難病①自己免疫疾患

A.自己免疫疾患とは……

細菌やウイルスなどの外来物が体内に入ってきたときに、病気にならないようにこれらの外敵を攻撃し、体を防御するシステムを「免疫」と呼びます。 
     免疫系の仕組みは、本来、外部からの有害な異物の侵入に対して、生体を守るために自動的に働く防御機構です。
    しかし、時には、この免疫系の自分を守るはずの働きが、結果的に自分自身を攻撃してしまうことがあります。
    これをアレルギー反応と呼びます。代表的なものでは、小麦粉や卵等を食べた時に発症する蕁麻疹やアレルギー性鼻炎、花粉症などもアレルギー反応の一つです。
     アレルギーは、外から入ってきたものを敵と見なして攻撃して排除しようとするときに起きるのに対して、自己免疫疾患とは、細菌やウイルス、腫瘍などの自己と異なる異物を排除するための役割を持つ免疫系が、本来の働きをせずに自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで異常を来す疾患の総称です。
     自己免疫疾患には大きく分けて2種類あり、全身に影響が及ぶものを全身性自己免疫疾患といい、特定の臓器だけが影響を受けるものを臓器特異的自己免疫性疾患といいます。
     全身性自己免疫疾患には、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(全身のさまざまな臓器に炎症や障害を起こす自己免疫疾患)、多発性筋炎(筋肉の炎症により、筋肉に力が入りにくくなったり、疲れやすくなったり、痛んだりする病気)、多発性血管炎(腎臓、肺、皮膚、神経などの臓器に分布する小型血管の血管壁に炎症をおこし、出血したり血栓を形成したりするために、臓器・組織に血流障害や壊(え)死(し)がおこり臓器の働きが損なわれる病気)等があります。
     臓器特異的自己免疫性疾患には、自己免疫性溶血性貧血(赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応 の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮〔溶血〕し、貧血をきたす病態)、潰(かい)瘍(よう)性大腸炎(大腸の粘膜〔最も内側の層〕にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患)、甲状腺ではバセドウ病(甲状腺ホルモンを過剰に産生する病気=甲状腺機能亢進症の代表的な病気)や橋本病(免疫の異常によって甲状腺に慢性的に炎症が生じていることから、慢性甲状腺炎とも呼ばれる)、膵臓では若年性1型糖尿病(膵臓のインスリンを出す細胞=β細胞が、壊されてしまう病気)、肝臓では自己免疫性肝炎(慢性に経過する肝炎で、肝細胞が障害される)や原発性胆汁性胆管炎(肝臓の中のとても細い胆管が壊れる病気。旧称:原発性胆汁性肝硬変)などがあります。

B. 膠原病と自己免疫疾患

膠原病(こうげんびょう)と自己免疫疾患の二つの言葉は、厳密には異なりますが、ほぼ同じ意味に解釈しても問題はあまりないようです。
     膠原病は、全身の結合組織、血管、臓器に炎症が起こり機能障害をもたらす病気の総称で、結合組織の膠原(コラーゲン)繊維の障害から膠原病と名付けられました。
     自分の細胞の核に対する抗体が出来て障害を及ぼす自己免疫病、関節や筋肉に炎症を起こすリウマチ、結合組織が炎症を起こす結合組織病が複合したものです。
     最も有名なものは悪性関節リウマチで、その他にも以下で紹介する全身性エリテマトーデスや全身性強皮症、ベーチェット病など30種類程度存在します。
     膠原病には厳密な医学的基準がないため、これ以外にもいろいろな病気が膠原病に分類されたりする場合があります。

また病気の原因が解明されてくると、新たに膠原病に含まれたり、グループから外されたりするのが現状です。

C.主な自己免疫疾患

1 全身性エリテマトーデス(SLE)

     全身性エリテマトーデスは、自己免疫疾患の中で最も患者数が多く、日本全国での患者総数は現在6万人から10万人以上といわれています。
     その原因は今のところわかっていませんが、きっかけになるもの(誘因)として、紫外線(海水浴、日光浴、スキーなど)、風邪などのウイルス感染、怪我、外科手術、妊娠出産、ある種の薬剤などが知られています。
     症状には個人差があり、病型や重症度によって異なります。発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振などの全身症状、全身の関節に炎症が起こる関節症状、皮膚症状(もっとも有名なのは、頬に出来る赤い発疹で、蝶が羽を広げている形をしているので、蝶型紅斑=バタフライラッシュと呼ばれる)、強い紫外線にあたった後に、皮膚に赤い発疹、水膨れ、あるいは熱が出る日光過敏症、症状が現れる部位によっては生命にかかわる重要な障害になることもある臓器障害、口内炎、脱毛などです。
     関節炎や皮膚症状だけの人は、薬剤によるコントロールも難しくなく、健康な方とほとんど変わらない普通の生活が出来ることが期待されます。
     一方、腎臓障害、中枢神経病変、心臓病変、肺病変、血管炎などの臓器障害がある場合には、多種類の薬剤を大量に長期にわたって使わなければならないことがあります。
     治療は主に自分自身に対する免疫を抑えるため、経口摂取や点滴によってステロイド剤などの免疫抑制効果のあるくすりを使います。
     このステロイド剤が使われていなかった1950年代に比べ、病気のコントロールは飛躍的に進歩した半面、もともと持っていた細菌やウイルスに対する免疫も抑えられてしまうことで、感染症にかかりやすくなります。
     健常人ではあまりかからない弱い病原体によっても病気が引き起こされてしまいます。日和見感染といわれる感染症の対策も必要になってきます。

2 全身性強皮症

 全身性強皮症(Systemicsclerosis:SSc)は、皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化)を特徴とし、慢性に経過する疾患です。この病気は、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と、比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」に分けられています。
 前者は発症より5~6年以内は進行することが多いですが、後者は進行はほとんどないか、あるいは緩かであるのが特徴です。
     なお紛らわしい病名に、「限局性強皮症」があります。「限局性強皮症」は皮膚のみに硬化が起こる別の病気であり、前述の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」とは全く異なるものであることに注意する必要があります。
     この「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と「限局皮膚硬化型全身性強皮症」を区別する最も大切な目印は、自己抗体の種類です。
     自己抗体とは自分の細胞に向けられた抗体です。全身性強皮症では抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗U1RNP抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体などが検出されます。
     抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼ抗体は、「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」の目印であり、一方、抗セントロメア抗体は「限局皮膚硬化型全身性強皮症」の目印となります。
     「びまん型全身性強皮症」では発症5~6年以内に皮膚硬化の進行および内臓病変が出現してきます。
     不思議なことですが、発症5~6年を過ぎると、皮膚は徐々に柔らかくなってきます。
     つまり、皮膚硬化は自然に良くなるのです。しかし、内臓病変は元にはもどりません。
     ですから、発症5~6年以内で、できるだけ早期に治療を開始して、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要です。
     一方、「限局皮膚硬化型全身性強皮症」ではその皮膚硬化の進行はないか、あってもごくゆっくりです。
     また、例外を除いて重篤な内臓病変を合併することはありませんので、生命に関して心配する必要はありません。
 この病気の病因は複雑であり、その病態は十分には解明されていません。
 しかし、これまでの研究により①免疫異常、②線維化(硬化)、③血管障害、これら3つの異常と深い関連性を有することが明らかとなっています。
 全身性強皮症では皮膚や内臓に膠原線維(コラーゲン)などの細胞外基質と呼ばれる物質が増加し、その結果、皮膚や内臓が硬くなります。
 この現象を「線維化」あるいは「硬化」といいます。膠原線維などの細胞外基質は、細胞の外にあって、細胞同士をくっつけたり、細胞の間のすきまをうめる、いわばセメントのような物質であり、全身性強皮症では活性化した線維芽細胞が、必要以上に大量の膠原線維を作ってしまう結果、線維化がおこると考えられています。  前述の病因によってさまざまな症状を合併します。
 皮膚に現れる症状としては、以下に説明するレイノー症状、皮膚硬化と、その他の皮膚症状があります。
     この病気で最初に現れる症状は皮膚のレイノー症状です。レイノー症状とは、冷たいものに触れると手指が蒼白~紫色になる症状で、冬に多くみられます。一般的に保温が最も効果的な治療法です。
     次に、皮膚硬化とは皮膚に線維化が生じたものです。最初は指のこわばり、むくんだ感じからはじまります。
     皮膚の硬化は指先から生じ、手背、前腕、上腕、躯幹と順番に体の中心部へ進行することもあります。
     従って、例えば躯幹や上腕に皮膚硬化があるのに、指には皮膚硬化がないということは全身性強皮症では起こりません。
     また、皮膚の硬化は通常発症56年以内には進行することもありますが、それ以降は「萎縮期」といって、今度は徐々に皮膚硬化が改善します。
     ですから、最初の数年以内にできるだけ皮膚硬化を進行させないようにしっかり治療する必要があります。進行している皮膚硬化に対しては、ステロイドの少量内服が有効です。
     その他の皮膚症状として、爪上皮(爪のあま皮)の黒い出血点、指先の少しへこんだ傷痕、指先や関節背面の潰(かい)瘍(よう)、毛細血管拡張、皮膚の石灰沈着、皮膚の色が黒くなったり、逆に黒くなった皮膚の一部が白くなったりする色素異常などがみられます。
     一方、肺では間質性肺炎、肺線維症、肺高血圧症が主な合併症です。
     間質性肺炎は肺の間質を中心に炎症や線維化がおこる肺疾患の総称です。
     そのうち最も頻度が高いものを特発性肺線維症と呼び、この病気において最も重要な臓器合併症です。
     疾患の種類は多彩で呼吸器疾患の中でも診断が難しいとされている難病です。
     ひどくなると空咳や息苦しさが生じ、酸素吸入を必要とすることもあります。「びまん型全身性強皮症」で比較的多く見られる合併症です。肺線維症があると細菌が感染しやすくなり、肺炎を起こしやすいので注意が必要です。
     肺にはこれ以外に、肺の血管の血圧が高くなる肺高血圧症がみられることがあります。
     人間の体には2つの血圧があります。通常の血圧と肺の血圧です。通常の血圧は、120/80以下が至適(してき)血圧ですが、肺の血圧はそれよりずっと低くて25以下が正常です。
     肺高血圧症とは、肺の動脈が硬くなり、内腔が狭くなって、肺の動脈の血圧が上昇する病気です。
     心臓についてですが、肺線維症や肺高血圧症がひどくなると心臓の働きが弱くなることがあります(心不全)。
     また、心臓の筋肉が硬くなって、心臓の筋肉がきちんと動くための信号を送る伝導系に異常が生じて不整脈がおこることもあります。
     また、腎臓の血管が硬くなった結果、突然高血圧になり、頭痛、めまいなどがおこることがあります
     これは強皮症腎クリーゼと呼ばれています。以前は重篤な合併症でしたが、ACE阻害薬という高血圧の薬によって、十分に治療しうるものとなりました。
     しかし治療が遅れると腎臓の機能が悪化して、透析が必要となりますので、早く発見することが極めて重要です。全身性強皮症の患者さんは肝臓内では胆汁が流れる管が硬くなって、原発性胆汁性肝硬変と呼ばれる変化がおこることがあり、これは比較的症状の軽い全身性強皮症患者さんに時にみられます。
     逆流性食道炎は食道が硬くなって、動きが悪くなった結果、胃酸が食道に逆流して生じるもので、胸やけ、胸のつかえる感じ、横になった時の逆流感が主な症状です。
     逆流性食道炎は全身性強皮症の代表的な内臓病変の一つであり、典型的な全身性強皮症患者さんだけでなく、皮膚硬化が比較的軽い人にも多くみられる内臓病変です。
     また、腸が硬くなって動きが悪くなると、便秘や下痢を繰り返したりします。
     その他の症状として、手指の屈曲拘縮、関節痛、便秘、下痢などが起こることがあります。
     現在のところ、全身性強皮症を完全に治す薬はありません。しかし最近の医学の進歩により、ある程度の効果を期待できる治療法が開発されてきました。特に発症から5~6年以内の「びまん型全身性強皮症」では治療の効果が最も期待できます。
     代表的な治療法として、皮膚硬化に対してはステロイド少量内服、間質性肺疾患に対してはシクロホスファミドやマルチキナーゼ阻害薬、逆流性食道炎に対してはプロトンポンプ阻害剤、血管病変に対してはプロスタサイクリン、強皮症腎クリーゼに対してはACE阻害剤、肺高血圧症、手指潰瘍の予防に対してはエンドセリン受容体拮抗剤などが挙げられます。

3 多発性筋炎(きんえん)・皮膚筋炎

     多発性筋炎は、筋肉の炎症により筋肉に力が入りにくくなったり、疲れやすくなったり、痛んだりする自己免疫疾患です。
     また、手指の関節背側の表面ががさがさとして盛り上がった紅斑(ゴットロン丘疹)、肘関節や膝関節外側のがさがさした紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な皮膚症状がある場合は、皮膚筋炎と呼ばれます。
     これらの疾患は、自己免疫疾患のなかで、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスに次ぐ患者さんの数と考えられています。
     2022年度末現在で約2万5千人程度と推定され、毎年1000から2000人の方が新規に発症しているといわれています。
     男女比は1:3で、女性の患者さんに多いことが認められています。

     また発症時期を年齢別にみると、50歳台に大きなピークがあり、中年の方の発症が多い傾向にあります。
     筋症状がほとんどの患者さんにみられ、腕を上げづらい、階段を昇るのが大変、座った姿勢から立ち上がりにくい、枕から頭を持ち上げにくいなど、腕足首などの胴体に近い筋の力が低下しやすい傾向にあります。
     また、食べ物を飲み込みにくい、食べると、むせやすいなどの嚥下障害や会話がしにくいなど、のどにも症状があらわれます。
     皮膚筋炎は特に、顔や指に紅い皮疹が目立つのが特徴です。
     皮疹はかゆみを伴うことが多く、はじめはかゆみだけの方もいます。また筋症状は強くないにもかかわらず皮膚症状が強い皮膚筋炎の患者さんでは、間質性肺炎が急に進行する場合があります。
     のどの痛みや痰などがないにもかかわらず頑固にせきが出たり、運動時に息切れしやすいことが特徴です。  できるだけ早く治療することが大切です。
     その他の症状として、悪性腫瘍(癌)は特に皮膚筋炎で合併しやすいことが知られています。主治医と相談しながら、一般的な癌検診をきちんと受けるようにしてください。
     その他にも、関節の痛み、腫れや、寒くなると一時的に手指や足(そく)趾(し)が白く冷たくなるレイノー症状、不整脈心不全症状なども起こります。
     また、筋症状がほとんどなく、皮膚症状のみの場合もあります(無筋症性皮膚筋炎)。全身の症状として、倦怠感、疲労感、食欲不振のほか、発熱を伴うこともあります。
     治療は薬物療法が中心で、主に副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)が使用されます。
     ステロイドは、副腎皮質から分泌されるホルモンで、薬剤はこれに似た効果のあるものを化学合成したものです。本来の役割は、身体のストレスに対する抵抗力を与えるホルモンです。
     第二次世界大戦中にドイツで兵士が過酷な状況(ストレス)に耐えられるようになる薬として開発されていたそうです。炎症もストレス反応のひとつなのでステロイドを服用すると炎症が抑えられます。
     しかしこれをたくさん、しかも長期間服用していると、免疫力低下(易感染性)、糖尿病、胃潰瘍、精神変調、筋萎縮(ステロイド筋症)、白内障や緑内障、血栓症、骨粗鬆症(こつそそうしょう)、食欲亢進など、身体に様々な悪影響を及ぼすことがわかりました。
     とはいえ、免疫力を低下させる作用は、免疫力が過剰なために自己免疫が起きてしまっている多発性筋炎、皮膚筋炎の治療には好都合です。高用量ステロイド療法は、炎症を収め、しかも原因となる免疫力も抑える作用もあり、一石二鳥の治療法といえます。

4 悪性関節リウマチ

     リウマチ性疾患の代表で最も重要な病気が、関節リウマチです。関節リウマチは、手指の関節の腫れやこわばりで発症し、やがて20%位の方が関節と骨の強い変形を生じるようになります。
     患者数は、全身性エリテマトーデスが約5.6万人、全身性強皮症が約2万人であるのと比較して、慢性関節リウマチは60万人と桁違いにとても多い病気です。
     一方、悪性関節リウマチは、関節リウマチの重症なものではなく、難治性の内臓病変や全身の血管炎などの関節外症状を伴い、リウマトイド因子高値、血清補体価低値、免疫複合体高値など、免疫の異常が強くみられる病型です。  関節病変が重度であっても血管炎や内臓障害がない場合は悪性関節リウマチとは言いません。患者数は約5,000人で関節リウマチの患者さんの0.6%位です。男女比は1:2で年齢は60歳代に多くみられます。
     悪性関節リウマチ(リウマトイド血管炎)の転帰(病気が経過して他の状態になること)は、軽快21%、不変26%、悪化31%、死亡14%、不明その他8%と疫学調査で報告されています。
     死亡の原因は呼吸不全が最も多く、次いで感染症の合併、心不全、腎不全などがあげられます。関節リウマチ治療の進歩によって、悪性関節リウマチの発生は減少してきていると考えられています。
     合併する血管炎は、結節性多発動脈炎(polyarteritisnodosa,PAN)によく似た内臓を系統的に侵し生命予後不良な全身性血管炎型(Bevans型)と、四肢末梢及び皮膚を侵し生命予後は比較的良好な内膜の線維性増殖を呈する末梢動脈炎型(Bywaters型)に分けられます。
     また、その他に間質性肺炎が主体の非血管炎型があります。
     症状は、関節リウマチによる多関節炎に加えて、全身性血管炎型では38℃以上の発熱、体重減少、全身痛などの全身症状に加えて、心膜炎、腸間膜動脈梗塞(こうそく)、腎動脈梗塞、多発神経炎、皮膚潰瘍(かいよう)、紫斑、上強膜炎など、罹患(りかん)(病気にかかること)した血管の種類により多彩な血管炎症状が出現します。
     特に多発性単神経炎を合併する場合では、手指や足趾(そくし)の痺れや疼痛など知覚障害と運動障害がみられ、橈骨(とうこつ)神経障害では下垂手(かすいて)(drophand)、腓骨神経障害では下垂足(かすいそく)(dropfoot)となり関節リウマチに由来する腱断裂(けんだんれつ)との鑑別が必要になります。
     末梢動脈炎型では皮膚潰瘍、梗塞、四肢先端の壊疽(えそ)、壊死がみられ、進行は通常、緩徐です。
     非血管炎型では肺の間質性病変繊維化が慢性に進行することがほとんどです。
     関節リウマチには標準的治療法があり、それに沿って早期から治療を開始します。
     最近では抗TNF-α阻害薬を初め多くの生物学的製剤の登場により、関節リウマチの治療は劇的に進歩しています。
     悪性関節リウマチではステロイド剤、免疫抑制剤、抗凝固剤、血漿(けっしょう)交換(こうかん)療法も行われます。
     最近は治療の進歩によって、悪性関節リウマチは減ってきています。
     関節リウマチと同様に、日常生活では適度な運動と休息が必要です。
     関節の変形が進まないように、関節を保護する使い方を身につける必要もあります。
     悪性関節リウマチの治療中は、感染症に対する注意が最も重要です。帰宅時には、手洗いうがいを欠かさずに実行し、新型コロナワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種も可能な限り受けることが大切です。 規則正しい生活と食事を維持し、ステロイドを使用している方は、血糖、脂質の数値にも注意すると共に、定期的に緑内障白内障を含む目のチェックを受けるようにしてください。骨密度も年に1度は測定するようにしてください。

5 シェーグレン症候群

 シェーグレン症候群は1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンの発表した論文にちなんでその名前がつけられた疾患です。
 患者数は、2021年度末現在で約18,000人で、全身性強皮症などに次いで多い数です。
 しかし、潜在的な患者さんを含めると、この数よりも多いことが推測され、アメリカのデータを当てはめると10~30万人と推定されることもあります。
 本疾患は主として中年女性に好発する涙腺と唾液腺を標的とする臓器特異的自己免疫疾患です。
 全身性の臓器病変を伴う全身性の自己免疫疾患でもあります。
 シェーグレン症候群は関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、混合性結合組織病に合併する二次性シェーグレン症候群と、これらの合併のない原発性シェーグレン症候群に分類されます。
 原発性シェーグレン症候群の病変は3つに分けることができます。
     主な症状には以下のようなものがあります。
     目の乾燥(ドライアイ):涙が出ない、目がごろごろする、目がかゆい、目が痛い、目が疲れる、物がよくみえない、まぶしい、目やにがたまる、悲しい時でも涙が出ないなど。
     口の乾燥(ドライマウス):口が渇く、唾液が出ない、摂食時によく水を飲む、口が渇いて日常会話が続けられない、味がよくわからない、口内が痛む、外出時水筒を持ち歩く、夜間に飲水のために起きる、虫歯が多くなったなど。  鼻腔の乾燥:鼻が渇く、鼻の中にかさぶたが出来る、鼻出血があるなど。
     その他:唾液腺の腫れと痛み、息切れ、熱が出る、関節痛、毛が抜ける、肌荒れ、夜間の頻尿、紫斑、皮疹、レイノー現象、アレルギー、日光過敏、膣乾燥(性交不快感)など。
     1つ目は目の乾燥(ドライアイ)、口腔乾燥の症状のみがある患者さんで、ほとんど健康に暮らしている患者さんもいますが、ひどい乾燥症状に悩まされている人もいます(約45%)。
     2つ目は全身性の何らかの臓器病変を伴うグループで、諸臓器へのリンパ球浸潤、増殖による病変や自己抗体、高γ(ガンマ)グロブリン血症などによる病変を伴う患者です(約50%)。
     3つ目は悪性リンパ腫や原発性マクログロブリン血症を発症した状態です(約5%)。
     経過を見ますと、約半数の患者さんは10年以上経っても何の変化もありませんが、半数の患者さんは10年以上経つと何らかの検査値異常や新しい病変がみられます。
     全身症状として、疲労感、記憶力低下、頭痛は特に多い症状で、めまい、集中力の低下、気分が移りやすい、うつ傾向などもよくあります。
     現状では根本的にシェーグレン症候群を治癒させることは出来ません。
     したがって治療は乾燥症状を軽快させることと疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことにあります。
     目の乾燥、口の乾燥はひどくなると著しく生活の質(QOL)を障害しますので、毎日の点眼、口腔清潔を心がける必要があります。
     エアコン、飛行機の中、風の強い所、タバコの煙などに注意が要ります。
     皮膚に対して、石鹸の使用、頻繁に風呂に入ることなど、特に熱い湯は良くありません。
     膣の乾燥の原因については、アンケートでは20%の患者さんに性交不快感があり、エストロジェンの内服やエストロジェン入りのクリームなどを使用することが必要となりますので、婦人科を受診するのが良いでしょう。
     規則正しい生活、休養、バランスのとれた食事、適度の運動、ストレスを取り除く等の注意が必要です。
     涙や唾液の分泌を促進する方法として、ステロイド薬による抗炎症作用や炎症細胞の浸潤抑制による効果は証明されていません。
     眼乾燥(ドライアイ)に対する治療法としては、涙の分泌を促進する、涙の補充、涙の蒸発を防ぐ、涙の排出を低下させる方法がとられます。
     涙の分泌を促進する方法として、近年日本では水分や保湿成分の分泌を増やす作用を持つ点眼薬(ジクアホソルナトリウム、レバミピド点眼薬)が適用となり、高い効果をあげています。
     涙の補充には人工涙液や種々の点眼薬があります。これらを1日3回以上使用します。
     点眼薬には防腐剤が入っていますので、何回も点眼するときは防腐剤による角膜障害が問題になります。
     この場合は普通の点眼の後に防腐剤の入らない点眼薬(生理的食塩水など)で洗い流すか、防腐剤のはいらない使い捨ての点眼薬を使う方が良いでしょう。
     傷害された角膜上皮の再生促進や角膜炎の治療の目的で、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ビタミンA、フィブロネクチンなどを含んだ点眼薬が使用されます。
     別の治療として、自己血清を採取してこれを薄めて使用する方法が推奨されています。
     血清の中には上皮成長因子、ビタミンなどの様々な物質が入っているからです。
     涙の蒸発を防ぐためには、眼鏡の枠にビニール製のカバーをつけたモイスチャー・エイド(ドライアイ眼鏡)があります。
     涙の排出を低下させるためには、鼻側の上下にある涙の排出口である涙点を閉じる方法があります。
     それには涙点プラグで詰める方法や、手術によって涙点を閉鎖する方法があります。これらはいずれも患者さんに大変評判のよいものです。
     また、シェーグレン症候群の患者さんは虫歯になりやすいので、口内を清潔に保つことが非常に大切です。
     まず、口腔乾燥作用を持つ薬剤を服用しているときはこれを中止し、加えて、唾液の分泌促進、唾液の補充、虫歯の予防や口内の真菌感染予防、口腔内の環境改善にも努めます。
     唾液分泌を刺激するものとして、シュガーレスガム、レモン、梅干などがあります。他にブロムヘキシン(ビソルボン)、漢方薬(人参養栄湯、麦門冬湯)なども用いられますが、これらの薬剤は、患者さんによっては有効です。
     また、アネトールトリチオン(フェルビテン)がありますが、尿の着色、腹鳴などの副作用が出現することがあります。
     塩酸セビメリン(エボザック、サリグレン)は今までの薬剤に比べて有用性が高く、約60%の患者さんに有効で患者さんの評価もかなり良いものです。
     副作用として消化器症状や発汗などが約30%の患者さんにあります。
     また、マレイン酸トリメブチン(セレキノン)の併用は、吐き気などの副作用を予防することが報告されています。
     さらに、水に溶かしてうがい薬として使う方法も検討されています。
     2007年日本において塩酸ピロカルピン(サラジェン)が保険適用となりました。汗をかきやすいという副作用がありますが、塩酸セビメリンと同様に唾液分泌に有効な薬剤です。頭頚部の放射線治療に伴う口腔乾燥症状の改善に対しては、日本において2005年9月より保険が適用されています。
     唾液の補充はサリベートや2%メチルセルロースが人工唾液として使われます。サリベートは噴霧式で舌の上だけでなく、舌下、頬粘膜に噴霧した方が口内で長持ちします。また、冷蔵庫保存で不快な味が消えます。
     虫歯の予防や口内の真菌感染、口角炎を予防するものとして、イソジンガーグル、ハチアズレ、オラドール、ニトロフラゾン、抗真菌剤などが用いられます。歯の管理と治療としてブラッシング、歯垢の除去と管理、虫歯、歯周病対策などがあります。ペプチサルという口腔保湿剤もあります。
     口腔内環境を改善させるために、食事の改善として乾燥食品、香辛料、アルコール飲料を避けること、禁煙が必要です。
     口内の痛み、乾燥による咀しゃくと嚥下困難に対しては食物をやわらかくする、刺激のあるものを避ける、乾燥したものは液体に浸して食べる、温度を食べやすい温度にする、などがあります。
     歯の健康に対してはバラエティーに富んだ食物群をとる、糖分を避ける、甘い間食をとらない(ガムはキシリトールガムにする)などの注意が要ります。
     味覚の変化に対しては食物の水分、温度、食物の組み合わせを工夫するなどを考える必要があります。
     全身性の臓器病変のある人は内科などでステロイド薬や免疫抑制薬などを含めて適した治療を受けるべきです。
     経過については、10~20年経ても症状に変化のない患者さんが約半数です。残りの約半数の患者さんには何らかの検査値の異常や全身性の病変が発症する可能性があります。
     その中には白血球減少、高γグロブリン血症や皮膚の発疹、間質性肺炎、末梢神経症、肝病変、腎病変などがあります。
     まれにリンパ腫を発症する患者さんもいます。
     重要な臓器(肺、腎臓、筋肉、神経、血管など)の活動性病変(病気の勢いがある、あるいは進行を認める)を伴う場合には、中等量以上のステロイド、免疫抑制薬を使用します。関節痛・関節炎に対しては、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)を用い、効果不十分あるいは関節炎が高度の場合には少量のステロイドを考慮します。皮疹に対しては、ステロイド外用を用い、重度の場合にはステロイドの内服を考慮します。

6 ベーチェット病

ベーチェット病(Behçet’s disease)は口腔粘膜のアフタ性潰瘍(かいよう)、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。トルコのイスタンブール大学皮膚科Hulsi Behçet教授が初めて報告し、この名がつけられました。 世界的には日本をはじめ、韓国、中国、中近東、地中海沿岸地域といった北緯30度から45度付近のシルクロード沿いの地域で多くみられるため、シルクロード病とよばれることもあります。 日本では、人口10万人当たり13.5人がベーチェット病の患者であるという報告があります。 病気の発症に性差はありませんが、症状に関しては、男性の方が重症化しやすく、内臓病変、特に神経病変や血管病変の頻度は女性に比べ高頻度です。眼病変も男性に多く、特に若年発症の場合は、重症化し失明に至る例もみられます。 ベーチェット病の主な臨床症状は以下の4症状です。
     口唇、頬粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に円形の境界鮮明な潰瘍ができます。
     これはほぼ必発です(98%)。初発症状としてもっとも頻度の高い症状ですが、経過を通じて繰り返して起こることも特徴です。
     これは一般的に口内炎と言われますが、口内炎というと「誰にでもできる、あの口内炎」と思う人も多いかもしれません。
     しかし、ベーチェット病の口内炎は普通の口内炎とは違い、えぐれて穴が空いたようになったり大きなものもありますし、一度にたくさんできたりもします。痛み止めや塗り薬を使用してもとにかく痛みが強いため、口内炎ができている間は、食事はもちろんのこと飲みものを口にすることもつらく、食欲もなくなってしまいます。
     そのようなときは、刺激物を控え、お粥やゼリー状の食品など喉越しの良いもので栄養を摂ると良いでしょう。
     一方普段の食事に関しては、口内炎を気にしすぎて食べたい気持ちを我慢していると、かえってそれがストレスになってしまうこともあるので、自分の食べたいものを食べることも大切です。
     下腿(かたい)伸側(しんそく)や前腕に結節性紅斑様皮疹がみられます。病変部は紅くなり、皮下の硬結に触れると、痛みを伴います。
     座(ざ)瘡(そう)様(よう)皮(ひ)疹(しん)は「にきび」に似た皮疹が顔、頸、胸部などにできます。
     下腿(かたい)などの皮膚表面に近い血管に血栓性静脈炎がみられることもあります。
     皮膚は過敏になり、「かみそりまけ」を起こしやすかったり、注射や採血で針を刺したあと、発赤、腫(しゅ)脹(ちょう)、小(しょう)膿(のう)疱(ほう)をつくったりすることがあります。
     これを検査に応用したのが、針反応です。しかし、最近では、その陽性率が低下しており、施行する機会も減ってきました。
    副腎皮質ステロイド外用薬の局所療法とコルヒチンが基本的な治療です。
     さらに、口腔内アフタ性潰瘍にはアプレミラスト、結節性紅斑にはミノサイクリンやジアミノフェニルスルホン、毛包炎様皮疹には抗菌薬を使用するほか、難治例には副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬を用いることもあります。

     男性では陰(いん)嚢(のう)、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に有痛性の潰瘍がみられます。
     外見は口腔内アフタ性潰瘍に似ていますが、深掘れになることもあり、瘢痕(はんこん)を残すこともあります。

     ベーチェット病において重要な症状の一つです。発作性に生じる眼の炎症が特徴であり、通常は両眼が侵されます。
     前眼部病変として虹彩毛様体炎が起こり、眼痛、充血、羞(しゅう)明(めい)、霧視といった症状がみられます。後眼部病変として網膜絡膜炎を起こると視力低下を来たします。
     発作がおさまれば視機能はある程度改善しますが、繰り返す発作による障害が蓄積されるとついには失明に至ることがあります。
     治療は発作時の治療と発作の予防の2つに大別されます。虹彩毛様体など前眼部に病変がとどまる眼炎症発作の場合は、副腎皮質ステロイドの点眼や結膜下注射による治療を行い、また虹彩癒着防止のため散(さん)瞳(どう)薬(やく)を用います。

     視力予後に直接関わる網膜脈絡膜炎では、発作時には副腎皮質ステロイドの局所および全身投与で対処します。  発作予防には、コルヒチンやシクロスポリンを使用します。これらの治療でも発作が起きてしまう場合には、TNF阻害薬であるインフリキシマブ、アダリムマブを使用します。
     抗TNF製剤の高い有効性により、ベーチェット病眼病変の視力予後は格段に改善しました。
    主症状以外に以下の副症状があります。

    《関節炎》
     膝、足首、手首、肘、肩などの大関節が侵されます。典型的には腫脹がみられます。
     非対称性で、変形や強直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、関節リウマチとは異なります。
    急性炎症には消炎鎮痛薬、副腎皮質ステロイド内服を、発作予防にはコルヒチンを用い、無効の場合、アザチオプリン、メトトレキサート、さらにはTNF阻害薬を考慮することもあります。

    《血管病変》
     この病気で大きな血管に病変がみられたとき、血管型ベーチェット病といいます。
     圧倒的に男性が多い病型です。動脈、静脈ともに侵され、深部静脈血栓症がもっとも多く、上大静脈、下大静脈、大腿静脈などに好発します。動脈病変としては動脈瘤がよくみられます。
     日本ではあまり経験しませんが、肺動脈瘤は予後不良とされています。
    副腎皮質ステロイド薬とアザチオプリン、シクロホスファミド、メトトレキサートなどの免疫抑制療法を主体とし、難治性の場合にはTNF阻害薬を考慮します。
     深部静脈血栓症には抗凝固療法を使用しますが、肺血管からの出血には注意を要します。
     大動脈病変、末梢動脈瘤には手術を考慮しますが、そのさいも免疫抑制療法を併用します。

    《消化管病変》
     腸管潰瘍を起こしたとき腸管型ベーチェット病といい、腹痛、下痢、下血などが主症状です。
     部位は右下腹部にあたる回盲部が圧倒的に多く、その他、上行結腸、横行結腸にもみられます。
     潰瘍は深く下掘れし、消化管出血や腸管穿孔により緊急手術を必要とすることもあります。
    軽症から中等症にはサラゾスルファピリジンを含む5―アミノサリチル酸製剤、中等症から重症例には副腎皮質ステロイド、TNF阻害薬の使用や栄養療法を行います。
     副腎皮質ステロイド無効例、依存例やTNF阻害薬無効例などの難治例にはチオプリン製剤の併用を考慮し、腸管穿孔、高度狭窄、膿瘍形成、大量出血では外科手術を行います。

    《神経病変》
     神経症状が前面に出る病型を神経ベーチェット病といいます。
     難治性で、男性に多い病型です。ベーチェット病発症から神経症状発現まで平均6.5年といわれています。
     大きく髄膜炎、脳幹脳炎として急性に発症するタイプと片麻痺、小脳症状、錐体路症状など神経症状に認知症などの精神症状をきたし慢性的に進行するタイプに大別されますが、個々の患者さんの症状は多彩です。
     急性型の一部には眼病変の治療に使うシクロスポリンの副作用として発症する例もありますが、腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ)の登場後は減ってきています。
     一方、慢性進行型は特に予後不良で、治療効果が乏しく、現在でも課題が残る病型です。
     神経型と喫煙との関連が注目されています。
    脳幹脳炎、髄膜炎などの急性期の炎症にはステロイドパルス療法を含む大量の副腎皮質ステロイド薬が使用され、再発予防にコルヒチンを用います。
     一方、精神症状、人格変化などが主体とした慢性進行型にはメソトレキセート投与を行います。
     いずれも難治性の場合、再発を繰り返す場合はインフリキシマブを考慮します。
     眼病変に使われるシクロスポリンは禁忌とされ、神経症状の出現をみたら中止し、再度使用すべきではありません。

    《副睾丸炎》
     男性患者の約1割弱にみられます。睾丸部の圧痛と腫脹を伴います。
     日常生活では主に十分な睡眠をとることとストレスをためないように気をつけましょう。
     十分な睡眠は、症状悪化を予防し体力を回復させるために重要です。
     質の良い睡眠を取れるように寝具に気をつかい、体を冷やさないことを意識してください。
     またストレスが加わると症状が悪化しやすいため、周囲にいる理解者に話を聞いてもらったり、同じような境遇にある友人と積極的にかかわり励まし合ったりする時間も大切です。
     また、自分の症状がどのような状況で悪化しやすいのかを把握することも重要です。
     「寒暖差」や「環境の変化」などもベーチェット病の症状に影響を及ぼす要因になるため、夏は可能な限りクーラーのある部屋で過ごすなど、意識することが大切です。
     また環境の変化も気づかないうちにストレスの原因になることがあるため、新しい仕事に就いたり引っ越しなどをする際は主治医とよく相談して、体調を考慮しつつタイミングを見極めるようにしてください。
    さらに日常生活における症状や副作用について、いつ・どこで・どんな症状があったのかを可能な限り細かく医師に伝えることが、効果的な治療につながります。
     また診察時間は限られているため、治療や日常生活に対して不安に思うことなどは看護師に相談するなど、医療関係者の方と積極的にコミュニケーションをとり、気になる症状や希望などを自分からしっかりと伝えることで、病気や治療に対する不安の払拭にもつながります。
     病気や治療に関する新しい情報については、必ずしも医師から教えてもらえるわけではないので、患者会に参加したり、インターネットやSNSを活用したりして情報を集め、そこで知った情報をもとに、医師に具体的な相談をすることもできるため、自ら情報を取りに行く姿勢も非常に大切です。

・Q&A

[▼開く] Q1病気になってつらいことは何ですか?[閉じる▲]
 難病は文字通り治すことが難しい病気であり、発病後はおそらく一生治療を続けていく必要があります。その中で感じるつらさは人により千差万別です。

 特に最初のうちは、「なぜ自分がこんな病気になったのだろう」や「これからどうやって生きていったらいいのだろう」、「周りの人は理解してくれるだろうか」といった、精神的な悩みからくる不安や辛さは計り知れないでしょう。
 その精神的苦痛から人との交流を断ってしまう人もいるでしょう。
 しかし難病を発症した多くの人が「自分の病気をもっとわかってほしい」、「同じような病気を持った人とつながりたい」という気持ちで、前向きに生きています。

 多くの人が最初は家族や友人に恐る恐る病気のことを打ち明け、「きちんと話せば理解してくれる人が周りにいる」ということを知り、それが病気を受け入れ前向きに生きる自信につながります。
 また現在ではSNSなどで自分の病気のことを発信する人も増え、同じような困難を抱える人どうしがつながりやすい時代になっています。そこでつながった人たちが互いに連絡を取り合い、日々の体調や悩みを話したり身近な幸せを見つけて共有したりしながら、励ましあい、支えあうことで、「ほかにも同じ病気の人が頑張っている」という安心感が生まれ、「自分も頑張ろう」という原動力にもなります。
 どんなに離れた場所にいても互いに理解し合える存在がいるということはとても特別で、それだけでとても強い心の支えになってくれます。

 また、難病の中には症状が見た目ではわかりにくいものも多くあり、説明してもなかなか理解してもらいにくいということも、一つのつらさです。
 車いすに乗っていたり、杖を突いている人とは異なり、見た目にはわかりにくい症状をいくら言葉で説明されてもそれがどのようにつらいのかをイメージすることは難しいものです。
 そのため、自分の実体験なども交えて、なるべくわかりやすく説明して、多くの人に難病について認知してもらうことが非常に重要だと考えています。

 そのうえで周囲の人は、例えば、病気で仕事を休まざるをえないときは、「休んでも大丈夫だよ」といった言葉をかけてもらうなど、優しく受け止めて接してもらうだけでもとても安心しますし、がんばろうという前向きな気持ちになれるのです。
 難病に限らず、見た目ではわからなくても病気や障害をもっている人はたくさんいると思います。
 最近、ヘルプマークが少しずつ普及してきていますので、これをきっかけに見た目ではわからなくても困難を抱えている人たちがいることを、世の中に知ってもらえたら、それだけでも、見た目ではわかりづらい病気や障害をもっている人が、一歩外に出ていく勇気や安心感を得ることができるのではないでしょうか。

 健康な人と同じように夢もあれば、希望もあります。病気や障害を持っている人だって一人の人間として、希望をもって生きることができる社会であってほしいと願っています。

 また免疫疾患の中には治療にステロイド系の薬剤を使用するものが多くあります。
 ステロイドは自己免疫疾患を抱える患者にとってなくてはならないもので、この薬を服用することで、ほぼそれまでと同じような日常生活を送ることができるようになる人もいます。

 しかし一方で、ステロイドには数多くの副作用も存在します。その最も重要なものが易感染性(免疫力が低下するため感染症にかかりやすくなること)です。
 手洗い、うがい、マスク着用、人混みを避けるなど感染症対策をすることが重要です。ステロイドの内服量が多い時は感染予防の薬を内服することもあります。

 他にも、糖尿病、高脂血症、高血圧、消化性潰瘍、骨粗鬆症、満月様顔貌、精神症状、白内障、緑内障、ステロイド筋症、生理不順、痤瘡、体重増加や顔のむくみ、肌荒れなどがあります。
 これらの副作用は薬を減量すると落ち着くものもありますが、減薬してしまうと、そもそも病気の治療にはならず日常生活にも支障をきたしてしまうため、症状の緩和度合いと副作用の度合いを逐一観察しながら、うまく付き合っていくことになります。
[▼開く] Q2病気になってよかったことはありますか?[閉じる▲]
 病気になりたくてなる人はいません。そしてできることなら病気が治ってほしいと、誰もが思っています。
 そのうえで病気になってよかったと思うことの一つは、日常生活のいろいろなことが当たり前ではないということや、人の気持ちの暖かさに気づくことができたということではないでしょうか。

 日常にはとても小さな幸せがあふれています。
 歩くことができる、手や肌に触れる感覚を感じることができる、きれいな景色を見ることができる、美しい音を聴くことができる、おいしい食べ物を味わうことができる。

 これらのことが決して当たり前ではないということは、普段何気なく過ごしているとなかなか気づくことができません。
 できないことがあるからこそ、できることの喜びをより濃密に感じることができるのです。
 また病気になるとできないことが増え、人に頼らざるを得ないことも増えてきます。
 そうすると自分のために全力で何かをしてくれる人がいるということに対して感謝の気持ちが生まれ、また身近な人たちをもっと大切にしようと思えるのです。

 自分のために何かをしてくれるということもまた、決して当たり前ではなく、とても尊く幸せなことなのです。
 それと病気になるまでは、自分の体がいつか不自由になることや、いつかは死んでしまうということを、なかなか意識することはないものです。
 やりたいと思ったことも、いつかやろうなどと、後回しにしてしまうかもしれません。
 ですが病気を抱えたことで、一日一日をより大切にし、自分の人生をより有意義に過ごそうという気持ちになります。
 明日、自分が健康でいられるという保証はどこにもありません。いつ、どこで、だれがどうなるかは、誰にもわからないのです。

 だからこそ自分や周りの人たちをより大切にし、前向きに生きていこうと思えるのです。
 そのことに気づくことができるということは、病気になってよかったことの一つなのかもしれません。
[▼開く] Q3日常生活で気を付けることはなんですか?[閉じる▲]
 自己免疫疾患に共通して、気を付けるべきことを以下に記します。
規則正しい生活
安静と十分な睡眠:過労をさける、昼寝をする
好き嫌いせずにバランスの取れた食事:栄養素、カルシウム
寒冷をさける:ウイルス感染に注意
外傷、手術などの肉体的ストレスをさける
精神的ストレスをさける
適正体重の維持
適度の運動:入浴、散歩、庭いじり、畑仕事、サイクリングなど
長期の予後に関係する疾患を予防する:骨粗しょう症、動脈硬化、高血圧、糖尿病、白内障、結核など
薬をキチンと服用する
定期的な診察・検査を受ける
インチキ療法に注意:高価なもの、極端な精神療法は疑う、主治医に相談
[▼開く] Q4病気と付き合っていく上での心構えを教えてください。[閉じる▲]
 上記に紹介した自己免疫疾患は長期間にわたる慢性疾患であり、また、まだまだ認知が広まっていないものも多いため、当事者も周囲の人も病気の正しい理解と心構えが非常に大切です。
 まず病気の治療に対して受動的になるのではなく、自分も積極的に治療に参加するという姿勢が大切です。
インターネットで病気について調べたり、病気を解説した本を読んだりして正しい知識を身に着けることで、前向きに治療に取り組むことができます。

 逆に間違った病気の知識は治療を遅らせることにもつながります。
 さらに医学の進歩は日進月歩で、日々新しい治療が開発されているので、主治医の意見をしっかり聞いたうえで他の媒体などでも情報収集に努め、正しい知識を持って自己判断によって選択できるようにしましょう。

 また多くの病気は、同じ病気を抱えた人が集まる患者会があります。
そういった集まりにも積極的に参加することで、同じ困難を抱えた人どうしで知識を深めあい、励ましあうことができ、精神的な支えにもなり、また病気が悪いことばかりではないということにも気づくことができるでしょう。
 それから、病気に対してネガティブになるだけでなく、病気を受け入れ共存するという姿勢と、病気を持ったうえで日常生活を楽しく過ごすための工夫を怠るべきではないでしょう。

 病気によってはそれまでと同じように生活することが困難になるものもあります。
 それまでできていたことが病気によってできなくなったりすることもあるでしょう。
 ですが、できないからとあきらめるのではなく、どうすればできるようになるかを考えることが大切です。
 物事を行うとき、方法が一つしかないということは、絶対にありません。必ず複数の異なる方法があります。

 最初は失敗するかもしれませんが、その時はなぜ失敗したのか、何が原因なのか、どうすれば成功するかを考え、工夫し、実行し、試行錯誤してみることで、人と違った方法だとしても、必ず自分がやりたかったことができるようになるはずです。
 病気や障害を克服するという言葉をよく聞きますが、それは、『人と違った方法だとしても、自分なりの工夫と努力で、できないことをできるようにする』ということではないでしょうか。





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