Q18 障害者でも普通にみなと同じように暮らせる社会をめざす、ノーマライゼーションの考えについて教えて下さい。

A.18 私たちのこの社会は多くの構成員であるマジョリティにとって快適な生活が送れるような仕組みになっています。 ですからマイノリティである者にとっては生きにくい社会であると言えます。 このようなマイノリティである社会的弱者(障害者、高齢者、女性や子供など)が、マジョリティとかわらぬ日常生活を過ごし、社会活動に参加できることを目的とし、また具体的取組も含めた考えをノーマライゼーションNormalizationと言います。
【ノーマライゼーションとは?】 
 現在、ノーマライゼーションは国際的な社会福祉の基本理念にまでなっています。 例えば、バリアフリー、ユニバーサルデザイン、QOL、在宅サービス、自立生活運動、当事者主体の考え方や取り組みは、すべてこの理念を実践するために生まれたものと言ってもあながち間違いではありません。
 ノーマライゼーションとは、ノーマル化するという「標準化」「正常化」「等質化」を意味します。これまで特別扱いしていたものを、一般的にするというニュアンスがあります。
 かつての社会福祉の考えでは、社会的弱者であるマイノリティは「保護」すべきだという考えから、特別扱いをし、社会から切り離し隔離するという考えにもつながりました。実際に本人や家族の意にそぐわない形での保護が多く行われてきました。
 これに対してノーマライゼーションは、あくまでも誰もが同じ社会に暮らす一員であるという考えから、社会的弱者が変わるのではなく、社会環境の方こそ変えていく必要があると考えるものです。なぜなら社会的弱者も価値を生み出し、役割を担える社会にしなければならないと考えるからです。
【ノーマライゼーションの生まれた背景】
ノーマライゼーションの理念は、1950年代にデンマークの社会省担当だったニルス・エリク・バンク=ミケルセン(1919~1990)によって提唱されました。 当時デンマークは知的障害者を家族や社会から切り離し、特別施設に収容する措置をとっていて、その扱いは人権を認めないような劣悪なものだったようです。 自由に外に出られず、寝食集団単位の生活はまるでナチスの強制収容所を彷彿させるものでした。 バンク=ミケルセン自身、第二次世界大戦中はレジスタンス活動のためナチスの強制収容所に収容された経験がありました。 そこで、彼は知的障害者を持つ親の会とともに知的障害者の生活改善を求めて、1950年に政府に要望書を提出します。 デンマークでは1959年に知的障害者福祉法が成立し、条文にはノーマライゼーションが盛り込まれ、知的障害者にも一般市民と同じ生活と権利が認められるようになりました。 この法律は「1959年法」として知られるようになり、1960年代にはスウェーデンや北欧、イギリス、アメリカなどに世界中にノーマライゼーションの考え方が伝わり、その過程で、対象者も知的障害者だけではなく、すべての障害者、社会的弱者、マイノリティに広がっていきました。
【ノーマライゼーションの8つの原理】
バンク=ミケルセンに提唱されたノーマライゼーションを発展・普及させたのが「ノーマライゼーションの育ての父」と言われるベンクト・ニィリエ(1924~2006)です。 スウェーデンの知的障害者連盟でノーマライゼーション運動の中心を担っていたニィリエは、1969年にその定義を「社会でノーマルとされる日常生活のルールや形式にできるだけ近い条件を、知的障害者が獲得できるようにすることだ」と提唱し、そこでその条件を8項目(ノーマライゼーションの8つの原理)あげました。
以下は 《生活のリズムに関する原理》
●一日のノーマルなリズム
●一週間のノーマルなリズム
● 一年間のノーマルなリズム
● ライフサイクルにおけるノーマルな体験
以下は 《経済環境などの原理》
●ノーマルな要求と自己決定の尊重
●異性との生活
● 一般市民と同じ経済水準
●ノーマルな環境水準
以上の全てが満たされることで、はじめて知的障害者は一般社会で人々と同じように生活しているとニィリエは言う。 このノーマライゼーションの原理をニィリエがアメリカで普及させることによって全世界に広まり、現在でも国際的な社会福祉の理念の土台となっています。
【社会的役割の実践をめざすノーマライゼーション】
ヴォルフ.ヴォルフェンスベルガー(1934~2011)は、アメリカやカナダでノーマライゼーションの普及に努めました。 しかし彼の考え(ソーシャル・ロール・バロリゼーションSocial Role Valorization=社会的役割の実践)は、「個人の能力を高める」ことや「社会的イメージの向上」に重点を置きすすぎるため知的障害者を社会へ適応や同化させるものだという批判が相次ぐことになりました。
ヴォルフェンスベルガ―のノーマライゼーションは北欧型とは違うことによって、よりノーマライゼーションの課題を浮き彫りにし、社会的弱者やマイノリティをそのままにして受け入れる社会の側の整備の必要性を明確にすることにつながりました。 しかしながら、障害者の気持ちになってみれば、「個人の能力を高める」ことや「社会的イメージの向上」がないわけではありません。 ノーマルになることを目指すとなると問題有りとは言え、改めてヴォルフェンスベルガ―のノーマライゼーションを見直すこともされています。
ノーマライゼーションの国際的な取組みの中で】
1971年に「知的障害者の権利宣言」が国連で採択され、さらに1975年には対象を障害者全般に拡大した「障害者の権利宣言」が採択されました。 1981年には、ノーマライゼーション実現のため「完全参加と平等」をテーマに国連で「国際障害者年」が定められました。 日本にノーマライゼーションが普及し始めたのがこの頃です。 国連は「完全参加と平等」を具体化するため、1982年「障害者に関する世界行動計画」が採択されます。
1990年にはアメリカにおいて世界初の障害者差別禁止法「ADA(American’s with Disabilities Act=障害を持つアメリカ人)法」が公布されます。 これは障害者の社会参加促進の具体的な内容を行政や民間に約束するものでした。 1993年には国連で「障害者の機会均等化のための標準規則」が採択されます。 「機会均等化」とは、「社会の仕組みや、サービスや活動、情報、文書といった環境を、全員に、特に障害を持つ人に利用できるようにする過程」であると同規則にあります。 これは機会の平等化や社会参加の促進を目指した環境整備を指す言葉であることから、ノーマライゼーションに近い考えを具現化するものです。 2006年には国連で「障害者権利条約」が採択されました。従来の「障害者の権利宣言」などは、法的な拘束力がないのに対して、「条約」を批准した場合、法律なみの拘束力を持つ。
1990年にはアメリカにおいて世界初の障害者差別禁止法「ADA(American’s with Disabilities Act=障害を持つアメリカ人)法」が公布されます。 これは障害者の社会参加促進の具体的な内容を行政や民間に約束するものでした。 1993年には国連で「障害者の機会均等化のための標準規則」が採択されます。 「機会均等化」とは、「社会の仕組みや、サービスや活動、情報、文書といった環境を、全員に、特に障害を持つ人に利用できるようにする過程」であると同規則にあります。 これは機会の平等化や社会参加の促進を目指した環境整備を指す言葉であることから、ノーマライゼーションに近い考えを具現化するものです。 2006年には国連で「障害者権利条約」が採択されました。従来の「障害者の権利宣言」などは、法的な拘束力がないのに対して、「条約」を批准した場合、法律なみの拘束力を持つ。
【バリアフリーとユニバーサルデザイン】
バリアフリーとユニバーサルデザインは現代の社会福祉で重要な考えとなっています。いずれもノーマライゼーションと似た考えですが、どのような関係として見ることができるでしょう。 「バリアフリー」とは、障害者や高齢者、子供などの社会的弱者にとって《障壁》となるものを取りのぞこうという考え方です。 例えば、脚が悪い人や車いすを利用する人のために、階段に手すりやスロープを取り付けたり、エレベーターを設置したりするのがバリアフリーです。 他にも視覚障害者や聴覚障害者が安全に歩行するために音声付信号機や誘導ブロックなどもバリアフリーです。 もともと建築用語として用いられていた言葉でしたが、1974年に「バリアフリーに関する国連障害者生活環境専門会議」の報告で提案され、社会福祉でも広く用いられることになりました。 ノーマライゼーションの理念は、障害がある人もない人も最初から同じように生活ができる社会をつくることでしたが、通常の社会から障壁を取り除くというバリアフリーは、少し考えが離れているようにも見えます。 しかしながら、現在バリアフリーは社会制度や人々の意識にある障壁を取り除く、という意味合いで用いられるようになっているため、ノーマライゼーションを実現するための手段として、バリアフリーの理念に近づいていると言えるのではないでしょうか。
「ユニバーサルデザイン」とは、障害や年齢、性別、国籍や身体能力など、あらゆる個人差にかかわらず、誰もが快適に使用できる設計のことをいいます。 例えば、自動販売機の硬貨投入口やマンションの入り口インターホンなどが低い位置にあれば、車いすでも簡単に操作することができます。 またトイレなどのサイン表示をイラストや音声案内にすれば、外国人や子供、視覚障害者などにも区別がつきやすくなります。 ほかにもシャンプーとリンスが触って区別できる凹凸や、ペットボトルを持ちやすくするくぼみ、左利きでも使用できるハサミなどは、健常者にも使いやすいデザインだと言えます。 このようなユニバーサルデザインの理念は、自身障害者であったアメリカの建築家ロナルド・メイスによって考案されました。 障害者や社会的弱者を最初から特別扱いするのではなく、最初から誰にでも使いやすいデザインにするというバリアフリーの発展形として提唱されたものです。 その意味ではノーマライゼーションに近く、それを具体化する手段のひとつとなっています。
【ノーマライゼーションの課題】
日本でも1990年代からノーマライゼーションの取り組みはおこなわれています。 しかし現状は、障害者の離職率は高く、社内理解度も低く、ノーマライゼーションの理念はいまだ定着しているとは言えません。 障害者でも同じように社会活動に参加できるようにすることが、ノーマライゼーションの目的です。 それを実現するには、一般社会がそれを受け入れる体勢をととのえる必要があります。 そのために大切なことは、何より障害者に対する理解を深めることです。 障害者のことを理解すれば、それ自体が心のバリアフリー化となり、ノーマライゼーションが広まっていくことにもつながるはずです。 ノーマライゼーションは、けっして障害者のためだけのものではありません。あらゆる人々が暮らしやすい社会をつくるためにある考え方なのです。




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