A3 コントロール障害(自分の意志でやめられない病気)になってしまっているからです。
人は誰しも、不安や緊張を和らげたり、嫌なことを忘れるために、ある特定の行為をしたりすることがあります。が、それを繰り返しているうちに脳の回路が変化して、自分の意志でやめられない状態になってしまうことがあります。これが依存症という病気です。周囲がいくら責めても、本人がいくら反省や後悔をしても、また繰り返してしまうのは脳の問題なのです。決して「根性がない」とか「意志が弱いから」ではありません。依存症は、条件さえ揃えば、誰でもなる可能性がある病気で、特別な人だけがなるわけではありません。依存症は特定の行為を自分の意志でやめたり、減らしたりできない病気なのです。
脳の仕組みを知る
なぜ自分の意志ではやめられない状態になってしまうのか? その鍵は脳の仕組みにあります。ここでは脳の仕組みを考える入り口として、依存対象物質のひとつであるアルコール摂取について考えてみます。私たちが物事を考えたり感じたりできるのは、脳の中で神経細胞がさまざまな情報伝達を行っているからです。しかし、アルコールが体内に入ると、脳に侵入し、情報伝達の働きに影響を与えます。
アルコールだけでなく、薬物でも同様ですが、これらの物質を摂取すると、私たちの脳内ではドーパミンという快楽物質が分泌されます。この快楽物質が脳内に放出されると、中枢神経が興奮し、それが快楽・よろこびにつながります。この感覚を脳が報酬(ごほうび)と認識すると、その報酬(ごほうび)を求める回路が脳内にできあがります。アルコールを例にしましたが、ギャンブル等で味わうスリルや興奮といった行為でも、同じように脳の中で報酬を求める回路が働いているのではないかと言われています。
エスカレートするのは脳の仕業によるものなのです。
脳内に報酬を求める回路ができあがり、アルコールや薬物を体に取り込む行動が習慣化されると、快楽物質が強制的に分泌されることが繰り返されます。そうなると、次第によろこびを感じる中枢神経の機能が低下していきます。快楽・よろこびが感じにくくなるにつれ、以前のような強い快楽やよろこびを得ようと、ますますアルコールや薬物摂取の量や頻度が増えていきます。すると、ますます快楽・よろこびは感じにくくなり、焦燥感や不安、物足りなさばかりが増していく……という悪循環に陥っていきます。
いったんこのような状態に陥ると、ほどほどにできなくなったり、ほどほどが続かなくなったりしてしまい、もはや自分の意志でコントロールすることは非常に困難になります。脳が報酬(ごほうび)を求めてエスカレートするため、本人がやめたいと思ってもどうにもならないのです。意志の弱さや性格の問題でもなく、もちろん最初から依存しようと思ってなるものではなく、脳の仕業なのです。条件さえ揃えば誰でも依存症になる可能性があり、特別な人だけがなるわけではないのはこのような理由からなのです。