなくなり、痰詰まりで窒息したり、肺炎を繰り返したり、睡眠時の呼吸不全(血液に十分な酸素がとりこめない状態)が起きるようになります。また、心筋障害も徐々に進行します。最近はそのようになる前から、呼吸理学療法や心不全の治療が行われます。呼吸理学療法の目的は、肺と胸郭の可動性と気道の清浄性の維持にあります。心不全の治療は、アンギオテンシン変換酵素阻害薬やβ遮断薬の内服により心筋を保護することが多いようです。一定程度、呼吸筋障害が進行すると、鼻マスクを用いた非侵襲性の(気管切開をしない)人工呼吸または気管切開による人工呼吸が必要になります。また、人工呼吸の際には痰の除去などの処置(痰の吸引)も必要です。
なお、知的障害を併せ有することや、自閉症の特性が見られることも少なくないので、こどもの状態を総合的に把握することが大切です。
小児の悪性新生物(がん)には、白血病、リンパ腫、神経芽腫、脳腫瘍、骨の悪性腫瘍(骨肉腫等)などたくさんの種類があります。最も多いものは白血病であり、悪性新生物の約3分の1を占めます。
療養中のこどもには、入院という生活上の大きな変化・長期間の療養のほか、副作用としての脱毛等の外見の変化などを伴うことが多いようです。さらに、化学療法や放射線照射等により、治療後の成長や心肺機能等に影響したり(晩期合併症)、悪性新生物が再発したりする場合があります。
こどもの心臓病には、心室中隔欠損、心房中隔欠損、肺動脈狭窄(きょうさく)、ファロー四徴症、単心室など先天性のものと、弁膜症や心筋症、不整脈、川崎病などの後天性のものなど、いろいろな種類があります。これらの疾患に対しては早期より内科的・外科的治療が行われるようになり、多くのこどもが健常児と同じ生活を営めるようになってきましたが、一方で手術後の遺残病変(手術して直るはずが、残ってしまうこと:例えば、心室中隔欠損手術をしたが隙間が残ってしまうなど)を有する場合や継続的な内科的治療を必要とする場合などは、その病状に応じた対応を行うことが重要です。
糖尿病は、インスリンという膵臓から分泌されるホルモンの不足のため、ブドウ糖をカロリーとして細胞内に取り込むことのできない代謝異常です。大きく分けると、1型糖尿病(若年型糖尿病)、2型糖尿病(成人型糖尿病)、続発性糖尿病(二次性糖尿病)があります。こどもの場合には1型が大部分ですが、2型も増加傾向にあります。初期の症状としては、多飲、多尿などで始まり、高血糖が顕著になると痙攣(けいれん)や意識障害を来す場合もあります。1型糖尿病では、インスリンの分泌が高度に低下するため、継続して定期的にインスリンを注射する必要があります。そのため発達の段階等に応じて、こどもが自ら血糖値測定や注射をできるようにします。
運動などの後は、低血糖に注意し、低血糖時には自分で糖分(ブドウ糖など)をとるように医師から指示されます。また、最近は、生活習慣や肥満等による2型糖尿病もみられるようになってきています。
糖尿病には、正確な食事療法と運動療法が大切なので、主治医に指示された食事や運動に関する注意点をきちんと守るように指導する必要があります。また、1型糖尿病は生涯にわたりインスリン注射を必要とするので、精神的な支援が重要です。特に、乳幼児期発症例に比べ、小学校高学年以降での発症例では、こどもが病気を理解できるようになるまでの支援が必要です。
血液の凝固をつかさどる凝固因子を正常に作れない遺伝性の病気であり、皮下、外傷、手足の関節、筋肉、歯肉、頭蓋内に出血しやすく、また、出血すると、なかなか止まりにくいことが主な症状です。血液凝固因子製剤の注射により、症状の発現を予防したり、出血の程度を軽くしたりすることができます。日常生活では、ケガなどのときの出血に注意することが大切です。なお、症状が重度な場合や生活の自己管理の確立を図ったりする場合などに入院を必要とすることがあります。
病弱教育の対象である主な整形外科的疾患としては、二分脊椎、骨形成不全症、ペルテス病および脊柱側弯(そくわん)症などがあります。それぞれの症状や治療の状況等に応じた適切な対応が必要です。
発作的に脳の神経細胞に異常な電気的興奮が起こり、その結果、意識、運動、感覚などの突発的な異常を来す病気であり、発作型は大きく部分発作と全般発作に分けられます。最近は、脳波検査により精密に診断され、大部分のてんかんは、継続して服薬することにより、発作をコントロールすることができるようになっています。発作がコントロールされているこどもについては、体育や学校行事などの制限は不要です。しかし、確実な服薬が重要なので、医師との連絡を密にしながら指導することが大切です。
また、他の脳神経疾患、先天性の疾患等に合併するてんかんもあります。このようなこどもの一部には、発作のコントロ-ルが難しい場合もありますが、基本的には発作と付き合いながら学校生活に参加しつつ治療を継続します。なお、集中的な検査や治療を要する場合は入院することもありますが、このようなことは比較的少ないようです。
重度の知的障害と重度の肢体不自由を併せ有する障害であり、生活は全介助を必要とする場合が多いようです。原因は様々ですが、大きくは、周産期障害(出産の前後の障害)、後天性障害(外傷、脳炎など)、先天性障害(代謝異常、染色体異常、奇形など)に分けられます。いずれもその基盤に中枢神経機能の障害を併せ有することが多いようです。
多くの場合、日常的な医療管理を必要とするが、できるだけ生活上の活動力(呼吸や食事、消化機能など)を高めるとともに、認知機能などの個々のもっている力や日常生活に参加する力、他者と関わる力、感動する力などを高めるようにすることが必要です。最近は、様々なスイッチ等の支援機器を活用して、本人が自ら操作できるようにしたり、自らの意思を伝えたりするような取組も行われています。
《アトピー性皮膚炎》かゆみのある湿疹(しっしん)が慢性的に持続する病気です。生まれながらにアトピー素因とともに皮膚のバリア機能低下があるためアトピー性皮膚炎のこどもの皮膚は、様々な刺激に対し過敏で、乾燥しやすいといえます。そこへ環境因子としてアレルゲン(アレルギー反応を引き起こす原因物質:ダニやカビ、動物のフケや食物など)や汗、シャンプーや洗剤、生活のリズムの乱れや心理的ストレス、日光などが作用し皮膚炎を生じ、更に掻(か)くことや悪化因子が加わり皮膚炎が悪化するという悪循環を繰り返すと考えられています。
皮膚炎は、顔、首、肘の内側、ひざの裏側などによく現れますが、ひどくなると全身に広がります。軽症では皮膚が乾燥し、がさがさしていることが多いが、悪化すると赤くなりジュクジュクしたり、硬く厚くなったりします。かゆみが強いためひっかき傷が目立ち、しばしば伝染性軟属腫(水いぼ)や膿痂疹(トビヒ)などの皮膚感染症を合併することがあります。
《食物アレルギー》特定の食物を摂取することによりアレルギー反応を介して皮膚・呼吸器・消化器あるいは全身性に症状を示す病気です。学齢期に見られるのはほとんどが即時型と呼ばれる病型で、原因食品を食べて2時間以内に症状が出現します。その症状はじんましんのような軽い症状から、生命の危険を伴うアナフィラキシーショックに進むものまで様々です。数は少ないが果物や野菜、木の実類などを摂取し数分で口腔(こうこう)内の症状(のどのかゆみ、ヒリヒリ・イガイガする、腫れぼったいなど)が出現する口腔アレルギー症候群や原因食物(小麦、甲殻類が多い)を摂取して2時間以内に運動(昼休みの遊びや体育、部活動など)をすることでアナフィラキシー症状を起こす食物依存性運動誘発アナフィラキシーなどがあり注意が必要です。
原因食物は、鶏卵、乳製品が大半ですが、それ以外も甲殻類、ソバ、果物類、魚類、ピーナッツ、軟体類、木の実類などがあります。偏った栄養バランスが、成長発達に悪影響をおよぼす危険性を考慮し、的確な診断に基づく必要最小限の食物除去を行うことに努めねばなりません。
肥満症は身体脂肪が異常に増加した状態と定義される。肥満の中には、内分泌異常等に起因する病気による場合(症候性肥満)も含まれますが、多くは摂取カロリ-の過剰による単純性肥満です。肥満症のこどもは高血圧症や脂肪肝のような肝障害や高コレステロ-ル血症になる可能性があり、これらはこどもにおける代表的な生活習慣病です。さらに、体型や運動能力の低下などから劣等感をもつようになったり、学力の低下や学校嫌いへと進んだりすることもあります。
心身症とは、診察や検査で詳細に調べると異常が見いだされる身体の病気であって、その病気の始まりと経過にその人の心理的な問題や社会的問題が密接に関係しているものです。密接に関係しているとは、身体的治療のほかに心理社会的問題へも対応しなければ完全には治らないという意味です。こどもの心身症についても大人と同じ症状を示すのが普通ですが、一方、こどもに特徴的に出現する心身症もあります。
症状としては、腹痛や頭痛、疼痛などが認められます。例えば、心理社会的な問題と腹痛がある場合には、胃潰瘍などの器質的な疾患があれば心身症とするが、器質的な疾患がない場合には、その病気の始まりと経過にその人の心理的問題や社会的問題が密接に関係している場合には身体表現性障害と診断されます。心身症には様々なものがりますが、最も多いのが反復性腹痛と頭痛です。最近、特別支援学校(病弱)に神経性食欲不振症や神経性過食症などの摂食障害の診断を受けたこどもが増えています。
様々なストレスが増加する社会の中で、うつ病や双極性障害(そううつ病)を中心とする気分障害等の精神疾患を発症する大人が多くなってきています。以前はこどもに、うつ病はないと言われた時代がありましたが、うつ病や双極性障害等の診断を受けるこどもは、大人と同様に、けっして珍しくなくなっています。
抑うつ症状はうつ病だけでなく、統合失調症などあらゆるこどもの精神疾患によく認められます。また、自閉症や学習障害、注意欠陥多動性障害等の発達障害の診断を受けたこどもがストレスの強い環境に反応して、二次的に抑うつ症状を呈することがあるため、児童精神科医などの専門家でないと診断は難しい場合が多いようです。
うつ病は、大人と基本的な症状は同じですが、こどもの場合は抑うつ気分を言葉で表現することが難しいため、ぼうっとした感じになったり、不機嫌になったり、いらいらして周囲に当たり散らしたり、大人に反抗したり、頭痛や腹痛などの身体症状を訴えたり、不登校となったり、学業成績が低下したりするなどこども特有の非定型な症状が見られるので注意が必要です。非常に早い周期で気分の波が現れたり、そうかと思うと完全に症状が無くなる間欠期が、見られたりする場合もあります。こどものうつ病や双極性障害では、このように症状が大人と異なるだけでなく、薬物療法の効果が大人のようには認められないこともある。正確な診断はこどもの成熟とともに、経過中に徐々に明らかになることがあるため、途中で変更を余儀なくされることも珍しくありません。
特に幻覚、妄想、希死念慮、自傷行為のような症状が現れている時には、家族の了解を得た上で、児童精神科等の専門機関に相談し、連携して取り組むことが重要です。
①~⑭で示しているのは、あくまでも例であり、これら以外の疾患であっても、病弱教育の対象となることはあります。これら以外にも、例えば、色素性乾皮症(XP)やムコ多糖症等の希少疾患や、もやもや病、高次脳機能障害、脳原性疾患等の様々な疾患のため病弱教育を必要とするこどもがいます。
病弱教育の対象として判断するに当たっては、疾患名を把握することも重要なことであるが、例えば同じ心臓疾患であっても、健康なこどもとほとんど同じ運動ができる状態のこどももいれば、酸素を必要とするこどもや、厳しい運動上の制限があるこどももいるため、診断名だけでは、障害の実態やこどもが必要とする教育的支援の内容が分からないこともあることを念頭に置いて考えるべきである。