雇用の難しさと解決方法

  障害者雇用は難しい?

障害者を雇用するにあたって、よく聞かれる悩みの1つに、「障害者にどのような仕事を任せればよいのかわからない」という声がきかれます。一般的に障害者の雇用には、定型的であまり納期が厳しくないものがよいと言われてきました。もし、このような業務が、作業工程の流れのなかから独立させられるようであれば、抜き出し専門業務として任せてみるのもよいでしょう。
しかし、職場によっては、作業工程の中からそのような業務を抜き出すことは、難しいかもしれません。そのため会社にとって必要とされている業務は何か、人手が足りていない業務はないか、という観点から見ていくことも必要なことといえます。
とかく障害者を雇用しようとなると、業務上あまり問題のない、少々滞っても支障のない業務をと考えがちです。しかし、障害者はアルバイトやパートとは違うので、同じ社員の一員として戦力になるという考え方を持つべきではないでしょうか。戦力になると考えれば、部署も業務領域もひろがるはずです。そのためにも障害者個々の状態や特性を見極め、できることから始めることが障害者雇用の第一歩です。
伝達の方法や、体調管理の気遣いや、抱えている仕事に対する声掛けなど、少々手間取りはしますが、ルーティーンを覚え、信頼関係さえ築ければ、職場の雰囲気は良くなり必ず戦力となるはずです。

  障害者の離職の理由

障害者は短期間で離職してしまうとよくいわれています。そのため、離職の主な原因を知り、その対策を講じることは、離職を防ぐために役立つはずです。
離職の主な理由は、以下の通りです。

・賃金、労働条件に不満 32.0%
・職場の雰囲気、人間関係 29.8%
・仕事内容があわない 24.8%
・会社の配慮が不十分 20.5%

上記をみると、障害者に限らずどんな社員もこのうちの一つぐらいは、悩みとして抱えているものばかりです。しかし、障害の内容によっては、状態が悪化してしまう恐れがあるため、短期間で離職してしまう原因となったりします。このことからわかるように、障害者雇用は注意深い配慮が必要となります。

  なぜ障害者は退職してしまうのか

では、なぜ障害者は辞めてしまうのか。理由は様々いえるでしょうが、現場の実態からみて結論から言ってしまえば、障害者本人、企業の双方に大きな溝があるからだといえます。障害者本人、企業の目線それぞれから説明してみたいと思います。

《障害者本人の問題点》

障害のある人自身、あまり意識していない人も多いかもしれませんが、企業からは以下のような声が多く聞かれます。
・障害を理由に仕事を断る
・成果を出す意識が低い
・仕事に対して甘えがある
まとめて言ってしまえば、仕事に対してのコミットメントが弱いということになります。
勿論、すべての障害のある人がこうではありません。しかし、障害があることで、両親がこどもに対して、「障害があるからできる限りやってあげよう」というご家庭で育った障害のある人や福祉に守られて育ってきた人には、こういう人が多い傾向にあるようです。
企業で働くとは、相手に価値を届けることです。その価値を届けるために、仕事があり、目標があります。そして、残念ながら企業はピラミッドです。上司の命令は絶対なのです。障害を理由にしたり、一生懸命仕事をしないのは、甘えていると言われても仕方がありません。
もちろん「認めてくれない」「気遣ってくれない」など、色々言い分はあるとは思いますが、その言い分は健常者の世界では通用しません。健常者が働く際に、「認めてくれない」「気遣ってくれない」って言われたら、「甘えんな」の一言で終わりです。「認めてもらえない」という前に、「自分は何ができるのか?」にフォーカスして働くことが大事なこととなります。そこから、周囲を巻き込むことが自己実現への第一歩となるのです。
もちろん障害への配慮は働く上での前提条件です。ですから、配慮があり、働ける土壌があるなら、まずは「自分に何ができるのか?」にフォーカスし、全力でそれを果たして行くことが雇用されたものの姿勢です。残念ながら「認めてくれない」という言い分は、まだ障害者自身が価値を出していない証拠といえます。
この「認めてくれない」という理由で、障害者は退職する人が多いようです。最終的には自己責任ですから、退職するかどうかは、本人が決めれば良いことです。そして、若くて障害が軽ければ、次の就職先も見つかるでしょう。しかし、それは、「あなたを採用したい」のではなく、「あなたの障害者手帳がほしい」場合がほとんどだということを認識すべきでしょう。
「差別がない」というのは、健常者と同じ土壌で勝負するということです。
障害者にとって大切な姿勢は、「差別がない」社会で、給料以上の価値を発揮する準備ができているか、また自分のキャリアで勝負する覚悟があるかということです。

《企業の側の問題点》

以上、障害のある人の問題について書きましたが、もちろん企業にも問題があります。
通常の採用であれば、経営戦略や売上アップ、仕事量の分配等のために人を雇用します。しかし、障害者雇用は、法律遵守のために障害者手帳の所持者を雇用します。そのため、入社後の配属部署では、「何のためにこの人は自分の部署に来たのか」と部署の人たちは思うはずです。その理由は「法律だから採用しなければならないんだ」と説明を受けるとします。それは事実であり間違いではありませんが、ただでさえ「障害」はあまり身近ではないため、部署の人たちは戸惑うはずです。にも関わらず、それだけの説明で、しっかりと育成、評価され、本当にそこで働く障害のある人がモチベーション高く働けるでしょうか。
それは、部署の人たちの善意に寄り掛かった甘えともいえます。
配属された部署の人たちが「障害」に理解があり、障害があったとしてもみんなと同じように接しよう、同じ仲間だと思ってくれることによって障害者の働く満足度が大きく変わってきます。
ですから、そのような「障害」に理解が得られない環境では、「育成」「職場風土」「人間関係」を求めても、満足度が低い結果になっているのです。それでは辞めてしまうのも当然の結果といえます。
以上のように、障害者雇用においては、障害のある人、企業側双方に問題があるのです。そのために障害者は退職してしまうのです。障害のある人も企業の双方の努力がなければ、障害者の退職問題は解決されません。

  理解されにくい障害者雇用

離職の理由にあがっている職場の雰囲気や人間関係は、障害者雇用においてネックとなる重要な問題です。「なぜ、障害者雇用を行わなければならないのか」を社内で説明することは、さして難しいことではありません。しかし、障害者雇用を社内で進めていくことを説明するときに、残念ながらネガティブな想いから表現される言葉の端々にマイナス・イメージが強調されることが多く、社員に積極的に関わりたいと思わせる働きかけが届きにくくなっていることが多く見受けられます。
例えば、障害者雇用を進めることを検討する企業では、障害者雇用を進める理由としてあげられるものは、次の点です。
・法律で障害者雇用が定められているから
・障害者雇用納付金を払いたくないから
・行政から指導を受けたくないから
勿論、これらの理由を社員に直接伝えないにしても、誰でも自分の仕事で忙しいのに、自分にとってメリットが感じられないものには、ネガティブな雰囲気が言葉の端々に出てしまうものです。
ですので、どのような働きかけをしたら社員に関心を持ってもらえるかを考えることが何より大切です。そのためには、経営者や職場の責任者自らが、あるべき社会の形や、障害者雇用による自社の地域での関わりなどを充分討議し、ネガティブな想いを払拭する必要があります。

  障害者の得意分野がみつからない

障害者の特性や障害者雇用の背景を理解していないと、どのようなことを仕事内容とすればよいのかがわかりにくいことがあります。以上のことから、障害者の現状をまず理解することから始めます。

《身体障害者》

障害者雇用は、障害別に雇用が進められてきた経緯があります。身体障害は、障害者雇用の中でも、早くから進められてきました。そのため、働ける身体障害者はすでに雇用されているケースが多くなっています。はじめて障害者雇用を進める企業の方の中には、設備などの配慮をすれば対応でき、今働いている社員の方と同じような仕事ができる人材を探したいと言われますが、現実的には即戦力になるような方を見つけることは非常に難しくなっています。学校や職業訓練所を卒業したばかりの就労経験のない身体障害者なら可能性はありますが、手がかかることは否めません。また、医療の進歩により、身体障害者になる割合が減っている一方で、障害が複数あり重度化している傾向も見られています。

《知的障害者》

知的障害の雇用も、近年かなり進んできました。知的の方は、定型的であまり納期の厳しくない業務が適していると言われてきました。そのため清掃や印刷、バックオフィス業務などを中心に仕事を作り出すことが多く見られました。しかし、このような業務を集めて(特化して)仕事にするのは、ある程度の規模の企業でないと難しく、たとえこのような仕事を抜き出すことができたとしても、一通りおこなってしまうと、それ以上仕事を拡大することは困難だといえます。つまり、業務の拡大やキャリアアップが見込めないため、頭打ちになり、パートやアルバイトと変わらなくなってしまうという弊害もあります。

《精神障害者》

精神障害の場合、障害が目には見えないため、周囲の人がその症状や、特性を理解しづらいことがあります。そのためどのように接したらよいのかと不安を感じていることが少なくありません。つまり、同じ職場で共に働く同僚たちの精神的負担がかなり大きくなると言えます。また、精神障害は、同じ障害や病気名、障害者手帳の種別が同じだったとしても、個々人の障害の程度やどのような接し方や配慮をしてほしいかというのは異なることが少なくありません。当然、体調の波や、服薬の影響もあります。そのため過去の成功事例をそのまま適応したとしても、それが上手くいくとは限らないということです。

  障害者雇用が困難な理由

障害者雇用と一口に言われますが、障害者雇用に取り組む企業の状況はそれぞれ異なります。どのような難しさがあるのかいくつかの視点から考えてみたいと思います。

《産業の特徴》

厚生労働省が発表している「令和3年障害者雇用状況の集計結果」を見ると、障害者雇用の進んでいない業種には、次のようなものが示されています。

「障害者雇用が進んでいない業種」

「鉱業、採石業、砂利採取業」
「建設業」
「電気・ガス・熱供給・水道業」
「情報通信業」
「運輸業、郵便業」
「金融業、保険業」
「不動産業、物品賃貸業」
「学術研究、専門・技術サービス業」
「宿泊業、飲食サービス業」
「生活関連サービス業」
「教育、学習支援業」

これらの業種の仕事内容を見ると、専門性の高いスキルや経験が求められ、一人で仕事を完結することが求められることが見られます。

《企業規模の問題》

企業の規模が小さいと、ある特定の仕事だけをすればよいのではなく、いくつかの業務を兼務することが求められ、また専門的なことが求められることが少なくありません。そのため、結果的に障害者雇用のハードルが上がることが多く見られています。
企業規模別の結果を見ても、やはり企業規模の小さい企業の障害者雇用が苦戦している様子が見受けられます。「令和3年障害者雇用状況の集計結果」を見ると、従業員数と障害者雇用の実雇用率は、次のように示されています。

従業員45.5~100人未満 1.81%(前年は1.74%、前々年は1.71%)
従業員100~300人未満  2.02%(前年は1.99%、前々年1.97%)
従業員300~500人未満  2.08%(前年は2.02%、前々年1.98%)
従業員500~1,000人未満  2.20%(前年は2.15%、前々年2.11%)
従業員1,000人以上      2.42%(前年は2.36%、前々年2.31%)

民間企業全体の実雇用率は2.20%(前年は2.15%)となっており、雇用率を達成しているのは、1000人以上規模企業だけとなっています。

《現場の教育不足》

障害者雇用を進める上では、現場の理解が必要となってきます。そこで、事前に社内研修や実習などをおこない、障害者が働ける人であることを認識してもらうことが必要となります。しかしながら、実態はその点が徹底できずにいるため、障害者雇用に対する理解がいきわたらないでいます。
障害の特徴や配慮、本人の特性などを伝えることで、心配や不安を軽減できることは多いはずです。障害者を配属する部署や社員には、当事者本人の特性などの情報提供も共に働く職場の社員にとって効果的です。

《環境整備が十分でない》

障害者を受け入れて働く環境が十分に整っていない場合もあります。障害者の雇用は、一定の経済的な負担がかかることを見越して、職場環境や管理体制を整えるために活用できる助成金を設けています。環境を整えることが難しいために進められないと感じるのであれば、これらの助成金の活用を検討してみることもできるでしょう。

  障害者雇用を円滑にするためには

《障害者に対する偏見を減らす》

障害者はかわいそうな人、助けてもらう必要がある人と考えている人がいますが、これは、そのように考えている人の偏見です。
障害者雇用で働きたい人は、そのような偏見やまた同情されることを望んでいるわけではありません。働く障害者のほとんどは、自分が働き、その働きに対する評価をもらい、対価を受け取りたいと考えています。
自分の働きや仕事が、組織や組織に所属する他の誰か、またサービスを提供しているお客様など、誰かの役に立つことで、仕事への満足感や達成感につながることは、障害の有無に関係なく誰にとっても同じことです。

《採用の体制を強化する》

障害者雇用を円滑にするためには、業務内容や社内の雰囲気にあった人を採用することも大切です。それが合っていなければ、職場定着につながることはありませんし、労力をかけて採用したとしても、すぐに退職につながってしまい、短期離職を繰り返すことになります。
マッチングを適切なものにするためには、社内に合った適切な業務を切り出し、それに合った人材を採用することです。今は、障害者雇用の支援をしてくれるサポート機関はたくさんありますので、それらを上手に活用しながら採用を進めていくことができます。

《障害者の現実を理解した枠組み作りを行う》

障害のある人の中には、特性として何らかの苦手さがあったり、また社会人経験が少ないために、仕事の仕方や効率的に行動することが難しくなったりすることがあります。そのため、仕事を考えるときに、そのような背景の人でも仕事ができるような仕組みづくりを行なうことが大切です。仕事ができないと感じるのであれば、教え方や業務のフロー、マニュアルなどを見直してみましょう。教え方やマニュアルを、彼らの適性に合わせる形にすることによって、仕事ができるようになることは少なくありません。

  まとめ

障害者雇用の現状の問題点を見るとともに、障害者雇用を円滑にするための方法を見てきました。
障害者雇用を進めていくときには、障害者本人の働く仕事内容や環境を整えることも大切ですが、合わせて一緒に働く社員の理解や仕事ができる体制づくりがとても大切になってきます。社内ではどのような課題があり、それに対し、どのような対応が適切であるかなどを考えてみてください。障害者に対するイメージからくる偏見は、決して社内での雰囲気を良いものにしません。部署の責任者は、障害のある社員のヒヤリングを怠らず、職場内に良き環境を物心両面(環境設備と精神的配慮)において実現することを目指すようにしてください。





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