性同一性障害

・性同一性障害[総論]

性同一性障害は近年、精神疾患から外されるという世界的な動きから、疾患とみるかそうでないとみるか、判断が揺れている状態であると言えます。

まずその経緯や関係各所がどのような見解を発表しているかなど、ある程度詳しく以下に説明します。そのことを通じて、より深く理解する一助となることを期待するものです。

2018年6月18日、世界保健機関(WHO)が「国際疾病分類」最新版(ICD-11)を発表し、性同一性障害が「精神疾患」から外れることになりました。

※国際疾病分類=ICDは、病気や怪我、死因など5万5000項目をまとめた分類で、日本をはじめ多くの国が死因や患者の統計、医療保険の支払いなどに使うために参照しているものです。

1900年に第1版が作成されて以降、改定が重ねられてきました。ICD-10は1990年のもので、今回は約30年ぶりの全面的な改定となりました。

今回の改定で性同一性障害(Gender Identity Disorder)は「精神疾患」から外れ、「性の健康に関連する状態」という分類の中のGender Incongruence(性別不合:とりあえずの名称。厚労省はこの4年以内に名称を変更確定するようです)という項目となりました。

「国際疾病分類」最新版(ICD-11)のGender Incongruenceの定義には、以下のように記されています。

「個人の経験する性(gender)と割り当てられた性別(sex)の顕著かつ持続的な不一致によって特徴づけられる。ジェンダーの多様な振る舞いや好みだけでは、このグループとして診断名を割り当てる根拠にはならない」

WHO生殖保健・研究部のラレ・サイ調整官は、分類の見直しによって「こうした個人の社会的受容に向け、スティグマ(社会的に付与された汚名、不名誉、烙印の意)を減らすことができる」と。また疾病分類は医師や保険会社によるサービス提供範囲の判断に使われているため、精神疾患から外されたことで医療を受けやすくなる可能性もあるのではないかと言っています。

ICDは、国連加盟国が来年5月にスイス・ジュネーブで開く世界保健総会で採択されれば、2022年1月1日から効力を発することになります

サイ調整官は、性同一性障害は世界の多くの地域で受け入れられてはいないが、今回の分類は専門家たちが長年議論を重ねた結果であり、容易に採択されるとの見解を示しています。性同一性障害については、フランスやデンマークなど複数の国がすでに分類を見直し、精神疾患から外しています。

ニューヨーク市・コロンビア大学精神科臨床学教授で、アメリカ精神医学会終身名誉フェローであるジャック・ドレシャー氏は、「トランスジェンダーの人々は高度にスティグマ化された患者集団です。これはスティグマを減少させる一つの方法です。実際は、私たちは何がトランスジェンダー的な表現の原因なのかを知りません。それが精神医学的なものなのか、医学的なものなのかを知りませんし、それは私たちがなぜ人々がシスジェンダーであるかを知らないのとまったく同じことなのです。この変更は一つの新しい診断カテゴリーを提示するものです。それがgender incongruenceなのです」と言っています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「この大きな変化は、WHOの定めるグローバルな診断基準の改訂を求めてきた、世界各地のトランスジェンダーの活動家による粘り強いアドボカシーのたまものです」と評価しています。

トランスジェンダーになすりつけられてきたスティグマや差別の大半は、精神病と見なす医療制度のあり方に由来するもので、トランスジェンダーのメンタルヘルスの悪化をも引き起こしてきました。名前や公的文書上の性別を変更するための条件として「性同一性障害(GID)」の診断を義務づける政府が多いことは、労働や教育、移動など基本的権利の享受の妨げになってきた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘します。

「マルタ、ノルウェー、アルゼンチン、ネパールなどでは状況は改善しましたが、世界各地の政府は未だにトランスジェンダーを《精神疾患》と見なしており、スペイン、トルコ、日本などでは、氏名や性別を法的に変更するには、精神科医の診断を受けなければなりません」

「新たなWHOの疾病分類は、思春期と成人のトランスジェンダーの人びとにとって大きな前進です。近いうちに《精神疾患》と見なされずに医療ケアを求めることができるようになる可能性が出てきたからです」

なお、同団体は、性別不合Gender Incongruenceの下位カテゴリーに、思春期前の子どもに適用される「Gender Incongruence of Childhood(子どもの性別不合)」という項目があり、これが問題含みの診断項目であると批判しています。自らの性自認や性表現を探究する幼い子どもたちに、第二次性徴抑制薬や、性別変更用のホルモン投与、性別適合手術などの治療は必要がない、GICという診断も必要ないと言います。

今回のICDの改定によって、国際的には「性同一性障害」という概念が消滅し、脱病理化への大きなステップを踏み出しました(つまり、障害でも病気でもないと宣言されました)。


日本では現状、戸籍上の性別を変更することを望むトランスジェンダーの方は、法律上、精神科を受診して「性同一性障害」という診断名をもらい、性別適合手術を行うことが必須の要件となっていますが、長崎大の中根秀之教授(社会精神医学)は、「手術を要件とすべきかどうか、今後議論が高まるのではないか」と語っています(厚労省の担当者は、「将来的な影響はあるかもしれないが、保険制度や治療方法の変更などへすぐにつながるものではない」と述べています)。

日本では性別適合手術への保険の適用が始まりましたが、将来的には、アルゼンチンやノルウェーのように、診断や手術なしに性別変更できる方向に進むのでしょうか。当事者から上がってくる声にも耳を傾けながら、この問題を見守っていきましょう。 2019年5月に開かれたスイス・ジュネーブの世界保健総会で25日、「国際疾病分類」改定版(ICD-11)が了承され、性同一性障害が「精神障害」の分類から除外され、「性の健康に関連する状態」という分類の中の「Gender Incongruence(性別不合)」に変更されることになりました。これにより、出生時に割り当てられた性別への違和が「病気」や「障害」ではないと宣言されることになりました。ICD-11は、2022年1月1日から効力を発します。

・「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が公布・施行/LGBTQ+とは

LGBTQ+とは?

・レズビアン(女性同性愛者)
・ゲイ(男性同性愛者)
・バイセクシュアル(両性愛者)
・トランスジェンダー(生まれたときに法律的/社会的に割り当てられた性別とは異なる性別を生きる人)
・クエスチョニング/クィア(自らの性のあり方を定めていない人、規範的な性のあり方に属さない人)

LGBTQとは、上記の頭文字を取ったもので、性的マイノリティーの人々を指す言葉です。
当事者が自分たちのことをポジティブに語る呼称として、また、さまざまな性的マイノリティーが社会に向けて活動する際の“連帯”を表す言葉として、北米やヨーロッパで使われ始めました。
他にも……

・アセクシュアル(他者に対して恋愛感情や性的関心を抱かない人)
・パンセクシュアル(あらゆる性別の人に対して恋愛感情や性的関心を抱く人)
・エイジェンダー/Xジェンダー(自らの性を男女いずれかに限定しない人)

などを含む、人間の多様な性のあり方を表す表記として+が加わり、LGBTQ+という言葉は日本でも広まってきています。
近年、性的マイノリティーの支援事業に取り組む自治体、企業、学校なども出てきていますが、根強い差別や偏見により悩んでいる人も未だ多くいます。

・4つの要素で考える「性のあり方」

「性のあり方」を、4 つの要素に分けて整理する考え方があります。

・法律上の性(出生時に割り当てられた性別をもとに戸籍等に記載された性別)
・性自認 (自分の性別をどう認識しているか)
・性的指向 (恋愛感情や性的な関心がどの性別に向いているか、向いていないか)
・性表現 (服装や髪型、言葉遣い、しぐさ等、自分の性別をどう表現するか)

このうち性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとったSOGI(ソジ)という言葉も使われています。

・LGBTQ+の「人権」


日本におけるLGBTQ+の人の割合については3%から10%ぐらいと、調査によってさまざまな数値が出されていますが、学術的に信頼性の高い調査はまだ多くないようです。
大切なのは、性的マイノリティーが社会にどれくらいいるかではなく、すべての人がどんな性であっても差別されることなく、自分らしく生きることができる社会をつくることです。
LGBTQ+の人権について、日本では、令和5年6月23日に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が公布・施行されました。
この法律は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に資することを目的としており、性的指向及びジェンダーアイデンティティに寛容な社会の実現を目指しています。厚生労働省では、職場での理解増進に向けた労働者や事業主への普及啓発や、職場でのトラブルが生じた場合における総合労働相談コーナーでの相談の受付を行うとともに、生きづらさを感じている方への、生活上の悩みも含めた電話相談窓口を設置しています。また、医療保険制度において、性同一性障害を有する方について、保険者の判断により被保険者証の性別や氏名の表記方法を工夫して差し支えないことを示しているほか、性別適合手術について保険適用としています。これらの施策により、LGBTQ+の人々がより安心して暮らせる社会を目指しています。

【参考資料】
法律第六十八号(令5・6・23)

・性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律

(目的)

第一条 この法律は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑み、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を涵(かん)養し、もって性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。

(定義)

第二条 この法律において「性的指向」とは、恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向をいう。
 この法律において「ジェンダーアイデンティティ」とは、自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識をいう。

(基本理念)

第三条 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策は、全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならない。

(国の役割)

第四条 国は、前条に定める基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。

(地方公共団体の役割)

第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。

(事業主等の努力)

第六条 事業主は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその雇用する労働者の理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該労働者の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
 学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、幼稚園及び特別支援学校の幼稚部を除く。以下同じ。)の設置者は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその設置する学校の児童、生徒又は学生(以下この項及び第十条第三項において「児童等」という。)の理解の増進に関し、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。

(施策の実施の状況の公表)

第七条 政府は、毎年一回、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の実施の状況を公表しなければならない。

(基本計画)

第八条 政府は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画(以下この条において「基本計画」という。)を策定しなければならない。
 基本計画は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解を増進するための基本的な事項その他必要な事項について定めるものとする。
 内閣総理大臣は、基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本計画を公表しなければならない。
 内閣総理大臣は、基本計画の案を作成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出その他必要な協力を求めることができる。
 政府は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性をめぐる情勢の変化を勘案し、並びに性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね三年ごとに、基本計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。
 第三項から第五項までの規定は、基本計画の変更について準用する。

(学術研究等)

第九条 国は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する学術研究その他の性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の策定に必要な研究を推進するものとする。

(知識の着実な普及等)

第十条 国及び地方公共団体は、前条の研究の進捗状況を踏まえつつ、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、国民が、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めることができるよう、心身の発達に応じた教育及び学習の振興並びに広報活動等を通じた性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する知識の着実な普及、各般の問題に対応するための相談体制の整備その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
 事業主は、その雇用する労働者に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるための情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校の児童等に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるため、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

(性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進連絡会議)

第十一条 政府は、内閣官房、内閣府、総務省、法務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省その他の関係行政機関の職員をもって構成する性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進連絡会議を設け、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の総合的かつ効果的な推進を図るための連絡調整を行うものとする。

(措置の実施等に当たっての留意)

第十二条 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする。

・附 則

(施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から施行する。

(検討)

第二条 この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

(内閣府設置法の一部改正)

第三条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
第四条第三項第四十五号の次に次の一号を加える。
四十五の二 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和五年法律第六十八号)第八条第一項に規定するものをいう。)の策定及び推進に関すること。


                         (内閣総理・総務・法務・外務臨時代理・文部科学臨時代理・厚生労働・国土交通大臣署名)
                                                                                                                                         以上


・Q&A(クリックすると、記事内容が見れます)

Q1 では現在日本では性同一性障害をどのように考えられているのでしょうか?

Q2 トランスジェンダーについて教えて下さい。

Q3 では性同一性障害とみるよりトランスジェンダーと見た方がよいように思われますが?

Q4 どのように接していけば良いのかアドバイスなどありますか?

Q5 性分化疾患(Disorders of Sex Development)とは?