以上のように雇用決定前に仕事や通勤を通してお互いの様子を見るのがトライアル雇用です。障がい者にとっては、実際に体験ができるので、体力的な事やスキルなど、お互いに心配なところや懸念されることが事前に確認ができ、また企業にとっても必要な配慮や、補うべきスキルがよく分かる制度です。障がい者の就業に前向きな取り組みといえます。
このトライアル雇用のコースは大きく分けて3つあります。
② 精神障がい者対象のコース・・・原則6か月 最長12か月
③ 短時間労働対象(障がい者・精神障がい者)・・・3か月から12か月
トライアルコースによる雇用受入れ企業には助成金があります。これは、障がい者が無理のない環境で仕事と職場に慣れていく配慮でもあり、雇用をしようとしている企業への配慮でもあります。
尚、障がい者のトライアル雇用には書類選考はありません。申し込みと同時に面接になります。
トライアル雇用のメリット
障害者トライアル雇用は、上記にも述べたように障がい者の側にとっても、企業の側にとってもトライアルな活動であるといえます。このトライアルを通して、お互いにどんなメリットがあるのか、以下、トライアルで感じるであろう双方の思いを言葉にしてみました。
《障がい者のメリット》 | 《企業のメリット》 |
---|---|
〇トライアル雇用前の障がい者の不安 | 〇トライアル雇用前の企業の不安 |
経験のない仕事で不安だ 今までの経験は役に立たない 人間関係の不安 | 何ができるのか どんな配慮が必要なの? 接し方がわからない |
〇トライアル雇用中のメリット | 〇トライアル雇用中のメリット |
社風を感じる 必要な配慮を伝える 苦手な事を伝える | 違いはないと知った 障害の理解と配慮がわかる 特別でないことがわかった |
〇トライアル雇用後のメリット | 〇トライアル雇用後のメリット |
好感が持てた 廻りとうまく行きそうだ 通勤も心配なさそうだ | 配慮がわかった 向いている仕事がわかった 接し方がわかった |
トライアル雇用に応募ができる対象者
次に障がい者トライアルコースに応募ができる対象者は下記の①~④のいずれかに該当する方となります。
① これまでに働いたことのない職業に挑戦してみたい方
紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望していること
② 離転職を繰り返し、長く働き続けられる職場を探している方
紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返していること
③ 働いていない期間がしばらくあったが、再び就職しようと考えている方
紹介日の前日時点で離職期間が6か月を超えていること
④ 重度身体障害、重度知的障害、精神障害のうちいずれかのある方
④の方は、①~③の要件に関わらず、障害者トライアル雇用の対象になります。
トライアル雇用の社会保険と雇用保険
・雇用保険
・労働時間が正社員の4分の3以上ある
まず、平成28年10月に法改正があり、短時間労働者(パート含む)であっても一定の条件を見た満たすことで社会保険に加入することになりました。
短時間労働者の定義は、1週間の労働時間が30時間を下回る場合、短時間労働者とされます。
平成28年の10月の法改正では……
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 1年以上継続して雇用されることが見込まれること
- 月額賃金が8万8千円以上であること
- 学生でないこと
- 常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること
*(平成29年4月1日から被保険者が常時 500 人以下の事業所も下記の場合適用になりました。
- 労使合意(働いている方々の2分の1以上と事業主が社会保険に加入することについて合意すること)に基づき申出をする法人
- 個人の事業所
- 地方公共団体に属する事業所
厚生労働省では障害者短時間トライアル雇用の期間は、3ケ月から12ケ月を実施することとしてあります。また、雇入れ時の週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とし、障がい者の職場適応状況や体調等に応じて、同期間中にこれを20時間以上とすることを目指すとなっています。
これを基に社会保険加入を考えると……
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること・・・可能性あり△
- 1年以上継続して雇用されることが見込まれること・・・トライアルが1年未満なので×
- 月額賃金が8万8千円以上であること・・・トライアルは最低賃金に近いので短時間労働では△
- 学生でないこと・・・学生ではない〇
- 常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること・・・可能性あり△
結果から見ると、短時間労者の社会保険加入には上の条件5つをクリアしなければ加入できないので加入は難しいと言えます。
なので、障がい者と精神障がい者を対象としたトライアル雇用では社会保険は加入できますが、障害者短時間トライアルでは、社会保険の加入は難しいと言えます。
もちろん、短時間のトライアル中に1週間の就業時間が30時間以上に増え、継続雇用が決まり条件が合えば社会保険に加入が出来ます。
雇用保険は雇用が決まれば期間に関係なく入らなければなりません。
トライアル雇用にはデメリットはないのか?
トライアル雇用は、就業する前のお試し期間の雇用なので、障がい者にも企業にもメリットがあります。しかしながら、自分に合った良い企業を探そうとトライアル雇用ばかりを続けるのは得策とはいえません。
10年ほど前はトライアルやインターンといって企業が障がい者を受け入れる事はまずありませんでした。理由は通勤の途中で何かあったら誰が責任を取るのか、任せられる仕事はあるのかなどの偏見が多く、受け入れは難しかったといえます。
ですが、個人や企業が障がい者と障害を知る機会が増えるにつれて、障害を理解している企業も増え、厚生労働省もトライアル雇用やインターンといった受け入れ体制に力を入れることで、最近は以前に比べて比較的障がい者の雇用が進めやすくなってきてはいます。
そうなると、より条件の良いところはないか障がい者も探し出します。雇用後に定着しないのも、そのような背景があります。
良い企業の採用枠は早く埋まっていきますので、障がい者はトライアル雇用をはしごするより、何社か決めて企業研究もしてトライアルをするのが一番良いのですが……。
トライアル雇用を続けると就活が失敗する?
障がい者の転職マーケットは売り手市場になっています。次から次へと求人案が出てきて、人材確保が出来ないとなると、企業は条件を良くしてきます。
例えば、こんなケースがあります。
企業では法定雇用率達成のため、やっと良い障がい者を確保できそうなのでトライアルから継続雇用に急いで進めようと話を持っていきました。
ですが障がい者はもっと良い条件のところがあるのではないかと、継続雇用の申し込みを断り、他の条件の良い企業を探すことにしました。
その後、その障がい者は何社かトライアルで体験をしましたが、結局は最初のトライアル雇用を実施した企業が一番よく、継続雇用の話が出た担当者に入社が出来ないか相談をしました。
しかし、その時は既にトライアル雇用を実施した他の方に採用が決まっていました。
今は数多い求人案内があるので、実際一度に何社もオファーをもらう方もいるようです。
入社したい企業をしっかり選ぶことをお薦めします。目移りしてオファーへの返答に時間が長くあいたり、一度断ったりしてしまうのはチャンスを失うことにもつながります。
企業も採用を急いでいるので、トライアル雇用を実施し、アピールしています。一度断られたり、返事がなかったりしてしまうと、次の候補者に目を向けてしまいます。
色々とトライアル雇用を体験しては駄目だとか、企業に遠慮して折れろとか言っているのではありません。良い条件のところに転職出来るのであれば、トライアルを数試すのはいいという方もおられると思います。実際はそれで良いのかもしれません。それで、自分が納得いく就職に繋げられるのなら成功なのかもしれません。