全盲・弱視の視覚障がい者の白杖SOSシグナルについて

 
はじめに

 全盲や弱視の視覚障がい者が使う白杖(はくじょう)を頭上50センチほどに掲げるポーズがあるのを皆さんはご存知でしょうか。それは「白杖SOSシグナル」と呼ばれ、周囲に助けを求める際にする合図です。左にあるのは、「白杖SOSシグナル」普及啓発シンボルマーク。

白杖SOSシグナルの歴史

 この「白杖SOSシグナル」は、1977年に生まれ、約四半世紀、歴史のあるシグナルだと言えます。考案したのは福岡県盲人協会でした。当時はまだ視覚障がい者への理解が進んでおらず、「助けてください」と声をあげることを躊躇する人も少なくありませんでした。
 白杖使用者なら必ず持ち歩く白杖を使い、声をあげなくても助けが求められる方法はないだろうか。そうした考えのもとに提唱されたのが、白杖を立てて50センチほど掲げるポーズでした。しかし、シグナルは当事者間ですらあまり浸透しなかったのは、白杖使用者からも「恥ずかしい」との声が少なくなかったのが、大きな理由の一つだったようです。

 しかし、もう一度、全国的に広める努力をしようと考える契機となったのが、2011年の東日本大震災でした。震災で建物が倒壊し、地面にひび割れも起きました。視覚障害がい者の多くが、歩き慣れた場所でも立ち往生するなどし、逃げ遅れて死亡したという報告があったからです。
 また、避難所での生活において、支援物資などの書かれた掲示板の情報を知ることができなかったり、トイレの場所を把握できなかったりという事例も多く寄せられました。東日本大震災は、視覚障がい者が「災害弱者」であることを改めて浮き彫りにしたと言えます。

 そこで、福岡県盲人協会はシグナルの必要性を見つめ直し、啓発に力を入れようと再び動き出しました。震災後の2015年には、日本盲人会連合がシグナルを全国に広めることを決議し、「白杖SOSシグナル」のマークを岐阜市が公募し、集まった中からシンボルマークを決定し、内閣府が「障がい者に関係するマークの一例」としてHPにも掲載されるようになりました。

白杖SOSシグナルの課題

 ポスターの配布活動などを通して、シグナルは着実に広まってきています。「それでも、当事者にも伝わっていない実感がある」と語るのは、この啓発運動の関係者の言葉です。実際、シグナルを出すことによって助けられた経験がある人も少なからず出てきました。しかし、白杖を使わない方や使っている方から、「シグナルは必要じゃない」という意見もあるようなのです。

 シグナルを使っている人もいれば、使わない人もいる、というのが現状です。シグナルがネット上で話題になるたびに、白杖を使う視覚障がい者からは、SOSのサインだと聞いたことはなかったとか、白杖を地面から離すのに抵抗があるとか、恥ずかしい、ダサいから広まってほしくない、といった意見もあがっています。とりわけ指摘されるのが、シグナルが浸透することで、シグナルを出していないのは、つまり「困っていない」「助けなくても良い」と考える人が出てしまうのではないかという懸念です。

 勿論、シグナルを出していなければ助けなくても良いという訳ではありません。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、「密」を避け、マスクや、消毒を徹底するようになると、人と人の間に距離が生まれ、自ずと白杖を持つ視覚障がい者に対しても距離感ができ、以前より助けてくれる人は確実に少なくなっているという報告はかなりの数上ってきています。

 あくまで白杖SOSシグナルは、助けてほしい際のサインの一つです。しかし、シグナルを出していないからといって、困っていないということではありません。しかし、当事者である視覚障がい者がこころよくこのシグナルを受け入れて貰えないことには、なかなか世間に認知されるまでには至らないという課題もあります。視覚障がい者の仕草や動きを見て、困っていると認識してもらえない実情があるからこそ、シグナルを広め、そのことを通して視覚障がい者への理解を深めてもらいたいと思うのは至極当然なことでもあります。

 先日も新聞を見ていると大雪で点字ブロックが見当たらず、大変困難な状況に強いられた視覚障がい者の記事などを読むと、新型コロナウイルスだけでなく、環境変化による自然災害においても障がい者は弱者であることを再確認させられます。白杖SOSシグナルが内外ともにもっと広く認知されていれば、と思う記事でした。

白杖SOSシグナルで知ってもらいたいこと

 啓発運動の関係者は、このシグナルを広めたい理由には、もう一つあるといいます。そもそも、白杖を使っている人が視覚障がい者だと知られていない実情が今あるのだそうです。白杖は、それを使う視覚障がい者が歩く際、路面や周囲の情報を得て安全・安心を確保するために欠かせないものです。
 しかし、高齢者や足の不自由な人などが使う「杖」だと勘違いしている人がいるといいます。驚くべきことですが、あり得る話です。

外を歩く視覚障がい者には、常に危険が伴います。スマートフォンを使いながら歩く「歩きスマホ」をする人とぶつかったり、点字ブロックに置かれた物につまずいたりするケースも少なくありません。白杖を使っていても視覚障がい者だと認識していない人から、文句を言われることもあるという話には呆れてしまうばかりです。

 「視覚障がい者には、ハンディキャップがあることを知っていただきたいです。私たちは必死に外に出ておりますので、理解して歩いていただき、配慮いただけたら助かります」

 これは視覚障がい者の全ての人の声として肝に銘じたいことばです。

 では、実際、白杖SOSシグナルを実際に見かけたら、どうすれば良いのでしょうか。
  • まず、正面から「どうかなさいましたか」などと声をかけてください。
  • 困りごとの内容によって、ご自分の肩やひじなどに手をかけてもらい、ゆっくり誘導するなどの支援をしてください。
  • 白杖を持つ手には、触れないようにしてください。

 以上、簡単にではありますが、白杖SOSシグナルについて考える材料を提示したつもりです。どのような社会が障がい者の人権も含め、ありうべき生活環境かを共に考えていきたいものです。





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