就労継続支援A型の適正な事業運営について

就労継続支援A型の適正な事業運営について

障害福祉サービス事業者に対する指導監査は、障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号、以下「法」という)に基づき行われます。 

就労継続支援A型については、通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者を雇用して就労の機会を提供するとともに、その知識および能力の向上のために必要な訓練等を適切かつ効果的に行うこととされています。

しかし残念ながら、就労継続支援A型事業者の中には、法の趣旨に反し、障害者の日常生活および社会生活の総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業の人員、設備および運営に関する基準(平成18年9月29日厚生労働令第171号、以下「運営基準」という)の規定に抵触すると考えられる不適切な事業運営を行っている事業者があることが指摘されています。

以下に、就労継続支援A型の利用手続きや不適切な事業運営と診られる指導の際の確認点を整理したので、事業所として自己診断や事業の見直し、確認のために活用してもらえればと思っています。

1.就労継続支援A型の利用に係る支給決定手続きについて

就労継続支援A型は、利用者と雇用契約を締結することにより、就労機会を提供しつつ、生産活動の機会を通じて就労に必要な知識および能力の向上のために必要な訓練などを行うものす。その利用に当たっては、一定期間の訓練を行うサービスであることを踏まえ、就労継続支援A型の利用が適切であるかどうか客観的判断を行うため、原則として、暫定支給決定を行うこととされています。利用者に対して適切なサービスを提供するという観点からも、適正な支給決定手続きが必要となるためにです。

なお、暫定支給決定が行われた利用者については、雇用保険法施行規則(昭和50年3月10日労働省令第3号)第110条に基づく特定求職者雇用開発助成金の支給対象となる対象労働者から除外され、助成金の支給はされないこととなっています。

2.不適切な事業運営と考えられる事例
(1)生産活動の内容が不適切と考えられる事例

① 事例内容

就労機会の提供に当たり、収益の上がらない仕事しか提供しておらず、就労継続支援A型事業の収益だけでは、最低賃金を支払うことが困難であると考えられる事例があります。

② 指導の際、確認される点

 就労継続支援A型の利用に当たっては、利用者と雇用契約を締結することになっていて、雇用契約を締結した利用者については、労働関連法規の適用を受ける労働者に該当し、最低賃金法(昭和34年4月15日法律第137号)が適用されることから、最低賃金を支払うことが可能な収益性の高い事業内容であるか、また、利用者に対してこの事業内容を踏まえた仕事が確保されているかを確認することがポイントとしてあげられています。

確認に当たっては、「就労支援等の事業に関する会計処理の取扱いについて」(平成18年10月2日社援発第1002001号厚生労働省社会・援護局長通知)の別紙「就労支援の事業の会計処理の基準」に基づき作成することとされている「就労支援事業別事業活動明細書」により、最低賃金を支払うことが可能な事業内容であるかどうかを判断することになっています。

 指導に当たっての根拠(運営基準第191条、192条)

運営基準第191条第1項では、「指定就労継続支援A型事業所は、就労の機会の提供に当たっては、地域の実情ならびに製品およびサービスの需給状況などを考慮して行うように努めなければならない」と規定されていることから、事業者には、就労機会の提供に当たり、事業者が供給しようと考えている物品および役務に関する市場調査などを実施するとともに、地域の状況を適切に把握することが求められ、その結果を踏まえ、最低賃金を支払うことが可能な収益性の高い仕事を確保する必要があります。

また、運営基準第192条第1項では、「指定就労継続支援A型事業者は、第190条第1項の規定による利用者が自立した日常生活または社会生活を営むことを支援するため、賃金の水準を高めるよう努めなければならない」と規定されており、この規定の趣旨をかんがみ、最低賃金の水準に留まることなく、就労に関する知識および能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援を行うことにより、賃金水準を高めていくことが事業者には求められます。

したがって、収益の低い仕事しか提供していない場合は、就労機会の提供に当たり、市場調査などの実施や地域の状況を適切に把握しているとは考えられず、また、利用者に支払う賃金水準を高めるよう努めているとはいえないと判断されます。

(2)サービス提供の形態が不適切と考えられる事例

① 事例内容

就労継続支援A型のサービス提供に当たり、利用者の意向や能力などを踏まえた個別支援計画が提供されていない事例や、長く働きたいという利用者の意向にもかかわらず、全ての利用者の労働時間を一律に短時間(例:1週間の所定労働時間が20時間)としている事例など、サービス提供に当たっての形態が不適切な事例と判断されます。

② 指導の際の確認点

 適切なアセスメントに基づいた個々の利用者に応じた個別支援計画が策定され、その計画に基づいたサービス提供がなされているのか確認します。

また、全ての利用者の労働時間が一律に短時間とされているような場合には、その理由を確認し、適切なアセスメントに基づいた結果であり、かつ、利用者の意向などに反して設定されているものでないかどうか確認します。

 指導に当たっての根拠(運営基準第3条、第191条、197条(第58条の準用))

運営基準第3条第1項では、「指定障害福祉サービス事業者は、利用者の意向、適性、障害の特性その他の事情を踏まえた計画(以下「個別支援計画」という)を作成し、これに基づき利用者に対して指定障害福祉サービスを提供するとともに、その効果について継続的な評価を実施すること、その他の措置を講ずることにより利用者に対して適切かつ効果的に指定障害福祉サービスを提供しなければならない」と規定されています。

また、就労継続支援A型において準用する同法第58条第2項では、「サービス管理責任者は、療養介護計画の作成に当たっては、適切な方法により、利用者について、その有する能力、その置かれている環境および日常生活全般の状況など評価を通じて利用者の希望する生活や課題などの把握(以下「アセスメント」という)を行い、利用者が自立した日常生活を営むことができるように支援する上での適切な支援内容の検討をしなければならない」と規定されています。

これらの規定に基づき、事業者には、適切な方法でアセスメントを行った上で適切な支援内容を検討し、個々の利用者の意向や適性、障害特性などを踏まえた個別支援計画を策定し、サービスを提供することが求められます。

また、運営基準第191条第2項では、「指定就労継続支援A型事業者は、就労の機会の提供に当たっては、作業の能率の向上が図られるよう、利用者の障害の特性等を踏まえた工夫を行わなければならない」と規定されていることから、事業者には、利用者の意向や適性、障害特性などを踏まえ、個々の利用者に適した作業内容や作業時間とすることにより、作業能率を向上させることが求められます。

したがって、個別支援計画が画一的な内容となっている場合や、正当な理由もなく全ての利用者の労働時間を一律に短時間としている場合には、適切な個別支援計画の策定や利用者の意向などを踏まえた就労機会の提供が行われているといえないと判断されます。

なお、特定求職者雇用開発助成金は、短時間労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満)を雇い入れた場合であっても支給対象となることから、この助成金を受給するために利用者の労働時間を一律に短時間としている場合があり、このような理由も上記基準の趣旨から適切な事業運営とはいえないと判断されます。

(3)一定期間経過後に事業所を退所させている事例

① 事例内容

就労継続支援A型の利用に当たり、利用してから一定時間が経過した後、利用者の意向があるにもかかわらず、就労継続支援B型事業所に移行させるなどは、不当に退所させている事例と判断されます。

② 指導の際の確認点

 利用者の退所状況に関し、一定期間(例:2年または3年)が経過した後に就労継続支援B型事業所に移行し、事業所を退所している利用者について、退所理由を確認することになっています。

確認に当たって、特定求職者雇用開発助成金の支給対象者となっていた利用者については、その助成金の助成対象期間経過後に退所させられているようなことがないかを確認することが重要となります。

 指導に当たっての根拠(運営基準第197条(第11条の準用))

障害福祉サービスの利用に当たっては、市町村から支給決定を受けなければならず、その支給決定には有効期間が定められており、就労継続支援A型の有効期間は、1月間から36月間の範囲内で市町村が定める期間とされており、最大3年間となっています。

一方で、法第5条第14項では、「この法律において「就労継続支援」とは、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者につき、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、その知識および能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を提供することをいう」と規定されており、就労継続支援A型には、利用期間は定められておらず、支給決定に係る有効期間の更新は可能とされています。

また就労継続支援A型において準用する運営基準第11条では、「指定居宅介護事業者は、正当な理由なく指定居宅介護の提供を拒んではならない」と規定されています(*)。

これらの規定に基づけば、事業者は、現に就労継続支援A型を利用している者に対し、正当な理由なくサービスの提供を拒否したり、事業所を退所さあせたりといったことをしてはならず、支給決定の有効期間中の利用者は当然のこととして、支給決定の更新が行われた利用者に対しても適切にサービス提供を行う必要があります。

したがって、特定求職者雇用開発助成金の支給対象となる利用者について、この助成金の助成対象期間が2年(重度障害者などに該当する場合は3年)であることから、利用者の退所時期がこの助成金の助成対象期間経過後と一致しているような場合には、正当な理由なく、この助成金の支給終了とあわせて退所させている場合があり、このような取扱いは適切な事業運営とはいえないと判断されます。

* 提供を拒むことができる正当な理由がある場合とは以下の通りです。

・当該事業所の現員からは利用申込みに応じきれない場合

・利用申込者の居住地が当該事業所の通常の事業の実施地域外である場合

・当該事業所の運営規定において主たる対象とする障害の種類を定めている場合であって、これに該当しない者から利用申込みがあった場合、その他利用申込者に対し自ら適切な指定居宅介護を提供することが困難な場合

・入院治療が必要な場合





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