視覚障害者のひとり暮らし

 厚生労働省の最新の調査によると、18歳以上の身体障害者数はおよそ400万人で、そのうち、約1割が一人暮らしをしているとあります。身体障害の種別ごとにはデータはありませんが、おそらく視覚障害者で一人暮らしされている割合もそう変わらないと考えられます。一人暮らしをする理由は、就職などを理由に家を出るという方もいれば、止むを得ない理由で家を出られる方もいるでしょう。そこでここでは、そのように視覚障害を持ちながら、これから一人暮らしをしようと考えている方に必要な準備や、注意すべき点について説明します。

  視覚障害とは

 視覚障害とは、必ずしも”目が見えない”ことではありません。ある一定のレベルで視力や視野などに何らかの障害があるため、日常生活や就労するにあたって不自由が生じる状態のことを視覚障害と言い、他の身体障害同様、身体障害者福祉法の施行規則別表である「身体障害程度等級表」にどのような視覚障害があれば何級になるのかが記載されています(障害年金の等級とは違います)。
 単に視力が弱いだけなら、眼鏡やコンタクトレンズを使って矯正すれば視覚障害にはなりませんが、それらを使用しても十分な視力が得られない状態であれば視覚障害となります。

  視覚障害の種類

視力障害…万国式試視力表(一般的に認識されている健康診断などで行うランドルト環などを使った視力検査)によって測定した両眼の総合的な視力の程度により、等級が1〜6級に区分されます。
視野障害…脳や視神経の障害により、視野がところどころ欠ける(視野欠損)、または視野が極端に狭くなったりして部分的にしか見えない状態(視野狭窄)に対して、視野がどの程度か計測することで等級が2~5級に区分されます。
色覚障害…正常な人と色の見え方が異なる視覚障害で、一般的には人に色を認識させる網膜内の3種類の錐体(L錐体:赤、M錐体:緑、S錐体:青)の機能状態によって色弱、色盲などと呼ばれるものです。色覚障害は身体障害者手帳交付の対象から外されます。
このような色覚障害には先天性と後天性があり、先天性は日本人男性の5%、日本人女性の0.2%の割合で発症するとされています。また、後天的な色覚障害の代表的なものとして、加齢による白内障が挙げられ、日本人の全人口の30%が患っているとされています。
色覚障害には1型色覚、2型色覚、3型色覚の3つの種類があります
・1型色覚は赤に敏感な視細胞の機能に異常がある
・2型色覚には緑に敏感な視細胞の機能に異常がある
・3型色覚には青に敏感な視細胞の機能に異常がある
光覚障害…光覚障害は目に光を感じて、光の強さを調整する機能に異常がある視覚障害です。明るい場所から暗い場所へ移動した際にうまくものが見えなかったり、逆に暗い場所から明るい場所に移動するとうまく見えなかったりといった症状や、さほど強い光ではなくても非常にまぶしく感じたり、目に痛みを感じたりするという症状があります。この光覚障害も身体障害者手帳の対象から外されています。

  視覚障害者はひとり暮らしができるのか?

 視覚障害の程度や他の重複障害の有無にもよりますが、特性や症状に合わせて工夫をしたり、支援機関を活用することで一人暮らしは可能です。
 バリアフリーや特別な設備が必要な場合、特性に合った物件を見つけることが難しい可能性もあり、入居に時間がかかることを意識的に注意しておく必要があります。
 障害程度区分の認定を受けることによって、区分により、地域生活支援事業の日常生活用具給付等のサービスが利用でき、電磁調理器、ポータブルレコーダーなど視覚障害者にとって便利な機器を受給できます。
 また、同じく認定を受けることにより、居宅介護サービスである、身体介護や家事援助、外出する際に同行者が付く同行援護などが利用できます。

  ひとり暮らしをする前にやっておくこと

《自分自身の障害の特性や症状について自己理解を深める》
まずは自分の障害がどの程度なのか、どういったときに症状が出やすいのかなど、自己理解を深めることで必要な支援について、行政の窓口や支援機関などに説明する時や、近隣住民に助けを求める時に冷静に相手にわかりやすく伝えることができます。また、なにか緊急の事態が起きた時の対策も立てやすくなります。
《家事に慣れておく》
ひとり暮らしをする前に必ずやっておきたいことは、ひとり暮らしを見越した自立訓練です。一通り家事をやってみることで、どのぐらいの体力や時間が必要かを把握しやすくなります。
この過程を経ることで、一人ではできない家事があるかないかを確認できるので、必要な支援を前もって想定することができるメリットもあります。できない家事がある場合は、支援機関や行政の障害福祉サービスの窓口に相談してみましょう。
《必要な生活費の把握・貯金をしておく》
一人暮らしをする際には、経済的に自立できるかも重要です。一人暮らしにかかる費用は総務省の家計調査によると平均で17万8542円となっています。
また、一人暮らしをしようと思っているエリアの単身者用の物件の家賃相場や、その地域の物価を把握しておくことも忘れないようにしましょう。都心と郊外、駅へのアクセス、マンションの安全や快適設備などによって家賃も大きく変わってきます。
就労できる場合は安定した賃金が望める仕事を確保するのはもちろんのこと、障害年金、医療費、公共交通機関、公共料金、税金などの減免制度、障害福祉サービスの上手な利用などにより、経済的な負担を大きく減らせることを知っておきましょう。
《何かあったときや、困りごとができたときの相談先・対処法を決めておく》
視覚障害がある場合、そうでない人よりも不慮の事故やトラブルなどに遭いやすいのも現実問題としてあります。そのため何か起こった時や、困りごとがあった時の相談先や対処法を決めておくことがおすすめです。
家族や信頼できる友人などがいる場合は、定期的な連絡を取るようにします。こちらから連絡がない場合は安否確認をしてくれるように依頼しておきましょう。このような相手がいない場合や、専門的な相談相手が欲しい場合は障害者の地域生活などを支援する機関を利用しましょう。

  ひとり暮らしをする際に必要なこと

物件探し…まず、物件を探す前に、自分にとって大事な条件は何なのか、予めしっかり考えておく必要があります。安全性や快適性、駅に近いなど理想を追えばキリがなく、物件探しは難しいものです。視覚障害があれば、当然、物件の視覚的な部分の様子はわかりにくいものです。家族など信頼できる人に同行してもらうことや、親身になって相談に乗ってくれる仲介業者を選ぶなどはもちろん大切ですが、物件のみではなく、周囲の環境を同行者と事前によく見て、視覚障害があっても生活がしやすいか確認しましょう。
生活に必要なものや家具を購入…家具や家電などの必要なものは家電量販店やホームセンターでも、視覚障害があることを相談すれば親身に適切な品を紹介してくれるでしょう。しかし視覚障害がある場合、バリアフリー設備や福祉器具の専門店に行くと、一般には出回らない製品や補助具を取り扱っている場合があります。また日常生活用具給付等のサービスが利用できれば、視覚障害者専用の機器などを格安で手に入れることができます。
住所の変更など必要書類を役所に提出…引越しをともなうひとり暮らしをする場合、同市町村内での引越しなら転居届、他の市町村への転出・転入ならそれぞれの市町村に転出、転入届を提出する必要があります。それ以外にも公的な手続きとしては国民年金保険、国民健康保険、マイナンバーカード、さらに職場、銀行、カード類、スマホなど自身名義で契約しているものも住所変更を届け出る必要があります。これらの届けは委任状や身元確認書類があれば代理人が行うことができるものもあります。
日常生活を一人で行う…料理、掃除、洗濯、水道、光熱費の支払いや、服薬管理など、家族と暮らしたり、グループホームなどを利用していた場合は、誰かがやってくれていた多くのことを自分でしなければなりません。ただし、これらをすべて自分で行うことが自立生活ではありません。必要な障害福祉サービスや、支給される補助具、支援機関による相談支援など、利用できるありとあらゆるものをうまく活用して一人暮らしを成功させましょう。

  視覚障害を持つ方が一人暮らしをする際の注意点

バリアフリー環境の整備

①住居内に障害者に適した環境を整備すること
視覚障害がある場合、ご自身の視覚障害に適した環境を作ることから始める必要があります。それ以前に予算の範囲内で、視覚障害に向いているバリアフリーやユニバーサルデザインが施された賃貸物件を探してみましょう。エレベーターの有無、床が全面フラット、玄関、廊下、浴室などの手すり、IHコンロ、各種音声案内、シンプルな間取り、引き戸などポイントはたくさんあります。最新の住宅ほど、バリアフリーやユニバーサルデザインを取り入れていますが、新築だと割高になるのが一般的です。
②転倒防止のために滑り止めの敷物や手すりを設置する
板張りのフローリングやタイル張りの浴室などは滑りやすくて危険です、滑り止めの敷物は設置しても、いつでも撤去できるので問題ありませんが、手すりの設置など賃貸住宅に増設する場合は必ず家主に許可を得るようにしましょう。退去時に原状復帰を求められることがあります。
③調理器具や家具の配置を工夫する
調理器具や食器などを置く場所は、取りやすさや、上に置くと落としてしまう危険性などを考えて、台所下の収納や背の低い食器棚などに仕舞うようにします。包丁やナイフ類はカバー付きのものを選び、使用後は必ずカバーを付けましょう。調味料入れは適切な分量が出るものが売られていますので、是非購入したいところです。
家具はできるだけ角や突起のないものを選び、壁沿いに並べておき、それぞれの置かれた順番を覚えておきましょう。家具の数は最小限にして、キャスターが付いているものや、動きやすいものは固定します。知らず知らずのうちに移動してしまって、ぶつかったりすることがあるからです。

防犯対策

視覚障害者にとって、外出時や帰宅時の安全確保が特に重要です。ドアの鍵の取り扱いや、オートロックの使用、盲導犬の利用など、防犯対策を考えることが重要です。

災害時の対応を把握しておく

視覚障害者にとって、災害時は通常の生活が大きく変わるため、災害時の情報収集方法や避難所の確認、必要な物資の用意などを事前に把握しておくことが重要です。緊急時には他の人も慌てていたり、犯罪も起こりやすいため、避難時は隣人や近隣の知人、支援機関のスタッフなどに誘導をしてもらえるように依頼しておくことをおすすめします。

  困ったときの相談窓口・支援機関

日本視覚障害者センター

日本視覚障害者団体連合が設置する日本視覚障害者センターは、視覚障害者の生活相談にのり、視覚障害者用の福祉用具の販売や、点字出版などをしています。全国に加盟団体があり、視覚障害者の総合的な支援をおこなっています。

視覚障害者支援総合センター

点字教科書の出版、点字の通信教育、就労継続支援事業所の運営、視覚障害に関する補助金や助成金事業もおこなっています。

【仕事に関する相談先】

障害者就業・生活支援センター

障害者雇用促進法に規定される障害者の就業と生活両面での相談支援を実施する機関です。就業面では、就業に関する相談支援、関係機関との連絡調整をおこないます。

就労移行支援事業所

通常の事業所に雇用されることを希望していてかつ、可能と見込まれる障害者に対して、就労に必要な知識やスキルの訓練、就職活動の支援や就職後のフォローなどをおこないます。

地域障害者職業センター

障害者の就労に関わる相談や支援(専門的職業リハビリテーション)をおこなう機関です。具体的には職業評価、職業指導、職業準備訓練及び職場適応援助などを提供します。

ハローワーク

就労を希望する日本国民に求人を紹介したり、その他の就労に必要な情報や知識、訓練を提供するなどして、その就労を支援します。障害者には、障害者雇用枠の求人を紹介しています。

障害者向け就職エージェント

厚生労働省の認可を受けて、障害者手帳を持つ障害者に対して、転職・就職活動を支援する民間の事業所です。事業所によって得意な業界が違ったり、独自の非公開求人などを持っています。障害者雇用枠の求人を紹介し、就活支援から採用後のフォローまでおこないます。

  まとめ

視覚障害があっても、就労やひとり暮らしの可能性は必ずあります。まずは自分自身の障害をよく理解し、向き合うことが重要です。次にひとり暮らしを支える経済的基盤が必要となりますので、専門機関やエージェントなどの支援や、障害福祉サービスなどをフルに活用し、自分に合った仕事を見つけ、不足する分は社会保障や給付金、税金の減免などで賄うようにしましょう。その上で、今回ご紹介した一人暮らしの準備や注意点などを参考にしていただき、ぜひ価値あるひとり暮らしを実現していただきたいと思います。

障がい福祉関連 過去記事

【←前のページへ戻る】