聴覚障害者とのコミュニケーション

困難をともなうコミュニケーション

 こどもの難聴が、“言語を獲得することの障害” をもたらすのに対して、すでに言語を獲得している大人の難聴は“情報を獲得することの障害”※です。大人であれこどもであれ、難聴は人とのコミュニケーションに障害をもたらすものです。
※情報保証…聴覚障害者に必要な情報が伝わりやすくなるような環境を整えることを「情報保障」といいます。“耳からの情報保障” としては、磁気ループやFM補聴システム等の「補聴援助システム」を用意し、より聞きやすくする方法があります。“目からの情報保障”としては、音声情報を文字に変えてスクリーンやタブレット端末画面などに映し出す「文字提示」、「要約筆記者」や「手話通訳者」を配置するなどの方法があります。

 聴覚障害者の悩みは、まず周囲からの音声情報が入りにくくなることです。“相手の言っていることがわからない、みんなが知っていることを自分だけ知らされなかった、そこで、もう一度言ってもらい何が起こったのか尋ねてみる、しかし、聞き取りにくいので、また繰り返してもらう、そして、なんとか理解したつもりでいたら、聞きまちがえていたらしく、とんちんかんな応対をしてしまった”。このようなやりとりが続くうちに相手もうんざりしてしまうものです。
 聴覚障害者にとってやりきれないのは、聞こえないことそのものより、話が通じないと相手にやっかいな人間だと思われ、コミュニケーションが閉ざされてしまうことなのです。

聴覚障害者のコミュニケーション方法

障がいの程度や聞こえのタイプの違いなどにより、希望するコミュニケーション方法にも個人差があります。

種類 説明・特徴
読唇 簡単な会話であれば口を大きく開けてゆっくりめに話すと聴覚障害者は判別しやすくなりますが、同音異義語などは区別が困難です。
補聴器 残存聴力に頼っています。話し手との距離があり、また雑音があると音声が埋もれて聞こえにくくなります。補聴効果は聴力個人差だけでなく聞こえの環境にも左右されます。
音声認識 音声認識機器やアプリ(UDトーク等)では、複数人が同時に発言すると認識率が低下します。マイクに向かって一人ずつ順番に発言してください。
筆談 読唇と併用する場合が多いですが、専門用語や業務指示に関することなど、間違いを避けるためお願いする場合があります。
手話・
ジェスチャー
「1と2」は、口の動きがよく似ています。数字を伝える時など、日常会話の際にジェスチャーは役立ちます。
ヒアリングループ 磁気誘導アンプヘ音声信号を通し、ループアンテナ(多芯ケーブル)に電気信号として送ります。話し手との距離に関係なく、専用マイクを通して、補聴器へ直接音を届けます。

話し方のポイント

話す場所:明るい所、話者の真正面がベスト。聴覚障害者の多くは、話者の口元を見てコミュニケーションを取っています。窓際だと、逆光で見えなくなることがあります。もし暗い所で話をする時は、スマホやパソコンに文字を入力するという手もあります。
口唇の動き:①「あ・い・う・え・お」の区別をはっきりと。②舌の動き、破裂音や濁音も重要。話者の口唇の動きから話の内容を類推する「読唇術」を使う聴覚障害者にとって、非常に大事な情報源となっています。そのため、耳元で話すと分からなくなります。口元が近すぎると、読み取りづらいことがあります。マスクを着用されている場合は、マスクを外すか、筆談をして下さい。なお、声の大きさが重要かどうかは、聴覚障害者によって異なります。
スピード:ゆっくりめがベスト。ゆっくりすぎるとかえって分からなくなる聴覚障害者もいます。聴覚障害者の反応を見て調節して下さい。
抑揚・区切りをハッキリと:×「 庭には鶏が二羽いました」、○ 「庭には、鶏が、二羽、いました」。

伝え方のポイント

ジェスチャーで補う:例)「二時」→ 2 を表す指の形にする。「虹」→ 大きく弧を描くように手を動かす
テーマを伝える:テーマが分かれば、それに関連する単語と口の形を照らし合わせて、内容をある程度類推することができます。テーマが変わったら、その都度お知らせ下さい。
文字で補う:筆談、空書き※、パソコンやスマホ入力など。あまり使わない言葉、外国語、専門用語は口の形から類推しづらいため、文字にすると分かりやすいです。「聴覚障害者」をというふうに記号化することで書く労力や時間を省くテクニックがあり、これは「要約筆記」と呼ばれます。
※空書き:空中に指で大きくその文字を書くこと
関連するイラスト、写真、資料で補う:話者の口と資料の両方を見る必要があるため、話す方向と資料の向きを合わせ、話している箇所を指さして下さい。

最後に……

 聴覚障害とは、音や人の声が聞こえづらい、または全く聞こえないという障害のことを言います。聴覚障害は生まれつきのものもあれば、事故や病気、加齢が原因となるものもあります。聴覚障害は、障害がある部位によって伝音性難聴、感音性難聴、そしてこの二つの特徴をあわせもった混合難聴の三つに分けることができます。
伝音性難聴は外耳から中耳までに障害があるもののことをいい、感音性難聴とは内耳から中耳神経にかけて障害があるものを言います。聴覚障害と一口に言っても、聞こえ方はひとりひとり異なります。音が小さくなったり聞き取りづらくなったりするタイプや、音質がゆがんだようになるタイプ、補聴器を付けても声や音が全く聞こえないタイプなどさまざまです。
 聴覚障害のある方が一般の会社で働く場合には、本人の工夫も大切ですが、周囲の人の理解と配慮もまた重要になってきます。聴覚障害のある方もない人も、双方がスムーズなコミュニケーションを取ることができるように、コミュニケーションの方法を考え、円滑な関係を築いていけるようにしてください。

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