A5 ADHDの認知が高まったことによって、最近は大人のADHDが注目されるようになりました。ADHDの発達障害は、不注意・多動性・衝動性の三つを主症状とします。ADHDのタイプは大人でも子供でも下記の三種類に分類されます。
不注意優勢型(不注意が目立つ)
ケアレスミスが多い、約束を忘れてしまう、物をよく失くすといった不注意を起因とする症状が主に現れるタイプです。上記のミスはADHDでない方でも起こりうるものですが、ADHDではこれらのミスが年齢に対して不相応に生じ、日常生活・社会生活に支障をきたします。これらの症状は決して本人のやる気がない、怠けているというわけではなく、脳の機能発達の偏りから起こるものです。
多動・衝動性優勢型(落ち着きのなさが目立つ)
じっとすることができない、失言をしてしまうなど、多動性や衝動性から起こる症状が主に現れるタイプです。ADHDの多動性というと、すぐに離席してしまうイメージがありますが、大人のADHDでは離席してしまうほどじっとできない方はあまり多くありません。大人のADHDで多動性が現れる場合は、何となくそわそわしている、体を小刻みに揺らす、といった形で現れることが多いです。
混合型(不注意、多動性、衝動性がともに目立つ)
混合型は不注意、多動性、衝動性が同程度に目立つタイプを指します。
大人のADHDは不注意優勢型が多いようです。その理由には、発達障害は子供頃から持っているものですが、不注意優勢型のADHDは、多動・衝動性優勢型のADHDより学校生活では問題視されにくく、学業や学校生活に支障がなければ「少しうっかりしているけれど普通の子」として見過ごされてしまうことが多いのです。なかには保護者や先生、友人など周囲のサポートにより不注意症状がカバーされ、症状がみえにくくなっていることもあります。しかしながら、社会に出ると自身でスケジュール管理やタスクを掌握し、ミスなく確実に遂行する能力が求められます。そこでADHDの不注意症状が顕在化することによって「自分はADHDかもしれない」と受診するパターンが多いと考えられます。また、理由はよく解っていないのですが、子供の頃は混合型のADHDであったのが、大人になるにつれ多動の症状が落ち着き、結果として不注意の症状が目立つということも考えられます。
症状の出方は個人差や環境によって異なりますが、大人のADHDの症状は具体的には下記の状態や行動となって現れます。
不注意症状
・ミスが多い、同じミスを繰り返す
・頭の中やスケジュール・タスクを整理できない、順序立てて行えない
・締め切りをなかなか守ることができない
・忘れ物や失くしものが多い
・仕事や作業に集中できない
多動・衝動性症状
・失言をしてしまう
・衝動的に動いてしまう(衝動買い、独断で重要事項を決めてしまうなど)
・そわそわしている、体を小刻みに揺らす(貧乏ゆすりなど)
ADHDでみられる他の症状
・気分の変動が激しい(1日のなかで瞬間的に気分が変わる)
・過度に集中してしまう(自閉症スペクトラムとADHDが併存している可能性)
ADHDの症状一つひとつは、ADHDでない方にもあるありふれたものです。そのため、周囲の理解がなければ「怠けている」「やる気がない」と評価されて、過度な叱責や自尊心の低下につながることがあります。ADHDの症状は、努力すれば解決するものではなく、どうしても起きてしまうものです。しかし、自身の持っている特性を把握し、持てる能力を生かした形で工夫することにより乗り切れる場面も多くあります。また、職場で自分の障害について理解してもらえている場合には、これが怠けややる気のなさではなく、ADHDの特性であることを職場の上司や同僚などに伝えることが必要です。自身の障害を伝えられていない、あるいは障害に対して理解がない環境である場合には、必ずしも「ADHDである」ということまでは伝えなくてもよいでしょう。ただし自分が業務上困っているポイントについては説明し、可能な範囲で理解とサポートをお願いすることが大切です。