就労継続支援B型事業の現状を克服するために

就労継続支援B型事業の現状を克服するために

就労継続支援B型事業所の目下の課題は、利用者の多くが障害者であり高齢化が進む中、いかに支援することと日々の作業を遂行し売上をあげることとの狭間にあって、そのジレンマに直面しているのが現状だといえます。余裕のある時には利用者を十分に支援はできるものの、忙しくなると職員も作業に追われることが多く、利用者への支援が必ずしも十二分には行き届きません。多様な利用者がいる事業所にとっては、利用者支援と利益追求つまり工賃向上とのバランスを取ることは悩ましい問題であり、両者は相反するものではないかといった現状があるのも事実です。

そこで、その原因を現場の声をまとめ、以下、打開のための当面の方向性は見いだせないか記してみました。

 

1.支援のニーズの増加と多様化

就労継続支援B型事業所の就労支援における課題としてどの事業所でもあげられるのは、利用者からの支援のニーズの増加と多様化があります。

各事業所の利用者の多くが障害者(重度は少ない)で、利用者の特性は多様化し、支援の必要性が高い人が増えていることが課題となっています。また、パニックが多い利用者も増えており、事業所で落ち着いて過ごすだけでも十分という利用者も中にはいます。作業中に走り回ってしまうことがあったり、日によって気持ちが不安定になり作業ができなかったりする利用者もいて、そうした利用者には、作業面での支援に加え、仕事をする習慣や意欲、生活リズムや利用者どうしの相性など、生活面や関係面での支援や配慮も必要となっています。このように利用者の障害状況がさまざまであるため、利用者によって作業能力に大きな差が生じるのも当然だといえます。さらには、利用者が高齢化し、体調面や作業面での不安が顕著になってきているという事業所もあります。高齢化に伴い以前はできたことができなくなっており、工賃向上以前に、利用者の体力や能力を保ち現状を維持することの方が大きな課題とみる向きが多いようです。

 

2.受託作業の単価の安さ

ほとんどの事業所では外部業者からの受託作業を行っており、数種類の軽作業をかけもち している場合が多く、そうした受託作業の単価や収益の低さが指摘されます。単価をあげるための交渉をしている事業所もありますが、なかなか思う通りにはいかないのが現状です。受託作業の単価やそれによる工賃が利用者の働きに見合っていないということや、外部業者が経費を抑えるために障害者施設に作業を委託する傾向がみられるという疑問も示されています。

 

3.工賃向上の限界

利用者はB型事業所で就労することを望んでおり、それぞれ力を十分に発揮し一生懸命働いています。事業所では、利用者のそうしたニーズを受けとめ、工賃を少しでもあげるために、利用者に見合う仕事作りや、作業しやすいように工夫や効率化を図り、職員の人脈を頼りに仕事の確保や販路の拡大・情報収集などを行っています。そんな中で職員は作業工程の仕上げや最終確認を行い、品質を高めるといった地道な努力も行っています。納期前の忙しい時期には、職員も作業に入らなければならず、毎日のように時間に追われているという事業所もみられます。これ以上、工賃を向上させることは不可能に近いと考えてしまうのも無理からぬことです。

利用者には支援が必要であり、職員の人手も限られているため、作業の量や種類を増やすことは難しく、現在の受託作業で工賃をあげるのはこれが限界であるといいます。何故なら今の状況で工賃をあげるために作業を増やせば、手に負えなくなり、職員が手伝わなければならなくなります。結果、利用者を作業に合わせる形になり、利用者のニーズに合わなくなってしまいます。外部からの受託作業をしているかぎり工賃はあがりません。数円あげることはできても大幅にあげることは難しいのが現状です。

職員の抱く不安は、工賃をあげるために単価の高い作業をしようとしても、そうした作業は難易度が高く、求められることも当然多くなるため、事業所の利用者には合わないのではないか。飲食店のように原価が安く収益の高い仕事を行えば、工賃もあげることはできるだろうが、利用者のニーズに合わなくなり、居場所がなくなる利用者も出てくるのではないかといったものが多いようです。

多くの事業所は、作業の効率化や販売先の拡大など、工賃をあげるための工夫や模索はしていますが、現状では具体的な方策は見つかっていません。やはり現状においては就労継続支援B型事業所にとって工賃をどのようにあげていくかが一番の課題となっているようです。

 

4.工賃向上のために

こうした状況の中、工賃を上げていくための道をそれぞれの事業所は懸命に模索しています。現在行っている複数の作業を再編し、清掃や園芸などの収益が高いものに絞っていくことや、現状は外部からの受託作業を中心に行っているが、今後は健康食品やお茶など事業所オリジナルの自主製品への転換を図っていきたいという事業所もあります。

受託作業で工賃をあげることはもはや限界であり、単価の安い受託作業を減らし、自主製品を増やすしかないと考える傾向も増えてきているようです。ただしその場合でも、利用者の障害特性やニーズを考慮して扱う製品を選ぶ必要があることや、製品の販売先を確保していくことも大きな課題であることが指摘されています。

また、取り扱っている製品の専門家をすでに雇用している事業所もあれば、今後、雇用を検討しているところもあるようです。このように専門家の技術指導等を積極的に活用することで工賃を向上させようとしている事業所もあるようです。

 

5.行政機関への要望

行政との関係が良好な事業所でも、要望は多いようです。以下、いくつか例をあげてみます。そこから見えてくる行政機関の課題があります。

A.外部コンサルタントによる経営診断や農業等の専門家による技術指導を受けたという事業所もあれば、そうした支援を受けていないという事業所もあるようです。(希望性だったのか?)

B.職員の意識や生産技術面で効果があり、これから工賃が高くなることも期待されるとう話であったが、個別の作業ごとの具体的な改善方法に関する情報がさらに必要だと感じている。(アウトプットだけで個々の事業所のその後のやり取りや要望にまで踏み込んではいないようである)

C.経営コンサルタントによる助言を受けたが、一時的なものにとどまり成果も感じられなかった。(継続的なアドバイスが叶わず、成果が出るまでのものではないようだ)

Ⅾ.製品の販売先の拡大や販売先との繋がりづくりなど、具体的なフォローが欲しい。(企画は一回性のもので継続させるための工夫まで手は回ってはいない)

E.行政機関から清掃作業を受託し、高い収益を得ることができていたが、随意契約にもとづき継続的に受託できていたが、一度は受託できたものの、競争入札の結果、次年度は受託できなかった。(行政機関からの紹介であれば、優先的に受託が継続されてもよさそうなもの)

F.行政機関がスーパーマーケットや空港等に設けた販売所で製品を売ったところ、高い売り上げがあったが、そうした販売機会も一時的なものにとどまり、継続性がない。(打ち上げ花火程度のものでは、工賃の一時的なアップにしかつながらない)

G.また、一律の目標を掲げて工賃を向上させようとする施策への疑問も出されている。(中央集権型の施策には確かに限界があることは事実で、例外的な事項を増やすことより、特例的な継続的な支援を行政は考慮すべきであろう)

H.B型事業所には多様なニーズをもつ利用者がおり、事業所によっても作業能力の高い人が多いところとそうでないところがある。工賃向上を否定はしないが、実現できるかどうかには疑問を持つ。(作業の質的向上が見込めない事業所には、上記にも記した特例支援を結果が出るまで継続支援をすべきであろう)

I.生産量や工賃といった数字に表れない部分にこそ利用者の状況がある。そうした個々の利用者や事業所の状況を見極めたうえで、目標設定や支援をしてほしいとの声もある。(現場の実情を行政機関は理解していないということか?)

 

6.見えてくる課題

以上のことからいえることは、まず現場を預かるものとしては行動面・生活面・関係面で課題をもつ利用者が増加しており、利用者にこれ以上負担をかけることはできない状況があります。つまりB型事業所にとっての内的要因として、支援ニーズの増加・多様化により作業量を増やせない状況が生じ、工賃向上が難しくなっていると考えられます。

また事業所は数種類の受託作業を外部から請け負っているが、作業は利用者に合っているものの、それらの単価が安いことはいなめません。それでも、利用者に合った作業を提供するために、単価が安い作業を引き受けざるをえない構図になっています。このように、受託作業の単価の安さが外的要因として影響し、複数の受託作業をかけもちしても工賃が上がらない状況が生じているといえます。

これらの内的要因外的要因が重なり合い、今以上に工賃をあげることが困難な状況に至っていると考えられます。

行政機関への要望にも指摘したように、行政機関の企画の標準化と特例制、及び結果がでるまでの継続性に、事業所の抱える上記の内的・外的要因を解決するための鍵があると思われます。また継続性を確保しより手厚い支援をすることによって就労継続支援B型事業所の抱える実情も知ることになるはずです。しかしながら、そのためには時間がかかることだといえます。

そこで、事業所として今できることは、行政のみ頼りにする受け身ではなく、行政機関はあくまでも行政機関としてできることしかできないと、行政を活用するぐらいの自立した姿勢が必要だといえるかもしれません。

また事業所の利用者の特性にあった事業所オリジナルな自主製品の創造には、外部の専門的知恵を借りることも一考だといえます。

受託作業もなるべく再編し、比較的収益が高いものに絞っていくことも大切なことだといえそうです。いずれにしても、利用者の障害特性やニーズを考慮して扱う製品を慎重に選ぶことはいうまでもありません。

そして、何より製品の継続的な販売先(販路)を確保または保証すること(営業活動)が就労継続支援B型事業所の今しなければならないことといえるかもしれません。行政機関の企画した講座や販路の継続性を保障する営業的取り組みを事業所側が前面に出てすることも一つではないでしょうか。

 

尚、この文章は日本社会福祉学会中国・四国ブロック 第7号 2020.9の遠山真世さんの調査結果を参考にさせてもらいました。





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