ヤングケアラー支援の一連のフローは以下が基本となります。支援の前提として、支援の基盤づくりができていることが必要です。
フローの概要説明
- どの段階においても、こどもにとって話しやすい環境での対話を意識しましょう。場合によっては気付いた機関やヤングケアラーが話しやすい機関や支援者がこどもと対話を行いながら、関係者で共有をして支援を進めていきます。
- 気付いた機関が、組織として、緊急性の判断やYCCへのつなぎの判断をします。基本的には、各職員は機関内でケース共有・検討し、連絡担当者がYCCにつなぎましょう。
- YCCへのつなぎを待たず、例えば学校であれば校内ケース会議で検討の結果、「伴走・寄り添い型支援」(こども食堂や学習支援の場)をヤングケアラーと思われるこどもに先行して紹介すること等は構いません。
- 家族状況や本人のケアの負担の変化、本人のライフステージの移行の際には、「支援する」のフェーズに戻り、本人や家族のニーズを確認し、支援方針を検討し直します。
ヤングケアラーと思われるこどもに気付くポイント
①支援機関別の気付きのポイント
前述のように、ヤングケアラーは自らがヤングケアラーだと相談をしてくるケースは多くなく、関係者が「気付く」ことが必要です。
日々の業務の中で、もしかしたらヤングケアラーではないか、ケアの対象者の家族にヤングケアラーがいないかなど、家族全体を見る視点が大切です。例えば、家族構成の変化などにより生活環境が変わった場合は、こどもが家事を担うきっかけになる可能性もあります。
②アウトリーチの重要性
本人・家庭には自覚がなく支援サービスが届かない可能性があるため、アウトリーチ(訪問等による情報の伝達)が重要です。また、サービスを認識していても、学校等に行っているこどもが支援相談窓口などに問い合わせることには様々な障壁があります。
既に家族が何らかのサービスを受けている場合は、普段から家族と接点のある担当者が日頃から様子を気にかけたり、家族に対しても困ったことがあったら話してほしい旨を伝えておくことで、ヤングケアラーと思われるこどもに早期に気付ける可能性があります。訪問系サービスの場合は、自宅訪問時に、ケア対象の家族だけでなく本人とも会話をするなど日頃から気にかけることで、ふとしたときに本人が相談をしてくれる可能性があります。
民生児童委員等による訪問時にケアの状況を把握することができたケースもあり、地域も含めた支援機関・関係者で、ケースに応じ分担し、本人・家族の負担にならない方法でアプローチできるとよいでしょう。
③つなぐ際のポイント、本人同意・情報共有について
気付いた内容や相談を受けた内容は、YCCに情報共有しましょう。気付いた様子から自部署における支援がふさわしいと判断した場合も、その旨をYCCに伝達しましょう。気付きから支援において本人・家庭と対話する際は以下を参考にしてください。
【本人同意について】
ヤングケアラーへの支援を検討するにあたり、個人情報を関係機関と共有する際の前提として、ヤングケアラー本人やその家族から同意を得ることが必要となります。*
本人同意は早い段階で取得できると、円滑になります。一方で、同意の取得には時間がかかる場合があります。本人やその家族から同意を得る際には、例えば、「同じことを何度も話すのは大変だと思うので、私からお伝えしてもよろしいですか。」と情報を共有することのメリットを伝えたり、情報共有先でも個人情報は守られることを伝えたりすることで安心してもらう、といった工夫が考えられます。*
本人や家族の同意が得られる場合には、事前に、多機関連携を視野に入れた包括的な同意を取っておき、この先、相談支援のために関わる機関において情報を共有することになることを説明するのが良いでしょう。
【本人同意が取れない場合】
本人同意がとれていない状態では、まずYCCへの相談段階では名前等は伏せてケースの状況のみ伝え、本人へのアプローチも含め相談するとよいでしょう。
包括的な同意が取得できると、迅速な支援ができますが、同意が得られなくても対話を続けていき、関係性の構築とともに支援を続けていきましょう。なお、採用するネットワークによって、緊急度によっては「本人同意がなくても会議体で情報共有が可能」です。
支援方針決定のポイント
①緊急性の判断
緊急性の判断は、YCCが行いますが、気付いた機関がその時点で「虐待に当たる可能性が高い」と判断した場合は、直ちにこども家庭支援センターや児童相談所に通告することが必要です。
その場合もYCCに情報共有は行ってください。(他の機関からも、当該こどもについて、YCCに連絡が来ている可能性があるため)
ヤングケアラーと思われるケースの中には児童虐待に至っているケースがあります(「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」)。具体的には、こども本人や家族の命に危険が及んだり、心身に危険が及んだりする可能性がある、重大な権利侵害があると思われる等、緊急性を要する場合、こども家庭支援センターや児童相談所で児童虐待として対応が行われます。
なお、この時点で緊急性の判断がなされなくても、その後の状況の変化により緊急性が生じた場合は、介入が行われる可能性があります。
②ヤングケアラー本人や家庭の状況の把握・ニーズの確認
緊急性を要しない場合には、フローに沿ってヤングケアラーと思われる場合の支援を行います。YCCが主導しつつ、気付いた機関等とともに本人や家族と対話しながら状況を確認し、意向を聞き、支援の方向性を検討します。
1.本人又は家族 との対話 |
● 初めに気付いた機関、YCC、関係性がすでに構築できている 関係機関等が対話 ● 対話の中で、ケア内容の大枠、家族がすでに受けている 福祉サービス等を含めたケアの全体像、関係機関等について把握する |
2.ケアの内容、量、 本人に与える影響や 本人の認識等の確認 |
● 本人が行っているケアの内容やケアに費やす時間、 本人の健康状態・生活状況、ケアすることによる影響、こどもの権利が守られているか、ケアすることについての本人の認識や感情等を確認する ● 本人は認識していないことも多く、「本人と一緒に確認」すること自体に意味がある |
3.本人のニーズの 確認・方向性の検討 |
● 本人のニーズ・生活への希望を聞く ● 本人や家庭の意向があれば、受けられる支援の説明、本人が利用したい制度、なりたい姿などについて一緒に検討する |
あくまでも基本パターンであり、ヤングケアラーと思われるこどもに気付いた機関や地域の関係機関等が本人と関係性を築けている場合は、YCCの同席を急がず、当該機関が対話を担当することもあります。本人や家族が安心して話せる支援機関が最初の対話をすることが大切です。
無理に聞き出さず、初めのうちは聞き取れる範囲で聞きましょう。
また、ケアの状況や家庭の状況は、既にケアを受ける家族向けのサービス提供等で関わっている機関からも情報共有を受けると、概要把握がスムーズな可能性があります。
さらに、本人の気持ちやニーズを丁寧に聞いていくには、ピアサポートサロン等の「共感型支援」やこども食堂等の「伴走・寄り添い型支援」を活用することも有効です。本人の意向に応じ、柔軟に対応してください。
その場合も、関係機関はYCCと密に連携し、助言を受けたり相談をしたりすることができます。
③多機関連携の検討について
本人から聞き取った情報や、家庭環境等の情報から、多機関連携の必要性や連携先機関をYCCが検討します。ケアをしている人が複数人、ケアの内容が複合的な場合は連携が必要になることが多くあります。
ケースにより連携先は変わります。
なお、単独機関の支援で対応できるように思われる場合も、「共感型支援」等で精神面等でより本人のサポートになることもあります。YCCと相談しながら、どのような連携がふさわしいか考えましょう。
④ヤングケアラーと対話する際のポイント
〇本人の意思尊重
本人の意思を確認することなく、本人からの相談内容を家族に伝えることは原則的にしてはいけません。本人との関係性が崩れるだけでなく、本人と家族の関係性が悪化する危険性もあります。*
本人と家族の意向が違う可能性もあり、例えば親のケアをしている場合に親と一緒の場では本心を言えないこともあります。家族とは別の場所で意思を確認することで本心を聞けることもあります。
また、本人が選択できるような支援体制を作っていく必要があること、そして、本人が選択する前段階であれば選択の機会を得られることを本人に伝える必要があります。本人の意図しないところで支援が勝手に進められないように留意をしましょう。
〇将来のイメージや選択肢を示しながら本人の希望を聞く
家族のことが心配で、本人が望んでケアをしている場合もありますが、ケアの負担が客観的にみて過度な場合は、支援者が本人と一緒に考えていきましょう。支援のイメージを当事者が持てないまま、本人同意が得られず支援を拒否されてしまうことを避けるため、選択肢等を示したうえで本人の希望を聞くことが大切です。
「共感型支援」で、元ヤングケアラー等から体験談を聞いたり相談にのってもらうことで、将来のイメージが湧くこともあります。
(例 ケアが続く状況で進学するとこうなるかもしれない、といった将来の想像を一緒に行い、支援サービスを例示したうえで、本人の希望を聞く。)
〇本人の希望を聞くためのシート
フェイスシートやイギリスノッティンガム大学社会学&社会政策学部が作成した「MACA-YC18」「PANOC-YC20」シートがある。