A2 パーソナリティ障害は、遺伝的要因と社会要因などが複合的に影響して発症すると考えられています。いずれにしても複合的であることが障害発症のポイントなので、原因は一つだけというわけにはいきません。以下では主な代表的な原因を紹介するにとどめておきます。
原因1 家庭環境
先ず精神疾患の多くで、その家庭環境に理由を求める傾向がありますが、決してそれが全てというわけではありません。しかし、確かに両親の普段の性格や子育て方針が子供に影響を与え、それをきっかけにしてパーソナリティ障害になることも考えられます。
両親が健全な精神を持っていても、子供がパーソナリティ障害になることを阻止することはできません。その上で、「原因の一つに、家庭環境の不安定さがある」ということはできます。親が気分によって子供に対する接し方を変えたり、子供に無関心でいたりすると、子供は親に対する不信感を抱くようになります。そして、その不信感が、第三者全てに対するものに変わっていくことも考えられます。更に、元から子供が持つ性質も、大きく影響するものと思われます。同じ家庭環境で生まれた子供同士を比べても、その性格や行動パターンが全く異なることは、子育てを通じて理解される方も多いはずです。そして、子供の個性に対して、親が柔軟な姿勢でいなければ、子供は本来の自分の姿に自信をなくすことになるでしょう。子供を平等に育てるだけでなく、子供の個性を見抜いた愛情表現ができるか否かも、パーソナリティ障害発症の有無に影響するのではないかと言われています。
原因2 環境の変化
パーソナリティ障害になるそのほかの原因は、社会背景の影響によるものや、急激な環境の変化への対応能力によるものなどがあげられます。
私たちが現在暮らしている社会は、10年前のものとも20年前のものとも違います。更には、戦時中の人たちが何をどう感じて生きていたかなど、私たちは最早体験することなどできません。この社会が、自分が生きるのにあまりにも困難な状況にあれば、「何かをやる余裕がない。こんな時代に夢も希望も持てない」と思うに違いありません。現にバブルが弾けて以来、抑うつ症状や不安障害の患者が、劇的に増えたという事実もあります。社会背景はこのように、私たちの精神状態にも深く影響を与えるものなのです。
次に、環境の変化については、子供でも、引っ越しがきっかけで「いじめ」に苦しんだり、大人だと、急な転勤で環境が否応なしに変わってしまい、それについていけなくなったり、そういうことがあると思います。環境の変化そのものに、肉体的にも精神的にも追いついていけない、物事が悪い方向に変化すれば、私たちは絶望的な気持ちにもなります。
余談になりますが、「マリッジ・ブルー」というのは、結婚という人生最大の変化に対する不安や危惧とも考えられます。環境の変化がいかに人の精神に影響を及ぼすか。どのような形であれ、生活における変化というのはリスクを伴うものなのです。
原因3 脳の発達障害
パーソナリティ障害になる原因で最後にあげられるのは、脳の発達障害によるものです。つまり、先天的なものに影響されるということです。 脳の発達障害によって引き起こされるものの中に、ADHD(注意欠陥・多動性症候群)や、LD(学習障害)などがあります。ADHDもLDも、脳の神経伝達物質が、正しく稼働していない為に起こり得る障害です。これらの人々は、普通の知能がありながら、学習ができない、落ち着いていられない、などの問題が生じます。これらの症状をその子供の個性だと思い込み、「あの子は勉強ができない」「あの子は落ち着きがない」と頭から叱る人も大勢います。そのことで、発達障害の子供たちは、自分に自信を失い、また周りに不信感を募らせていくようになるのです。こういったことで精神的に不安定になり、パーソナリティ障害を発症させるケースがあります。すなわち、ADHDやLDの合併症状として、パーソナリティ障害になることが考えられます。この場合、パーソナリティ障害の中の「境界性パーソナリティ障害」になるケースが多いのですが、そのほかのタイプのパーソナリティ障害になることも考えられます。脳内のトラブルが元であれば、そのことをいち早く見抜けるかどうかが、パーソナリティ障害になるか否かの分かれ目になると言えます。