A1 不安障害の一つとしてパニック障害は分類されています(その他の不安障害には、高所恐怖症・閉所恐怖症などの特定恐怖症、社会不安障害、強迫性障害、PTSD(外傷後ストレス障害)、全般性不安障害などがあります)。
ある日いきなり、心臓がドキドキしたり、胸が締め付けられたりするような息苦しさや、めまいや胸の痛みが起こり、このまま死ぬのではないか? そんな強い不安感に襲われた経験はありませんか。最近、こうした発作を起こし、病院で「パニック障害」と診断される人が増えています。かつては心臓神経症や不安神経症のひとつとされていましたが、違う病気であることが判明し、日本でも病名が一般的に知られるようになったのは近年のことだと言えます。そのためパニック障害のことをまだ知らず、つらい症状にひとりで悩んでいる人が少なくありません。
パニック障害は、ストレス性の不安症や神経症、あるいは心の病気とも違います。最近の研究などから、パニック障害の原因は、脳内神経伝達物質(脳内ホルモン)のバランスの乱れであることが判ってきています。とくにセロトニンとノルアドレナリンが関係していることが考えられるようになりました。
セロトニンは、ほかの脳内神経伝達物質の情報をコントロールし、精神状態を安定させる働きがあります。またノルアドレナリンは、不安や恐怖感を引き起こし、血圧や心拍数を上げる働きをします。
脳内神経伝達物質の乱れと聞くと、特殊な病気と思われるかもしれませんが、100人に3人程度の比率で、だれにでも起こりうる病気です。ただ、働き盛りの年齢の人が、ある日突然強い発作におそわれ、ショックを受けることが少なくありません。心臓疾患を心配したり、再発の不安から外出できなくなったりするなど、日常生活に支障をきたすこともあります。
そのため発作を経験したら、早めに病院(心療内科や神経科、精神科)を受診し、適切な治療と生活指導を受けることが大切です。
パニック障害という病名は、1980年にアメリカ精神医学会で初めて発表されました。1990年代にWHO(世界保健機関)に登録され、ようやく一般にも知られるようになりました。
パニック障害の症状には、「①パニック発作、②予期不安、③広場恐怖」という、3つの大きな特徴があります。
① パニック発作
発症のきっかけとなるのが、パニック発作です。なんの前ぶれもなく、いきなり次のような症状が起こります。
・心臓のドキドキがはっきり感じられるほど強くなる。
・呼吸が速まり、息ができない感じがする。
・胸に痛みを感じる。
・冷や汗が出たり、からだがふるえたりする。
・めまいやふらつきが起こる。
・からだがふわふわしたり、頭がぼんやしたりする。
・吐き気や腹部などに不快な感じがする。
発作はかなり強く、死ぬのではないかと不安になる人が少なくありませんが、たいていは30分~1時間程度でおさまります。しかし、繰り返し発作が起こります。当初は月に1回程度だったのが、進行するにつれ2回、3回と増える傾向があります。
パニック発作は一般に、女性に多いといわれます。しかし、男性は恥ずかしがって受診しない人が多いため、実際には男性の患者さんもかなり多いと推定されています。
② 予期不安
パニック発作を繰り返すと、また起こるのではないかという恐怖感を抱くようになります。それが「予期不安」です。
予期不安には、死への恐怖だけでなく、ほかの病気(心臓疾患など)への心配、発作を起こしたときの不安(恥ずかしい、助けてもらえない、他人に迷惑をかける)など、さまざまな感情が入り混じっていると言えるでしょう。パニック障害の人の多くが、この予期不安を感じているのです。
③ 広場恐怖
予期不安がエスカレートし、自分が発作を起こした場所に恐怖感を持つようになります。これが「広場恐怖」と呼ばれるものです。「広場」というのは、人が大勢いる場所といった意味で、実際には患者さんごとに恐怖感をもつ場所は異なります。例えば、電車やバスの車内で発作を起こしたために、乗り物を避けるようになったり、デパートで発作を起こし、デパートに買い物に行けなくなったりする症状の人もいます。広場恐怖がさらに進行すると、外出ができなくなり、仕事や日常の買い物にも行けず、家に引きこもるケースもみられます。また精神的にも落ち込み、うつ状態になる人もいます。
このようにパニック障害は、発作にはじまり、放っておくと、発作の繰り返し→予期不安→広場恐怖へと、重症化するのが一般的な傾向です。