私たちの睡眠は、安心な状態になったら眠る仕組み、疲れたら眠る仕組み、夜だから眠る仕組みの3つで調節されています。したがって、安心できない状況にある時、脳が疲れていない時、身体と脳が夜の錠チアになっていない時に、よく眠れない状態に陥ることになります。
試験の前の日に緊張して眠れなくなった、昼間にあった嫌なことを思い出してしまって眠りにつけなかったなどという経験は誰にでもあります。ニュースを見ていると、世界中の自然災害、大事故、戦火の様子が中継されますが、災禍にあった人たちは「不安で眠れない」と訴えます。心配で、不安で眠れないというのは、世界共通の表現です。誰でも安心できない状況になると眠れなくなります。
心配事で眠れない日が続くと、今度は眠れなかったらどうしようという不安が、就床時刻が近づくにつれて高まってきます。こうなると出来事と関係なく、毎晩寝付くのに苦労するようになります。ポジトロンCTという脳の活動を調べる検査を行うと、不眠症の人は、寝る前の時間帯に大脳辺縁系という情動と関連した脳部位の活動が著しく高まっていました。つまり、心配で脳が興奮し、目がさえて眠れなくなっているということです。
睡眠不足になると日中の眠気が強くなり、夜は深く眠るようになります。これは、活動中に疲労した脳を積極的に休ませる機能です。脳が活動している間に一種の老廃物(睡眠物質)が脳に蓄積し、これが疲労に応じて脳を休ませる仕組みが明らかになっています。
成人が毎晩8時間以上床に入っていると、だんだんと睡眠が浅くなってきます。長く続くと、夜中に何度も目が覚めるようになります。夜だから眠る仕組みは、脳の奥にある体内時計がつかさどっています。体内時計は、私たちが意識しないところで、昼間明るい時期に効率的に活動し、夜暗くなると眠るよう脳と身体を調節しています。体内時計の働きで、いつも床に就く2時間くらい前になると徐々に皮膚の温度が高くなり、熱を逃し、体内の温度を下げます。こうして、身体が休む準備ができるため、一定時刻になると眠くなるのです。
眠る準備は、いつも起床する時刻から15時間くらいのタイミングで起こります。体内時計の仕組みを無視して、いつもより早い時間から眠ろうと意気込んでもなかなか寝付けないのは、眠る準備ができていないからです。
こうした眠る仕組みの働きが悪くなるだけでなく、身体に痛みや異常な感覚があると、眠れない状態になります。眠ろうと横になると、足の異常な感覚で動かしていないといられなくなるレストレスレッグス(むずむず脚)症候群、眠り始めに手足が繰り返してぴくつくせいで目が覚めたり眠りが浅くなったりする周期性四肢運動障害、眠ると息が詰まってしまうため睡眠が浅くなり、夜中に目が覚める睡眠時無呼吸症候群などがあります。